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訓練地、到着
しおりを挟むやっぱり雨です。兜どころか帽子もありませんし、戦闘に傘は持って行けません。持ってすらいませんけれど。
雨具もなく、容赦なく叩きつける雨に視界を幾分遮られたこの状態は、歩行すら危ういです。
ギルドを出る前にキアラさんが下さった髪を結ぶ用のゴムのお陰で、前髪がすっきりしていますが、団長さんがチラリと私の額を見てこっそり笑ったのを見てしまいました。ちょっとショックでした。
にゃんこさんも追いかけて来て下さって、どうして他の男の子が免除扱いであるのに、私が強制的なのかと怒っていて、フシャーッと団長さんに威嚇し、事情を知っているキアラさんが宥める、といったこともありました。こんな何処の馬の骨とも知れない私を気に掛けて下さるのですから、本当に優しい方たちです。
……しかし、重い。重いです。
初めは、これくらいの重さならばと頑張って運べる気がしましたが、腕が疲れてしまったからでしょう。今はどんどん重みを増しているように感じられます。
両手でしっかり握っているので、歩き方がおかしくなっている上に、足元は泥濘ばかり。その所為で、みんなからだいぶ遅れて街と「外」を隔てる二重の壁に辿り着きました。
壁は高く、雨の所為で見上げても煙っていててっぺんまでは見えませんが、少なくとも私が万歳して十人くらい縦に積み上げても、届きそうにありません。
壁には跳ね橋のような仕組みの扉があり、それを降ろすのに係りの人(?)が手間取っていたお陰で、私は置いて行かれずに済んだのですが、マルクという名の、目立つ装備の子に睨まれてしまいました。
手のひらに、食べても美味しくないマメが出来てしまいそうだった為、抱っこしていくことにします。滑って持ちにくいですが、表面に施された装飾が指に引っ掛かる形でどうにか保てそうでした。
チラリ、チラリと団長さんが私を見るのは、また遅れないよう確認しているからでしょう。
一度、泥の塊のような「クレイスライム」が五体現れましたが、それは慣れた様子で二人の男の子が倒してくれました。
そうして森に着くまでにどれくらい掛かったのでしょう。
深い森と聞いていただけあって、雨を防ぐ程の鬱蒼とした木々により、中はそんなに酷くはありませんでした。
しかし視界は森の暗さと幽かな霧で先の見通しが悪いことに変わりありません。
それでも雨水が目に入り込むのを気にしないで済むだけ、ありがたく思わなくてはならないのでしょう。
既に腕も足も痛くてなりませんでした。
団長さんが足を止め、集まるように右手を挙げた為、皆さんの後ろに立ち、申し訳なく思いながらも、盾を足元に置き、倒れないように足に立て掛けるようにしました。そうしてビリビリと痺れている手を見ますと、マメが潰れた状態であり、指の皮も一部捲れていて、それぞれ血が滲んでいます。
「さっきは二人にやって貰ったが、ここからは訓練になる。一応、訓練用に定められたエリアには、一定以上の強い魔獣は侵入出来ないよう、結界が張られている。しかし本日のは最終段階だからな、先程のようなクレイスライムやボーンシューターといった初級レベルの相手だけでなく、アシッドベアやボーンブレイドなどの中級レベルの相手も可能になっている。中級レベルを見つけたら、必ず一人で相手をしようと思うな」
ボーンシューターはボーガンを扱う骸骨で、ボーンブレイドは剣の姿をした骸骨(?)らしいので、どちらかというとシューターの方が中級レベルじゃないかと思うのですが、ブレイドの方はとにかく俊敏らしく、厄介なので階級が上にあるのだそうです。
それからアシッドベアは名前の通り酸を吐くので、要注意……というのですが、酸の濃度はどれくらいなのでしょう。仮に遭遇してしまった時、お借りした盾で防げるでしょうか。
はわわ。つい楽をする為に置いてしまいましたが、足元は雨水を吸い込んだ土。そして雨晒しで濡れているものを置いたらどうなるかなんて、分かりきっている筈のものでした。
土に面して汚れてしまった部分を、他に何もないのでスカートで拭い、痺れから痛みに変わった手でまたしっかりと持ちます。
「中級レベルまでの魔獣は結界内への出入り自由だが、貴様らが出ることは出来ん。だから迷子になることはないから安心しろ。魔獣を始末した後の魔魂の回収を忘れるなよ?」
魔魂というのは、魔獣を倒した後に残る結晶のことだそうです。クレイスライムが倒された際に見ることが出来たのですが、勾玉の形をしていました。倒された魔獣は消滅してしまうので、毛皮とかお肉とかにはならないようです。魔魂は装備品を鍛える為に使われたり、薬品などに使われるそうです。
「カミーユ、エリックの二人はマルクを。レオとグレンはギー。ダリウスは初心者だが既にスキル持ちだからエディに任せる」
「はいっ」
名前を呼ばれた方々は返事をしたりしなかったりして、それぞれに分かれていきます。呼ばれていない私はしょんぼりです。
「カナル。お前は私の傍にいろ。その盾で何が分かるのか知らねばならんからな」
「は、はいっ」
ようやく呼ばれたのと、団長さんと一緒だということに安心して、頬がゆるみます。
それを緊張感がないと思われたのか、マルクくんからまた睨まれてしまいました。
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