とある少女の異世界奮闘記+α

輝国 飛鷹

文字の大きさ
38 / 69
『学生ラグナロク教』編

第35話《突然の来訪者──②》

しおりを挟む

「………………」
「なにか答えたらどう?」
「いや、うん、まぁ…………どういう関係と言われても…………」
  アヤノンは言葉に詰まった。まさか実は貴方の目の前にいるこの美少女がですよ───なんて言えるわけがない。言ったとしても、即変人扱い確定である。
  そんな心中も知らない幼なじみはグイグイと積極的に攻めてくる。
「あら~…………なんで返答に困ってるのかしら?」
  にやけた顔が実に憎たらしかった。
「その…………あの…………」
  さてどう答えようか。同じ手で幼なじみはどうか。いやそれだと長い付き合いの北華を騙せないだろう。事実、アヤノンは過去にあり得ないくらいプライベートの時も北華恭子といたのだ。小学校から中学、高校の一時期までずっと。
  さぁどうなのよ───と北華恭子が責め立ててくる。
  アヤノンは、そうだ───と妙案を思い付いた。
「お、俺は真地君ののアヤノンだっ」
「い、いとこ……………?」
「そう、いとこなんだよ! だから真地君は身内なんだ」
  幼なじみという呪いのセンサーに引っ掛からないためには、この設定しかない。友人などの近い存在は北華の目が光っていたからすぐ嘘がばれるだろう。
「ふーん…………いとこねぇ」
  珍しげな目で見られると、何故か妙に恥ずかしくなってしまった。いくら幼なじみでも、ここまでマジマジと見られた事はないと、アヤノンは思い返した。
「あ、あの………真地君のご両親から話は少し聞いたんだよね…………?」
  さりげなく話題を反らすと、北華は訝しい目で頷いた。
「えぇ…………一応、成り行きは」
「どこまで説明された?」
  あのバカで能無し夫婦がどこまでのを築き上げているのか知る必要がある。そこで情報の食い違いが起これば、相手が不信感を抱いてしまうからだ。
「えっと………たしか、真地アイツは前からアメリカに行きたがってたから、アメリカの高等学校に転入させた。だから今真地アイツは日本に居ない………ってところかしら」
「へ、へぇ~…………そう、そこら辺までは知ってるのかぁ…………」
  ───俺は全く知らなかったけどなっ!
  アヤノンはキッチンに引っ込んだあの二人をドア越しに睨んだ。
  ───なんつー壮大な嘘付いてくれてんだあの親は!? そんな高学歴を望んだ覚えはないわ!
「で? 貴方はなんでここにいるの? 今まで共同生活してたとか言うの?」
「い、いやそんなことは…………」
「じゃあ何なのよ。私は真地アイツと小学校からの付き合いだけど、貴方なんて見た覚えがないわ」
  何故か攻めに攻めてくる北華恭子。
「あ、あの…………あれだ! みたいなやつだよ!」
「交換留学…………?」
「そ、そう! 俺さ、もともとアメリカで住んでたんだけど、真地君がこっちに来たいっていうから…………」
「交換留学という形でこっちに来たっていうこと?」
「そうなんだよ! そういうこと!」
  もちろん真っ赤な嘘である。一応真地にはいとこは居るがアメリカ何ぞには住んでいない。そもそも、から、まずあり得ない話だ。
  しかし北華はそこまでの事情は無知である。まさか目の前の少女がその幼なじみだと気付くわけもなく。
「…………そう、そうだったの」
  呆気なく了解したのだった。先程の勢いは失速する形を見せていき、終いには普通の女の子に戻っていった。北華はゆっくりと腰を降ろすと、
「ごめんなさい…………何か私、勘違いしてたみたい」
「か、勘違い…………?」
  何を勘違いしたと言うのだろうかと、アヤノンは疑問符を浮かべた。
「勘違いって、一体何を…………」
「あ、あぁいや! 気にしないで気にしないで。ホント恥ずかしい勘違いだから」
「気になるから教えてくれよ」
「ふぇっ!? そ、それは…………」
  モジモジと視線を反らすその乙女チックな素振りは、かつてとして生きていたアヤノンの前では見せたことのない物だった。自分が知っている北華とは幾らか食い違っているなと、アヤノンは思った。
  赤面を浮かばせながらソワソワしていた北華だったが、やがて───
「───と思ったのよ」
「え?」
  聞こえない。最初辺りが小さすぎて気化している。
「ごめん。聞こえないんだけど───」
「だから…………真地が貴方と───」
「え? まだ聞こえない」
「も、もう! だから───」

