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23 そして凪が残る
しん、と風が止まった中、海は静かに揺れている。
「……灯真」
やがてかけられた声に振り向くと、隣に立った唯人と目線が合った。
自分のことを見て、名前を呼んでくれる。
それだけのことなのに、胸がいっぱいになって、目から感情がこぼれてくる。
「はい……っ!」
明るくなってきた中でよく見ると、二人とも酷い格好だった。唯人も灯真も髪はぼさぼさでよれた部屋着だし、灯真にいたっては素足で砂だらけだ。
けれど、そこには嵐を乗り越えたような清々しさがあった。
灯真が笑いかけると、唯人は苦笑を浮かべて海を見た。
「俺……夏子のことも、灯真のことも、何もわかってなかったんだな。なのにずっと保護者面して、上から目線で灯真のこと守ろうとしてて……今、すげえ恥ずかしいんだけど」
「そんなことないです」
灯真は覗き込むように首を傾げ、唯人を見上げた。逃げそうな視線を追う。
「僕は……あの日、オーナーが守ってくれなかったら、きっと今頃生きてません。それに、今日戻ってこれたのだって、オーナーが僕の言葉を信じていてくれたからです」
唯人が教えてくれなければ、ずっと「自分がいないこと」が最適解だと疑っていなかっただろう。
「だから、僕が今ここにいられるのは、オーナーのおかげです」
唯人の手を、両手で包みこむ。
すり抜けた。
「……えっ?」
何が起こったか分からず、灯真はもう一度唯人の手を取ろうとした。触れない。
「な、なんで……」
差してきた朝陽が二人を照らして、灯真の影だけが岬に伸びた。
うそ、と小さく呟く灯真の前で、唯人もまた輪郭が崩れていく。
崖に来た唯人に対する違和感が形になる。あの時、彼が灯真の霊を認識していたからだ。霊に戻った夏子とも話していた。
そんなことができるのは――灯真か、幽霊だけのはずなのに。
「あー、さっきほら、夏子と揉み合ったときに頭ぶつけて、さ」
「そんな」
「いや、なってみてわかったけど幽霊って結構しんどいな。ほんとすごいよ、灯真も……夏子も」
「待って、まだ、僕全然、なにも」
朝陽に溶けるように崩れていく唯人をかき集めようと、宙に手を伸ばす。だが確かにそこに見えているのに、灯真の手をすり抜けて唯人が消えていく。止められない。
「やだ、行かないで、だって一緒にいるって」
「……俺も、そのつもりだったんだけど。ちょっと無理かも」
「なん……っだよ、それ!」
やっと、戻ってきたのに。これからだと思ったのに。
嬉しかったはずの涙が、悲しみと憤りの水に変わっていく。
「大丈夫だよ、灯真なら」
唯人の手が、灯真の頭を撫でるように動く。
「何がだよ! なにも大丈夫じゃないだろ! 僕一人で何ができるってんだよ!」
無駄だと分かっていても、それでも唯人を引き留めようと手を伸ばしてしまう。
笑った唯人が口を開いて、けれどもその言葉は聞こえなくて。
「唯人さん!」
崖の上には、灯真だけが取り残された。
「……灯真」
やがてかけられた声に振り向くと、隣に立った唯人と目線が合った。
自分のことを見て、名前を呼んでくれる。
それだけのことなのに、胸がいっぱいになって、目から感情がこぼれてくる。
「はい……っ!」
明るくなってきた中でよく見ると、二人とも酷い格好だった。唯人も灯真も髪はぼさぼさでよれた部屋着だし、灯真にいたっては素足で砂だらけだ。
けれど、そこには嵐を乗り越えたような清々しさがあった。
灯真が笑いかけると、唯人は苦笑を浮かべて海を見た。
「俺……夏子のことも、灯真のことも、何もわかってなかったんだな。なのにずっと保護者面して、上から目線で灯真のこと守ろうとしてて……今、すげえ恥ずかしいんだけど」
「そんなことないです」
灯真は覗き込むように首を傾げ、唯人を見上げた。逃げそうな視線を追う。
「僕は……あの日、オーナーが守ってくれなかったら、きっと今頃生きてません。それに、今日戻ってこれたのだって、オーナーが僕の言葉を信じていてくれたからです」
唯人が教えてくれなければ、ずっと「自分がいないこと」が最適解だと疑っていなかっただろう。
「だから、僕が今ここにいられるのは、オーナーのおかげです」
唯人の手を、両手で包みこむ。
すり抜けた。
「……えっ?」
何が起こったか分からず、灯真はもう一度唯人の手を取ろうとした。触れない。
「な、なんで……」
差してきた朝陽が二人を照らして、灯真の影だけが岬に伸びた。
うそ、と小さく呟く灯真の前で、唯人もまた輪郭が崩れていく。
崖に来た唯人に対する違和感が形になる。あの時、彼が灯真の霊を認識していたからだ。霊に戻った夏子とも話していた。
そんなことができるのは――灯真か、幽霊だけのはずなのに。
「あー、さっきほら、夏子と揉み合ったときに頭ぶつけて、さ」
「そんな」
「いや、なってみてわかったけど幽霊って結構しんどいな。ほんとすごいよ、灯真も……夏子も」
「待って、まだ、僕全然、なにも」
朝陽に溶けるように崩れていく唯人をかき集めようと、宙に手を伸ばす。だが確かにそこに見えているのに、灯真の手をすり抜けて唯人が消えていく。止められない。
「やだ、行かないで、だって一緒にいるって」
「……俺も、そのつもりだったんだけど。ちょっと無理かも」
「なん……っだよ、それ!」
やっと、戻ってきたのに。これからだと思ったのに。
嬉しかったはずの涙が、悲しみと憤りの水に変わっていく。
「大丈夫だよ、灯真なら」
唯人の手が、灯真の頭を撫でるように動く。
「何がだよ! なにも大丈夫じゃないだろ! 僕一人で何ができるってんだよ!」
無駄だと分かっていても、それでも唯人を引き留めようと手を伸ばしてしまう。
笑った唯人が口を開いて、けれどもその言葉は聞こえなくて。
「唯人さん!」
崖の上には、灯真だけが取り残された。
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