大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

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魔法回路の強化

魔法回路の強化.14

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 ただし、ユーミルには変化があった。
 今までのユーミルならば、バスカルに名指しされた時点で萎縮し、緊張し、杖を握る手が震えていただろうと思う。前に踏み出せていたかどうかすら危うい。

「……いきます」

 バスカルをはじめとした、幾つもの底意地の悪い注目の目が気にならなかった、といえば嘘になる。しかし今はそれ以上に、自分一人ではないのだという勇気があった。グレンが施した『特訓』の成果は既に表れていたし、何より、あの優しい大魔法士グレンが後ろ盾としてついている、今もどこかからこの姿を見ているのかもしれないと考えただけで、ビーカーの中で静かに沸騰する魔法薬にも似た闘志が、体の奥底から湧き上がって体内を巡り始めるのだ。

 いつもより余程凛としたユーミルの仕草を見て、クスクスと嘲りの笑いを漏らしていた生徒たちは、ぴたりと静かになった。それほどまでの気迫がユーミルの全身からゆらゆらと漂っていて、前髪を覆い隠す長い黒髪の一筋がふわりと浮かび上がるほどであったのだ。

 右手に杖を構え、二十フィッド先のガラス瓶をキッと見据える。はるか遠くにある小さな瓶のはずなのに、眼鏡越しにも、浮き上がる気泡や表面の結露まで、不思議なほどにはっきりと見えた。氷のマナを集める呪文の詠唱を始めると同時に、身体の中がカッと熱く、燃え上がるように火照るのがわかる。
 すぅ、と息を吸い込んで、杖の先をまっすぐ前に向けた。ガラス瓶の、丁度真ん中の延長線上に、ぶれることもなく杖の先端を置く。

「……ディオ・フリザール・エル・マナス!」

 詠唱の呪文の最後の言葉が口をついて溢れるや否や、ユーミルの体内を、凄まじい速さで『何か』の気配が駆け抜ける。それは久しく体験していなかった、いや、むしろ初めて味わうレベルの、強烈なマナの流れだ。
 魔法回路と呼ばれる見えない路が、ユーミルの中でパチパチと音を立てて開いていく感覚。ユーミルが放った鋭い氷の魔法は、稲妻のような閃光となってガラス瓶に到達し、瞬時に瓶の中身を凍てつかせただけでなく、周辺に漂う空中の水蒸気を集めた巨大な氷の塊を作った。
 ピシリ、ピシ、と瞬く間に氷が張っていく音は、ある程度離れていても充分に耳に届く。

「……何だと…!」

 バスカルと元素学の教授が、ほぼ同時に同じ言葉を口にするのが聞こえた。学生の誰もが黙りこくり、今し方、信じられない威力の氷の魔法を使って見せた一人の冴えない学生に視線を注いでいる。
 当のユーミルはと言えば、自分の放った魔法の威力をにわかには信じることができずに、呆然と魔法の光を放った杖の先、そして瓶を芯として一塊の氷になった遠い目標を、気の抜けたように眺め続けていた。

「…ユーミル…今の魔法は一体、何だね…?私は、そんなところまでは教えていないはずだというのに…!」

 元素学の教授が、狼狽しながら痩せた顎を撫で、まだぼんやりとしているユーミルに語り掛けてきた。率直に言えば、理由を知りたいのはむしろユーミルの方だ。ただ、いつもより少しばかり気合を入れてマナを錬成しただけなのに、こんなことになるとは思いもしなかったのだ。
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