先生の新作のために

二ッ木ヨウカ

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第6話 死の広告(検索)

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 そこまで話し終えた頃には、サンクさんの頼んだトマトペンネは半分ほど彼女のなかに消えていた。

「あの、似たような怪談とか……ご存じないですか? こうやったら助かった、とか、対処法のセオリーとか」

 聞かれた私は、ううん、と腕を組んで唸った。

「私は単に先生の代わりに怪談を集めているだけで……そういうのはちょっと専門外でして」

 霊能力があるわけでもないし、怪異対処のエキスパートでもない。残念ながら、そういったノウハウは持ち合わせがないのだ。

「ちなみにその広告の画像とかは……ない、ですかね?」

 私が念のため尋ねると、「やっぱり、嘘っぽいですよね」とサンクさんは残ったペンネを食欲なさそうにつつきまわした。

「いや、そういうわけではなくて。画像を見れば何か気づくこともあるかなと思ったのですが」
「ああ……そうですよね、すいません。そもそも撮ってませんし、スマホも捨ててしまったので」
「ですよね」

 落胆している様子を悟られないように微笑みを浮かべて頷き、私は話を聞いている最中ずっと気になっていたことを口にした。

「ところで、『スマホに変な広告が出てくる』ということでしたが、スマホ以外では表示されないんですか?」
「スマホ以外……ですか?」
「そうです。パソコンとかタブレットとか。お仕事で使ったりされてませんか?」

 ああ、とサンクさんは視線を上に彷徨わせ、考え込む素振りを見せた。

「どうなんでしょう。タブレットもパソコンも持ってませんし、仕事も……ショップ店員なので、パソコンと言っても稀に発注画面見るくらいで、あんまり……」
「なるほど、じゃあ出てるかどうかわからないですね」

 私がメモを取っていると、「あ! でも」とサンクさんは私に視線を戻した。

「副部長は在宅で仕事してるんですが……その最中も気持ちわるい、って言っていたんで、パソコンとかでも表示されているのかもしれません」

 副部長。サンクさんと同じ生き残り組だ。その人からもぜひお話を伺いたいところである。

「その方の連絡先って、教えていただくことはできますか? もしかしたら手がかりが増えるかもしれませんし」
「そ……そうですね、ちょっとすぐには分からないんですが……探してみます」

 眉を寄せるサンクさんに、よろしくお願いします、と私は軽く頷いた。

「私の方でも、家に戻ったら先生に何か類似の話がないか聞いてみますね」
「ありがとうございます……」

 そう言ってカサついたペンネを口に押し込むサンクさんに私は笑いかけた。

「でも、そんなに心配しなくても大丈夫じゃないですか? お仕事でもほとんどパソコンに触らないわけですし、最大の危険物であるスマホも捨てちゃったわけですし。ちょっと不便かもしれませんけど」
「そ、そうです……よね?」
「それに、検索や履歴に応じて表示される……リタゲ広告でしたっけ、あれって、確か何か月間とか設定期間があって、それ超えたら表示されなくなるはずですよ」
「あ、え、そうなんですか!」

 私の言葉に、面白いように彼女の顔が明るくなる。
 まあ、謎の広告がその仕組みに従って表示されているかどうかなんて、私には知る由もないのだけれど。というか、そもそもその広告と部活仲間の行方不明や死が関連づいているというのもサンクさんの推測に過ぎない。

「だから、今……3カ月くらいでしたっけ? しばらく待っていればまた元通りになるんじゃないでしょうか」
「で、ですよね! ですよね! ああーよかった……」

 はあっと大きく息をついたサンクさんに、連絡先を書いた名刺と、謝礼代わりの先生の著作を渡す。店の外から大きく手を振る彼女に軽く手を振り返し、私はスマホの検索欄に「検索してはいけない言葉」と打ち込んだ。

「これは……骨が折れそうですね」

 ずらっと出てくる語句を、それでも1つずつ、片っ端からチェックしていく。
 だが案の定、私のスマホに表示される広告にサンクさんの報告のようなものはない。変な健康食品やサプリの広告が増えたような気がするが、そんなものだ。

「うーん」

 時間もかかりそうだし、いったんここは切り上げて帰ろうかな。

 そう考えながら機械的に手を動かしていると、突然ぽん、と音がした。

 何だろうと顔を上げると、ファミレスの注文用タブレットに「お客様のお声をお聞かせください!」とポップアップが表示されていた。特に不満もなかったので「満足した」をタップして送信すると、バイト募集や新メニューなどの動画が流れ始める。

「……まあ、それまで逃げ切れれば、かもしれませんね」

 広告が表示されるのは、何も自分所有のスマホやパソコンだけとは限らない。
 肩をすくめて、私は立ち上がった。
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