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滋ヶ崎、戻る
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「マルちゃんご飯だよー、ちょっとでいいから食べようかー」
「うう……」
祝の声にのそのそと体を起こしたマルコシウスは、部屋の襖に目をやった。ちょうどお盆に丼を乗せた祝が部屋に入ってくるところである。
「元から細かったけど、すっかりガリガリだねえ。しんどいのは分かるけど、食べないと保たないよ?」
ローテーブルの上にお盆を置いた祝は、ズリズリとテーブルを引っ張ってマルコシウスの隣にテーブルを運んだ。今日のメニューはうどんとかいう白い麺類のようだ。
「はい、あーん」
「自分で、できますんで……」
うどんを差し出してくる祝の箸を受け取り、半ば義務感で口の中に突っ込む。吐き出してしまいたいのを堪え、なんとか咀嚼して飲み込む。
「しょっちゅう発情期来るのって、気持ちよさそうだし子ども増やしまくりで楽しそうだなあって思ったけど、そうでもないんだねえ」
「そう、ですね……」
周期を待たずしてしょっちゅうヒートになるのは、ストレスがかかると本能的に身体が子孫を残そうとしてしまうΩの体質のせいである。なりたくてなっているわけではないし、マルコシウス自身が子どもを欲しいと思っているわけでもない。
ヒートの時に番契約をした相手――それが「運命」ではなくとも――に抱かれ、子どもを作るのはΩとして至上の喜びと聞いたことはあるが、マルコシウスは本当かどうか知らない。
(知りたいとも、思わないけど)
ここにαはいないのだから、この先自分が番の契約をすることもない。子どもを欲しいと思えるほど好きになれる相手が現れる気もしないし、とまたうどんを口に運ぶ。
不意に背中を撫でられ、マルコシウスはびくりとなった。
「ねーマルちゃん、やっぱ僕じゃ駄目? そんな我慢しなくても良くない?」
「ん、ううっ……」
思わず箸を取り落とし、マルコシウスは小さく声を上げた。全身が敏感になっているときにそういうことをしないで欲しい。
「滋ヶ崎はああ言うけどねえ、正直僕テクニックには自信あるからね? 痛くなんて絶対しないし、子どもできたらちゃんと育てるし。ね、いいでしょ?」
「ん……っ」
腰骨のあたりに尾を巻かれ、マルコシウスはくたりと力を失って祝に寄りかかった。
「そんなに滋ヶ崎のことが好き? 妬いちゃうなあ」
「そういう……わけ、では……」
滋ヶ崎にだって、本当は抱かれたくなんてない。ただ一応自分の所有者であるし、この世界で生きていくために仕方ないと思っているだけである。
多分。
今ですら、別に早く帰ってきてこの身体を宥めて欲しいなんて思ってない。1週間くらい寝ていればそのうち治まるのだから放っておいてくれればいいのだ。
そうは思うものの、優しく頭を撫でられ、首輪の中を掻かれると体は反応してしまう。
「うぅー、ふぁ……っ」
「お、気持ちいい? ほれほれー」
もっとして欲しい。嫌だ。泣きそうになりながら服の裾を握り込む。なんでこんな風に生まれついたんだ。
しゃららん、と遠くから涼しげな音がした。
「あ、滋ヶ崎帰ってきたかな?」
「ん……」
祝に寄りかかったまま出迎えるのは良くないだろうか。分からない。離れたくない。どうせどう出迎えても滋ヶ崎が喜んでくれるわけじゃないし。でも一応この身は滋ヶ崎のものだし、怒られるだろうか。迷いながらそのまま祝に身を預けていると、足音が近づいてきて襖が開いた。
「あ、おかえり~」
そこに立っていた滋ヶ崎は、出て行ったときのままの格好をしていた。だが同じなのはそれだけで、服のあちこちに裂け目や焦げ目ができており、目の下にはくっきりと隈ができていた。
「……」
ちらりとマルコシウスを見た滋ヶ崎は、ふっと口の端だけで笑った。そのままマントとライトアーマーを脱ぎ捨て、マルコシウスが入っていた布団に倒れ込む。
「お疲れさまー」
「ん……」
目を閉じた滋ヶ崎に祝が布団をかけ直していると、ピーピーと硬質の音が袂から鳴り響いた。
「あ、呼ばれたから行くね! 食べれそうだったら食べてねー」
おにぎりを残し、マルコシウスから体を離した祝が部屋を出ていく。パタパタと遠ざかっていく足音が消えてから、マルコシウスは横で寝る滋ヶ崎を見た。
(……ボロボロだ)
