そばにいる人、いたい人

二ッ木ヨウカ

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「う、わぁ……!」

 見回すと、アトラクションや売店、植え込みがキラキラと輝いている。まるで、天の川の中にでも来てしまったようだった。中でもひときわ存在感があるのは大きな観覧車で、大きな花のように虹色の光をぐるぐると点滅させている。

「ジュン、もう一回観覧車乗ろうよ」

 光を指さして、淳哉を振り向く。観覧車には昼にも乗ったが、きっと今は違う景色が見れるだろう。そうだな、と頷く淳哉と一緒に列に並ぶと、程なくして順番がやってきた。

「いってらっしゃいませ!」

 ゆっくりと回るゴンドラに乗り込むと、にこやかな笑顔を浮かべた係員が扉を閉めた。その途端、あれほどにぎやかだった音がしんと遮断される。

(あれ、こんなに静かだったっけ)

 不意に訪れた静寂に、樹は居心地の悪さを感じた。昼間に乗った時は、窓から外の景色を見るのに忙しくてそれどころではなかった。向かいに座る淳哉を見ると、頬杖をついて窓の外を眺めていた。ちらちらと眼鏡にイルミネーションが反射している。
 雪のようだ、と思った。

「あー……肉買うのって、駅前のスーパーでいいかな」

 遠くを見つめたままの淳哉に言われ、樹は唐突に現実を突きつけられた気がした。帰りにすき焼きの材料を買って、夕飯に作ろうという話をしていたのを思い出す。

(材料買って、作って……で、食べたら、今日も……帰っちゃうのかな、淳哉)

 嫌だ、と思った。

「ねえ、ジュン、僕……あの日のこと、気の迷いじゃ、ないから」

 カラフルな光に照らされた肩が、びくりと震えるのが見えた。

「言ったと思うけど、須野原先輩といて……今更なんだけど、すごく淳哉が僕のことを大切にしてくれてたことに気づいたんだ。自信持っていいってずっと教えてくれてて、それで、だから……もっと……」
「違う」

 窓の外を見ながら、淳哉は樹の言葉をピシャリと否定してきた。高くなったゴンドラの外には、光る遊園地と、その向こうに広がるビル群が見える。するするとその間を縫って走る電車は、多分樹たちが帰りに乗るのと同じ方向だ。

「俺は……自分のことしか考えてないんだ」
「そんなこと……」
「聞いてただろ、イツキも」

 暗がりの中で、淳哉の顔が、声が、苦しそうに歪む。

「……俺は、須野原を盗撮してたし……バイト先や彼女とかも……SNSで特定したり、友人から聞き出したりして全部調べてた。あの日だって尾けてたし」

 あんなタイミングで出てくるのおかしいだろ、と小さく笑う。

「でも、それは僕を心配してくれたんじゃ」
「まさか。ただ……あいつがどんなにダメな奴かを調べて、留飲を下げたかったんだ」
「……」
「ずっと樹を肯定してきたのだって打算だよ。もちろん樹はもっと自信を持っていいと思うし、それだけの価値はある。けど、それ以上に……イツキの母さんあんなんだから、俺が隣でイツキを認めて、後押ししていけばイツキは絶対に俺に懐くと思ったからだ。実際そうだったろ?」
「そんな……」
「でも情けないことに、そこまでしてるのに、友人以上の関係性になるのは怖くて、何もできなかったんだ。付き合えたとしても、別れたりしたらそのあと二度と会えなくなるだろ。それが嫌でたまらないんだ」

 観覧車は頂点に近づいていた。ゆるゆると遠ざかる景色の上には、薄く煙った半月がぼんやりと浮かんでいる。

「そのくせイツキが誰かと……っていうのも許せなくて、だから……騙してホテルに連れ込んだし、あの日だって黙ってられなくて出て行っちゃったし、今日だって、樹が絶叫マシンに乗りたがってるのは知ってたけど……ほかの奴と行ったり、あるいは須野原の思い出としてチケットを取っておいたりしたらと思うと耐えられなかったんだ」

 一気にそこまで話すと、頬杖を解いた淳哉はこつんと頭を窓にもたせかけた。
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