「貴方と真地が付き合ってるんじゃないかって思ったのよ!」

「───は?」
  呆れた勘違いに、アヤノンは反応を示すことすら忘れかけた。その時同時にキッチンからガサゴソと崩れるような物音がする。
  アヤノンは内心でため息をついていた。
(きっと母さんたちだな…………しかも立ち聞きしてショック受けて倒れたって感じだな)
  ちなみに───キッチンではその通りの寸劇が幕を開けていたのである。
  アヤノンは幼なじみに意識を戻して言った。
「それはさ…………どういうこと? 俺と真地君が付き合ってるだって?」
  冗談ではない。不可能な神業である。
「そう…………スゴくバカげた勘違いでしょ? 私も今まで何やってたんだか…………」
「今まで?」
  ふと目前の少女の顔にかげりが現れる。
「うん…………1週間前にね、真地アイツが前触れもなく姿を消してね。先生は諸事情により他の学校に転校した、って言ったんだけど、私は全く納得がいかなくてね。だから───」
「だから?」
  だから何だと言うんだ────アヤノンは目を細める。
「だから…………その日からずっと放課後に真地アイツに直接話を聞こうと思って」
「え───」
  何それ───と言う前に北華は続ける。
「でも1週間経っても真地アイツは全然姿を現さないし、毎日貴方が出入りするのを見て、まさか…………と考えたってところなの」
「へ、へぇ……………」
  ───何それ普通にコワいんだけど。
  ということは。アヤノンが今まで自宅に出入りする、その一時一時を監視されていたということになる。想像するだけで悪寒が走った。
  表情から察した北華はすぐに、
「ご、ごめんなさいっ! ずっと見ていたなんて聞いてビックリしたよね…………」
「いや、そんなことは……………」
「いいの! 私も変なことしてたって、自分でも反省してるから」
「そ、そう……………」
  アヤノンはこれ以上話が続けられる気がしなかった。ストーカー染みた事をしてたと聞かされて、若干幼なじみから引きぎみなのだ。相手も相手である。そんな事を暴露しないでさっさと帰ってほしい、とアヤノンは思った。
  話してはいけないのか───アヤノンはそんな事を思い付く。
  北華は何とか言ってはアヤノンの───の身を案じて来てくれたのだ。こことは違う異世界の話はしなくても───自分の正体は明かしても良いのではないだろうか。
  流石に信じてくれるとは思わないが。
「あ、あのさ───」
「じゃ、じゃあ! 私もう帰りますね!」
  声を掛けようとしたその時、北華は気まずくなって帰ろうとした。
「あ………ちょっとストップ!」
  アヤノンは大声で呼び止める。振り返った幼なじみは童顔であった。
「な、なに…………?」
「───一つ、質問したいんだけど」
  落ち着きを払ったアヤノン───は言う。
「どうしてそこまで真地君のことを気にかけるの?」
「え───」
「だって、まぁ───これは電話で真地君から聞いた話なんだけどさ」
  真地とアヤノン───二人の人間が重なったかのような感覚に浸りながら言う。
「今まで君は彼と距離を置いてたんだろ? 話しかけようとしたらたまに逃げるし、なんか邪険にされてる気がするって、真地くんが愚痴っててさ」
  距離を置かれていた───と感じていた。高校に入ってから会話も少なくなり、悪ふざけにも対応しなくなっていた。
  正直、が北華と居る時間を苦痛と感じていた時期があった。
  北華は聞いた刹那、気を奈落の底に落としてしまった。
「ははっ…………気づかなかった。私、アイツにそう思われてたんだ………」
「だから気になったんだよ。どうしてそんなに気にかけるのか」
「それは…………だって───」
「うん」
  だが北華は顔を赤らめて、
「ご、ごめん! 私もう帰る!」
「えっ!? 待って───」
  足早に玄関口まで走った北華は、靴を履くとすぐに出ていってしまった。
  リビングにはアヤノン一人が残された。
「な、なんだよ…………アイツ…………」
  その時、背後のキッチンから彼女の両親が出てきた。
「あ、母さん父さん」
「アヤノン…………お前って結構鈍感なんだな」
  呆れた───と彼の表情が言っていた。
「は? どういう意味だよ」
「はぁ…………これはお父さん」
「あぁ…………母さん」