何をしていたのだろう、と思うがきっと聞いても滋ヶ崎は答えないだろう。すでに生きるのに困らない程度の資産はあるのだし、なぜこんなにまでして滋ヶ崎が働いているのかマルコシウスには不思議だった。頼られて助けることに幸せを見出すタイプでもなさそうだし。
「天翔ける息吹よ、彼を癒やし給え」
まともに使える、数少ない魔法の1つ、治癒魔法をかけてやる。と言ってもマルコシウスの力では「なんとなく傷の治りが早くなる」くらいなのだが、しないよりはマシだろう。布団の端をめくり、滋ヶ崎の隣に入る。
(臭っ……)
汗と獣のような体臭、それから泥と血の匂いがする。納屋を思い出して、心細くなったマルコシウスは滋ヶ崎にしがみついた。
「ああもうっ!」
その途端、突然叫んで滋ヶ崎は飛び起きた。
「畜生っ、キマりすぎて全然眠れねえ! 何なんだあの薬はよおっ……!」
ボリボリと頭を掻きながら叫ぶと、布団の上に取り残されたようになっているマルコシウスを見下ろした。
「お、ちょうどいいやお前、相手しろ」
「へっ?」
マルコシウスが呆然としているうちに滋ヶ崎はぽいぽいと残りの服を脱ぎ、マルコシウスを仰向けにさせた。
「ちょっ、康弘っ、汚っ……」
「うるせえな、どうせ汚れんだからいいだろ」
むしり取るように服を取られた、と思ったら指先がマルコシウスの後孔に刺さっている。
「ひゃあっ」
「よしよし、濡れてんな」
あてがわれた屹立を、前戯も何もなく強引に挿入される。
「や、やっ、待っ、て……! い、今したらっ」
「うるせえメス穴、黙れ」
「あう」
乱暴なのに、嫌だと思うのに。
滋ヶ崎に犯されるのはどうしようもなく気持ちいい。
自分の中を押し広げてくる塊が脳内を溶かしていくのを感じながら、マルコシウスは最後に残った理性で制止の声を上げようとして、だが結局開いた口からはもう嬌声しか漏れてこなかったのだった。
「マールちゃん、滋ヶ崎、お夕飯何が……おりょ?」
あたりがすっかり暗くなった頃。襖を開けた祝が見たのは、裸のまま抱き合って眠る二人だった。
「もー、布団かぶって寝ないと風邪引いちゃうでしょ!」
滋ヶ崎の足元に蹴り飛ばされたと思しき布団をひっぱり上げ、二人にかかるようにかけ直す。
「んふふ」
それから含み笑いをした祝は、部屋の電気を付けてそうっと出ていったのだった。
「うう……」
祝の声にのそのそと体を起こしたマルコシウスは、部屋の襖に目をやった。ちょうどお盆に丼を乗せた祝が部屋に入ってくるところである。
「元から細かったけど、すっかりガリガリだねえ。しんどいのは分かるけど、食べないと保たないよ?」
ローテーブルの上にお盆を置いた祝は、ズリズリとテーブルを引っ張ってマルコシウスの隣にテーブルを運んだ。今日のメニューはうどんとかいう白い麺類のようだ。
「はい、あーん」
「自分で、できますんで……」
うどんを差し出してくる祝の箸を受け取り、半ば義務感で口の中に突っ込む。吐き出してしまいたいのを堪え、なんとか咀嚼して飲み込む。
「しょっちゅう発情期来るのって、気持ちよさそうだし子ども増やしまくりで楽しそうだなあって思ったけど、そうでもないんだねえ」
「そう、ですね……」
周期を待たずしてしょっちゅうヒートになるのは、ストレスがかかると本能的に身体が子孫を残そうとしてしまうΩの体質のせいである。なりたくてなっているわけではないし、マルコシウス自身が子どもを欲しいと思っているわけでもない。
ヒートの時に番契約をした相手――それが「運命」ではなくとも――に抱かれ、子どもを作るのはΩとして至上の喜びと聞いたことはあるが、マルコシウスは本当かどうか知らない。
(知りたいとも、思わないけど)
ここにαはいないのだから、この先自分が番の契約をすることもない。子どもを欲しいと思えるほど好きになれる相手が現れる気もしないし、とまたうどんを口に運ぶ。
不意に背中を撫でられ、マルコシウスはびくりとなった。
「ねーマルちゃん、やっぱ僕じゃ駄目? そんな我慢しなくても良くない?」
「ん、ううっ……」
思わず箸を取り落とし、マルコシウスは小さく声を上げた。全身が敏感になっているときにそういうことをしないで欲しい。
「滋ヶ崎はああ言うけどねえ、正直僕テクニックには自信あるからね? 痛くなんて絶対しないし、子どもできたらちゃんと育てるし。ね、いいでしょ?」
「ん……っ」
腰骨のあたりに尾を巻かれ、マルコシウスはくたりと力を失って祝に寄りかかった。
