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織月せつな

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ガストン=ダンディ②

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「何で、それを……!?」

 カナルはその能力をアイテムボックスという認識の仕方をしているが、性能は似て非なるものである。
 彼らの能力は、自分のものとなったそれを一ヶ所に納めるものではない。
 この能力の不思議なところは、所有物を意のままに出し入れさせたり移動させたりすることが可能なことだ。
 当然ながら他人の所有物を盗むなどして手に入れても、能力は発動せず。自身の所有物であれば盗まれたり紛失したりしても、自分の元に引き寄せることが出来る。譲渡したものを勝手に取り返そうとしても不可能であったりすることから、この能力欲しさの為だけに、ギルドに登録してレベルを10まで上げる者もいる程であった。

 ガストンが手にしているのは、この国の所有物である。本物の魔獣図鑑であるなら取り出せる筈はない。

「詰めが甘いんだよね。禁書にしてしまえばこんなこと出来なかったんだけど、ほら、これの内容信用してないでしょ? 機密書とかいう扱いだけど、もて余してる感じだったから『じゃあここにでも放り込んでおけば?』って、まだ俺が罪人扱いされてなかった時に保管員に言ってみたら、何の疑いもなく俺の私物棚に入れてくれた訳さ」
「それくらいじゃ、あんたのものにはならないだろう?」
「でもなっちゃった」
「なっちゃった、じゃないよ。本当に謎だよなぁ、この能力」

 シリルはどう反応すれば良いのか悩むような素振りをし、諦めたように溜め息をつくに留めた。
 謎を上げるならば、この世界の殆どが謎なのだ。いちいち納得のいく答えを探してはいられない。

「お前さんが知りたいのは、この辺りだろう?」

 パラパラと頁を捲っていたガストンが、シリルの方に向けて渡す。
 確かに「剣闘士の塔」と見出しに記されており、階層ごとに出現する魔獣が載せられているようだ。
 第一階層は既に攻略済みであるから飛ばし、更に第二第三と飛ばしたシリルは、第十五階層で手を止めた。

「……ははっ」

 思わずといった様子で笑いを漏らしたシリルに、ガストンは向い側から覗き込む。

「ん? ははあ、これは面白いねぇ」
「面白くないだろ、全然」
「お前さん、さっき笑ってたじゃないか」
「面白くて笑ってたんじゃないんだよ。というか、これは無理だろ。だいたい魔獣じゃないし」
「その前に、ここまで辿り着けるかどうかが問題じゃないのかい? お前さんのレベルだと……十二階くらいか。まあ、まだ上がる訳だから、塔に暫く籠っていれば十三階くらいには行けるだろ」
「『剣闘士の塔』ってなってるのに、剣闘士は出ないんだな。俺は剣闘士ではないから攻略しても意味がない、といったことにならなければいいんだが」
「他にお嬢ちゃんは何か言ってたか?」

 訊かれて、シリルは記憶を探るように動きを止めた。

「階層ごとに挑戦出来るレベルに制限があるんじゃないか、とは言っていたな。試しに塔自体を鑑定してみたんだけど、そういった情報はなかったんだよね」ここでシリルはクスリと笑い「予想が外れたからって恥ずかしがるカナルが可愛かった」と思い出したように言ったが、すぐに複雑な表情になった。

「自分の目で見たかったな……」
「おかしなスキルだよな、お前さんのこれは」

 シリルが遠い目になったところで、ガストンが図鑑をパタリと閉じる。
 ハッと我に返ったように瞬きをしてから、もう一つ思い出したことの為に立ち上がろうとするが、いつもの・・・・貧血を起こしてしまう。

「ああ、魔力回復の強化薬を持って来よう。昨日出来たばかりの新薬があるんだ。試すのにちょうどいいね」
「新薬? 試すって、この間みたいに不味すぎて吐くやつじゃないだろうな?」
「大丈夫大丈夫」

 それでも念のためにか、口直しの飲み物と、その前に口の中をすすぐ水、バケツを用意して来たガストンに、シリルは貧血の所為だけではなく顔を青ざめさせ、引きつった表情になるのだった。
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