彼が冒険者をやめるまで。

織月せつな

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プロローグ

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 人よ、戦え。生に縋りつき、他を制圧し蹂躙せよ。
 他世界で人は戦争を好む存在だと認識した神々は、新たに創世した世界「トワイライト」において、戦うことを半強制的に運命づけることにした。
 至るところに魔物が棲息するダンジョンを撒き、その最奥に魔物を生み出す闇水晶を砕かなければ、魔物は増え続けて町を襲う。
 一度闇水晶を砕かれても、一年と経たずに闇水晶は顕れる――。
 魔物と戦うことを義務付けられた人々は、そんな中でも戦う術を持たない人々を守る為に、そして自分の名誉の為に冒険者となるしかなかった。
 しかし全ての者が冒険者としてすぐに旅立てる訳ではなく、先ずは冒険者となる為の学舎に通うとになっている。
 冒険者育成学園は、この世界「トワイライト」にある十二の国に必ず一校は存在する機関だ。
 町を囲う外壁を一歩外に出れば、そこは魔物が蔓延る絶望の地。戦う力のない者――戦闘力が著しく低い者や幼い子供、高齢者など――にとっては、死に直結するところであり、やむにやまれず町を出る際には、必ず冒険者を雇って護衛としなければならなかった。
 魔物が蔓延るには理由がある。地下迷宮や塔、或いは城のような形を模して各地に出現しているダンジョンの、最奥にある闇水晶によって次々と生み出されていくからである。
 その多くはダンジョンの中で過ごし、共食いによって成長していくが、人の味を覚えたものや他の魔物から逃げる為に外に出るものによって、埋め尽くされていくのだった。
 ある程度数が減るのは、そこでまた共食いが行われるのと、魔物の肉が人々にとって大切な栄養源となることで、狩られていく為である。
 どちらも一方的に蹂躙される側ではなく、人々と魔物はお互いに喰うものと喰われるものという形で成り立っていた。

 冒険者と呼ばれるのは主にダンジョンを巡る者たちを示す。
 外で魔物の肉を調達する者たちは狩人と呼ばれるが、それでも冒険者と同じだけの実力が必要とされる。
 故に、この世界の子供たちは十歳から十二歳までの間に冒険者育成学園への入学が義務付けられ、それから五年間鍛えられた上での卒業試験を受け、合格した者のみが冒険者、或いは狩人として認められるのである。
 不合格の者は留年して翌年に再試験が行われるが、これにも不合格の場合、狩人の荷物持ちや町の警備隊といった役職に就く。
 その役職について差別意識はないが、当人たちが己の力不足を嘆き、卑屈になる者は少なくない。また、性質の悪い狩人の荷物持ちになった場合、最悪魔物から逃げる際の囮として使われるといったことがあった為、両者間の溝は深まるばかりだった。

「いいよ。分かっていたさ」

 とぼとぼと肩を落として歩きながら、赤髪をサイドテールにした碧眼の少女が呟く。
 只今は猫背になっているが、普段は惜し気もなくスラリとした美脚を晒し、颯爽と歩く様はその可愛らしい顔立ちを含めて人目を惹くものであった。
 しかし現在は雨雲でも引き連れているかのような、どんよりとした雰囲気を纏っている。
 この春にめでたく冒険者となった15歳(じきに16歳になる)の少女ルナは、またもや一ヶ月も経たずに、迎え入れられていたパーティーから外されてしまったのだった。
 またもや。というのは、これが初めてではないことを示す。冒険者となってからはまだ三回目だが、こんなことは学園に通っていた時にも何度もあったことだった。楽しくパーティー仲間とダンジョンに潜れていたのは、三年生になるまでだった。
 理由なら分かっている。しかしそれは自分ではどうにもならないことだった。
 自分の中にある誰かの記憶。誰かの意思。
 魔物と戦っているうちに、その誰かの意識に振り回され、暴走する自分。
 はじめは頼もしいと言ってくれる仲間も、次第に自分たちが成長出来なくなることを理由に、もう一緒のパーティーではいられないからと、出ていくことを求められる。穏便に片付けようとするのは、それだけ暴走したルナが恐ろしかったからだろう。

「いいもん。一人で出来るもん」

 そう呟きながらも、ルナの背中は更に丸くなっていくのだった。
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