「「イェーイ…………」」
  
  久々のノリ悪いハイタッチが行われた。その顔は何故か哀れんでいる。
「なんだよ。久々にハイタッチそのネタやっても、アヤノンちゃんは驚きませんよ?」
「別にウケは狙ってないわ」
  ため息をついて彼女の母は言った。それでもアヤノンにはチンプンカンプンで。
「…………意味わかんないよ。それよりさ、父さん───」
「ダメだぞ、アヤノン」
  堅苦しく父親は言った。先程の妙な脱力感のあった彼とは大違いだ。
「な!? まだ何も言ってねーよ!」
「言いたいことは分かる。あの子に…………、だろ?」
「…………なんでわかった?」
「私はお前の父さんだぞ。言わなくてもだいたい分かる」
「じゃあ…………何でダメなんだよ。あっちの世界の事は隠しとけばいいだろ?」
「いや、
「だから何で?」
「アヤノン…………いいか? お前が思ってるほど、
「…………それ、どういう意味?」
  しかし彼はかぶりを振った。
「今はまだ…………教えられん。というよりは、お前が知らなくていいことなんだ」
  納得がいかない。不本意である。彼女の父親は何を知っているというのか。
「とにかくだ。絶対にお前の正体やあの世界の事は口外してはいけない。分かったな?」
「う、うん…………」
  父親はそのまま厳しい目で家を出ていった。
  アヤノンと彼女の母は首を傾げることしか出来なかった。


      *


「はぁ────」
  深いため息が夕焼け空に染み渡る。
  アヤノンの父親は外に出ると、ポケットからタバコを一本取り出した。普段は吸わない彼だったが、今回は吸わずにはいられなかった。
  自分の吐いた煙がモクモクと空へ昇っていくのをしばらく見つめ、
「───ダメだ」
  そう、呟いた。
「アヤノンや母さんは関わってはいけないんだ。この事は…………私の問題なのだから」
  彼の視線の先には、すでに散らばった煙のピースが浮かんでいた。




  




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

異世界きたのに、冒険者試験で詰みました。

アセチルサリチルさん
ファンタジー
【追放もざまぁも無双もない。あるのは借金と酒と笑いのみ!】 お父さん。お母さん。 あなたたちの可愛い息子は―― 異世界で、冒険者になれませんでした。 冒険者ギルドでのステータス鑑定。 結果は「普通」でも、 固有スキルは字面最強の《時間停止》 ……なのに。 筆記試験ではギルド創設以来の最低点。 そのまま養成所送りで学費は借金三十万。 異世界初日で、多重債務者です。 ……なめてんのか、異世界。 ここで俺たちパーティのイカれたメンバーを紹介するぜ! ケモミミ用スキルが初日で無駄になったバカ、タクヤ。 魔力制御が全くできない厄病神のバカ、リーシャ。 実は厨二病で呪い装備しか愛せないバカ、オルファ。 そして――スキルで時間を止めても動けないお茶目な俺、ユウヤ。 うーん! 前途多難! これは―― 最強でも無双でもない。 理不尽な世界で、借金と酒と事故にまみれながら、 なんだかんだで生き延びていく話。 追放? ざまぁ? 成り上がり? そんなものはございません。 あるのは、 愛すべバカどもが織りなすハートフルな冒険譚のみ。 そんな異世界ギャグファンタジーがここに開幕!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

処理中です...