「そんなに滋ヶ崎のことが好き? 妬いちゃうなあ」
「そういう……わけ、では……」
滋ヶ崎にだって、本当は抱かれたくなんてない。ただ一応自分の所有者であるし、この世界で生きていくために仕方ないと思っているだけである。
多分。
今ですら、別に早く帰ってきてこの身体を宥めて欲しいなんて思ってない。1週間くらい寝ていればそのうち治まるのだから放っておいてくれればいいのだ。
そうは思うものの、優しく頭を撫でられ、首輪の中を掻かれると体は反応してしまう。
「うぅー、ふぁ……っ」
「お、気持ちいい? ほれほれー」
もっとして欲しい。嫌だ。泣きそうになりながら服の裾を握り込む。なんでこんな風に生まれついたんだ。
しゃららん、と遠くから涼しげな音がした。
「あ、滋ヶ崎帰ってきたかな?」
「ん……」
祝に寄りかかったまま出迎えるのは良くないだろうか。分からない。離れたくない。どうせどう出迎えても滋ヶ崎が喜んでくれるわけじゃないし。でも一応この身は滋ヶ崎のものだし、怒られるだろうか。迷いながらそのまま祝に身を預けていると、足音が近づいてきて襖が開いた。
「あ、おかえり~」
そこに立っていた滋ヶ崎は、出て行ったときのままの格好をしていた。だが同じなのはそれだけで、服のあちこちに裂け目や焦げ目ができており、目の下にはくっきりと隈ができていた。
「……」
ちらりとマルコシウスを見た滋ヶ崎は、ふっと口の端だけで笑った。そのままマントとライトアーマーを脱ぎ捨て、マルコシウスが入っていた布団に倒れ込む。
「お疲れさまー」
「ん……」
目を閉じた滋ヶ崎に祝が布団をかけ直していると、ピーピーと硬質の音が袂から鳴り響いた。
「あ、呼ばれたから行くね! 食べれそうだったら食べてねー」
おにぎりを残し、マルコシウスから体を離した祝が部屋を出ていく。パタパタと遠ざかっていく足音が消えてから、マルコシウスは横で寝る滋ヶ崎を見た。
(……ボロボロだ)
何をしていたのだろう、と思うがきっと聞いても滋ヶ崎は答えないだろう。すでに生きるのに困らない程度の資産はあるのだし、なぜこんなにまでして滋ヶ崎が働いているのかマルコシウスには不思議だった。頼られて助けることに幸せを見出すタイプでもなさそうだし。
「天翔ける息吹よ、彼を癒やし給え」
まともに使える、数少ない魔法の1つ、治癒魔法をかけてやる。と言ってもマルコシウスの力では「なんとなく傷の治りが早くなる」くらいなのだが、しないよりはマシだろう。布団の端をめくり、滋ヶ崎の隣に入る。
(臭っ……)
汗と獣のような体臭、それから泥と血の匂いがする。納屋を思い出して、心細くなったマルコシウスは滋ヶ崎にしがみついた。
「ああもうっ!」
その途端、突然叫んで滋ヶ崎は飛び起きた。
「畜生っ、キマりすぎて全然眠れねえ! 何なんだあの薬はよおっ……!」
ボリボリと頭を掻きながら叫ぶと、布団の上に取り残されたようになっているマルコシウスを見下ろした。
「お、ちょうどいいやお前、相手しろ」
「へっ?」
マルコシウスが呆然としているうちに滋ヶ崎はぽいぽいと残りの服を脱ぎ、マルコシウスを仰向けにさせた。
「ちょっ、康弘っ、汚っ……」
「うるせえな、どうせ汚れんだからいいだろ」
むしり取るように服を取られた、と思ったら指先がマルコシウスの後孔に刺さっている。
「ひゃあっ」
「よしよし、濡れてんな」
あてがわれた屹立を、前戯も何もなく強引に挿入される。
「や、やっ、待っ、て……! い、今したらっ」
「うるせえメス穴、黙れ」
「あう」
乱暴なのに、嫌だと思うのに。
滋ヶ崎に犯されるのはどうしようもなく気持ちいい。
自分の中を押し広げてくる塊が脳内を溶かしていくのを感じながら、マルコシウスは最後に残った理性で制止の声を上げようとして、だが結局開いた口からはもう嬌声しか漏れてこなかったのだった。
「マールちゃん、滋ヶ崎、お夕飯何が……おりょ?」
あたりがすっかり暗くなった頃。襖を開けた祝が見たのは、裸のまま抱き合って眠る二人だった。
「もー、布団かぶって寝ないと風邪引いちゃうでしょ!」
滋ヶ崎の足元に蹴り飛ばされたと思しき布団をひっぱり上げ、二人にかかるようにかけ直す。
「んふふ」
それから含み笑いをした祝は、部屋の電気を付けてそうっと出ていったのだった。
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