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織月せつな

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ステイタス更新

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「エマさん、オグラ様のレベル更新チェックお願いしまーす」

 ヒラヒラと窓口でシートを振りながら、事務員さんから声が掛けられました。男性の事務員さんがいたことにビックリです。どの窓口も受付嬢しかいらっしゃらなかったので。

「あ、そうでした。オグラ様は手にお怪我をされておりましたから、後に回していたのでしたね。では、お手数ですがこちらにいらして下さい」
「はい」

 こちらこそお手間を取らせて申し訳ありません。と心の中で頭を下げながら窓口に向かいます。
 シュタッ、と一メートルくらいの高さを軽々ジャンプするにゃんこさんが素敵です。思わず音を出さない程度の拍手をしてしまいます。

「オグラ様、ではこちらに」
「はい」

 もう四回目なので躊躇なく手をシートに押し付けました。もう少し慎重にした方が良かったでしょうか。

「そういえば、手を見ただけで色々分かっちゃう方がおりますけど、それは普通の人でも見えるようになるものですか?」

 シートから手を放しながら訊ねたのは、ドラクロワさんのように、手を見ただけで分かるなら、いつでも確認出来て便利だと思ったからなのですが。

「普通の方は見ただけで分かったりは致しません」

 残念なお知らせをいただきました。

「基本的にギルドマスターやサブマスターになりますと、登録者の管理をする為に開眼されるそうですが、他の場合は稀ですね。鑑定眼が必要な職業の方々は、こちらのシートのように特別な道具をお持ちだそうですから、或いはそういった道具の製造をなさっているような方も開眼していると思われますが……」

 カシカシカシ、と後ろ足で首の辺りを掻きながら、にゃんこさんが考え込んでしまいました。

「……」

 待ちます。

「……」

 いくらでも待ちます。

「オグラ様」
「! はい」
「レベルが6になりました。おめでとうございます」
「はう……っ……あ、ありがとうございます」

 途中で風によってヒラヒラした紙に興味を示していたようだったので、その間に考え込んでいたことを忘れてしまったようです。
 もしかしたら、あまりそういったことは気にされていないものなのでしょう。ギルドに所属していないというドラクロワさんが、一体どうして鑑定眼をお持ちなのか謎が深まりましたが、美人さんにミステリアス要素が加わるのは世の常です。気にしたら色々知りたくなってストーカーになってしまうかもしれないので、諦めましょう。
 という訳で、レベルの確認です。

 名前:カナル=オグラ『シェムハザの寵愛を授かりし者』
 レベル:6
 所属ギルド:戦闘ギルド(見習い)
 年齢:16
 職業:なし(通常)/カウンター型タンク(シェムハザの盾装備限定)
 家族構成:なし
 生命力:82
 攻撃力:20(通常値)/570(シェムハザの盾装備限定カウンター攻撃発動値)
 防御力:75(通常値)/470(シェムハザの盾装備限定防御スキル発動値)
 精神力:151
 瞬発力:17
 運:298
 魔力:999
 スキル:シェムハザの寵愛(ランダム発動)

「これはまた……珍しいと申しましょうか、規格外過ぎてこちらでは説明致しかねる点が幾つもありますねえ」
「これでもかと盾さんのお名前が……」

 確か戦闘力となっていたところが攻撃力に変わっています。
 職業のカウンター型タンクなんて聞いたことないです。タンクって挑発とかするんですよね? 私、しませんよそんな恐ろしいこと!
 色々と気になりますが、瞬発力の低さが……何故1しか上がっていないのですか。そんなに鈍臭いのですか、私は。

「魔力がここまで伸びていらっしゃるのは、やはりオグラ様の魔力が解放されていなかったということだったのですね。出来れば術師ギルドの方で、呪いの解除スキルを高めていただきたかったです」

 そこでにゃんこさんが遠い目をしました。

「変化の罠というのは、いつまで呪いが持続するんですか?」
「! 解除にさえ失敗しなければ、すぐにでも戻れる程度のものだったのですっ」

 よくぞ聞いてくれました。とばかりに、にゃんこさんが私の手を前足で抱き締めるようにしました。きゅんとします。

「一度くらいならば、誰しも失敗はあります。ですが二度も三度も失敗され、このようにいつ戻れるか分からない状態に……。ロロさんに見ていただいたところ、定着しつつある状態なのだそうです。すぐに解除して欲しいところですが、立て続けに失敗したことで、解除の術式に抵抗してしまうようになってしまったらしいので、もう二週間程待たなければ、解除していただくことも出来ず……。ですからオグラ様、どうか罠にはご注意くださいませ」
「……はい」

 とても深刻なようです。私としてはにゃんこさんの姿はとても好きなのですが、人の姿に戻りたいのは当然です。
 二週間後――ダンディさんにお願いしてみたら、無事に解除出来るでしょうか。
 そんなことを考えながら、ついにゃんこさんを抱き上げて腕の中におさめてしまっていました。
 ゴロゴロと喉を鳴らして下さいましたので、しばらく失礼なことをしていることに、気付かない振りをしておこうと思います。
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