拾って下さい。

織月せつな

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状況が呑み込めません


「……」

 はて。ここは一体何処でしょう。

「……」

 どのように道を間違ったら、近所にある筈のないウユニ塩湖的な場所に出るのでしょうか。
 青空が視界いっぱいに広がって眩しいです。
 足元を見れば、私が私にハローします。

 お察し下さい。私は今、混乱しています。大ピンチなのです。誰か説明して下さい。私の頭でも理解出来るように噛み砕いた形で。

「……」

 綺麗です。青空の中に入道雲のようなものが連なってお散歩してます。
 とても感動する景色なのでしょうが、こんなところに独りぼっちは寂しいです。心細いです。泣きます。

 パシャン

 歩くと、当然ながら足元の水面に波紋が広がりました。本物のウユニ塩湖に行ったことがないので分かりませんが、あそこもこのように、水溜まり程しか足が浸からない程度なのでしょうか。

「取敢えず、歩きましょう」

 バシャンバシャンとわざと水を跳ねさせるのは、辺りが静か過ぎて怖いからです。

「あの地平線の彼方まで行ってみるのですよ。これは大冒険の始まりなのです。サクサク行きましょう」

 独り言を普段から口にしてしまう方ではありましたが、それを指摘してくれる人も、おかしな話し方をするなと言ってくれる人がいないのも辛いです。
 バシャンバシャンと歩くのも疲れてきました。疲労というより虚脱感に襲われてしまったのでしょう。
 がっくりと肩を落として項垂れます。私と私とが再びハローしますが、さっき会った時より不細工な顔をしています。
 ……元から、そう褒められたものではないのですが。

「これは夢ですか?」

 私に訊いてみますが、同じタイミングでこちらが訊きたいことを訊いてくるだけです。

「私は、いつの間にかに死んでしまったのでしょうか」

 夢ならば早く目覚めたい。
 死んでしまったのならば、そう教えてくれる誰かにお迎えに来て欲しいのです。

「おはようございます。朝なので起きませんか?」

 足元の自分に向けて言ってみますが、やはり同じタイミングで向こうも口を開くだけで、待ってみても返事は来ません。
 もしかすると、向こうも同じことを思っているのでしょうか。

 私は私。あなたも私。
 スカートの裾が濡れてしまうことも気にせず、しゃがんで水面に手で触れてみました。
 すると。

「あ」

 グイッと重なるだけの筈だった手に引き込まれ、私の身体は水の中に、

 ちゃぷん

 可愛らしい音を残して入っていってしまったのでした。


 ――ワンワンッ!

 遠くから、ワンちゃんの吠える声が聞こえています。飼い主さん、ちゃんと構ってあげて下さい。
 それより、どうしてか土の匂いがします。不快ではありませんが、湿った感じのその匂いがとても気になります。

 ワウッ、ワンワンッ!
 ザッザッザッ……

 興奮したような声が近く明確に聞こえ始めたのは、何かを掘り起こすような音が大きく伝わってきた頃でした。

 ザッザッザッ、ガリッ

「!」

 痛いです。
 肩の辺りを引っ掻かれ、私は目を開けました。

「おい、何やってんだ。人様の畑掘り返してんじゃねーよ……って、おおおおいっ!?」

 うるさい人が来たと思ってそちらを見ると、まるで穴の中か崖下でも覗き込むかのような体勢の男の人が。

「うわ、目ぇ開けた、開けたってか、動いた! 何でだよ、生きてんなら――っ!」

 騒がしい人だと思っていたら、私に掛かっている布団を手で掘り返し始めます。その表情は怒ってるような焦っているような、とにかく真剣そのものでした。

 ……? はて。どうして私は土の中にいるのでありましょうか。

「ほら、起きれるか?」

 ワンワンッと近くでワンちゃんが忙しなく駆け回る足音と吠える声が聞こえる中、男の人が土の中から私を発掘……いえ、収穫して下さいました。

 さて、ここで問題なのです。
 私はどうしてキャベツ畑に埋まっていたのでしょうか。
 どうして埋まっていたのに生き苦しさを感じることなく、土のお布団にくるまっていたと思えない程、手足どころか髪や制服に土が纏わりついていなかったり汚れたりもしていないのでしょうか。

「なあ、状況、分かってるか? お前を生き埋めにしやがったのは誰だ?」

 金髪碧眼の男の人が、やたら流暢な日本語を話します。外見は西洋風でも日本生まれなのでしょうか。私は日本語も母国語ながら怪しいところがある上に、英語などはまるきり駄目なので助かります。
 でも、残念ながらお兄さんの言ってることが分かりません。言葉は理解出来ていますが、生き埋めって誰がですか?

「……よし、酸欠と心因性による一時的失語症だな。療術師のところに連れてってやるか」

 ワンッ

 私は何も言っていないのに、お兄さんは一人で納得すると、ワンちゃんも同意を主張するように、尻尾をブンブン振ります。犬種はレトリバーのようです。
 ちなみにお兄さんは大変美形です。なので抱き上げられた際に思わず「ギャーッ」と悲鳴をあげてしまいました。

「反応の遅いマンドラゴラかよ」

 お兄さんには呆れたようにそんなことを言われながら、抱き上げられるのが嫌ならとおぶさるように促され。

「ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」

 これはこれで恥ずかしいと緊張しながら、おとなしく出荷されることにしました。

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