いつか私もこの世を去るから

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真実

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部活の大会が近くなり、私は毎日部活の練習で忙しくなった。

リレーの選手に選ばれた事もあり、私は特に気合いが入っていた。

大会には、光も誘って見に来てもらおうと思っていた。

その為に、少しでも良い成績を残して、自分の気持ちを伝えたいと思っていた。

体調が悪かった優子さんは、回復して、最近はまた神社へ参拝に来ていた。

国子さんが話しを聞いて、少し落ち着いたのかもしれない。


今日は、部活の帰りに、また同じメンバーで美波の家の棚田へ行った。

皆んなで買ったジュースやお菓子を広げて、食べながらおしゃべりする。

「最近、練習きついよね~。先生気合い入りすぎ。」
沙耶が嘆く。
「そうそう。糸が入って、良い成績出せると期待してるんじゃない?」
美波もジュースを飲みながら言う。

「そうなの?前はこんな練習きつくなかったの?」

「全然、ゆるゆるだよ。
逆に、先生練習こないから、自主練してたくらいだよ。」

蒼が言う。この後、9月の大会までびっしり、練習の予定が入ってる。

光と祠へ行く約束をしたが、いつ行けるかわからなくなってきた。

光とも、遊べなくなってしまった。

「14歳の夏休みが終わってしまうよ~。」
美波が棚田を見ながら愚痴る。
「私、14歳ってもっとこう特別な、青春っぽい夏休みを過ごせると思ってた。
結局部活ばっかだよ~。」

美波が言うと、沙耶も愚痴りだす。
「せめて、片思いでいいから、好きな人でもいればなぁ。生活に張りがあるのに。」
2人は頷く。
そして、蒼の顔を見てにらみつける。
「蒼はずるいよ~いつのまにか、彼氏作って、抜け駆けして!」

蒼はまた恥ずかしそうに
「抜けがけではないでしょ、たまたまオッケー貰えただけだし。」
と弁解する。

「ねえ、ねえ、蒼の彼氏はどんな感じの人なの?皆んな同じ部活の先輩なら知ってるでしょ?この間来てたけど、殆ど話さず終わっちゃったし。」

私が聞くと、美波が教えてくれる。
「蒼の彼氏は、朝倉 叶人《あさくらかなと》先輩って言って、短距離とハードルの選手だったんだけど、めちゃくちゃ足も速いし、県大会とかまでいく、陸上部のエースだよ。」

「そうそう、結局県外の高校行くしね。流石朝倉先輩だよ。運動だけじゃなくて、勉強も出来るしね。生徒会長もやってるし。」
沙耶も言う。

そんな凄い先輩と蒼は付き合っているのか。
凄いな。

「でも、朝倉先輩前から蒼の事は気になってたと思うよ。
蒼には、よく話しかけてたし。同じ種目だからっていうのは、あったかもしれないけど。」
美波が言うと、蒼は否定する。
「それはないでしょ。だって、朝倉先輩、真理子先輩と付き合ってたし。」

「真理子先輩って、これまた陸上部の先輩だったんだけど、前に朝倉先輩と噂になってたんだよ。」
と沙耶が教えてくれる。

「私は、中1で陸上部入ってからずっと朝倉先輩が好きだったんだもん。今でも付き合えたなんて夢みたいだよ。」
と蒼が言う。
「良いなぁ~蒼だけ、1人で青春しちゃってさ。」
「ほんと本当~!蒼、朝倉先輩の友達紹介してよ!」
「友達って、1個上なら大体知ってる人が多いんじゃない?」
と蒼が言うと。
「他校で!」
美波が言う。
「出来れば村外で!」
沙耶も言う。

「嫌、無理だから、今度の大会でカッコいい人いたら声かけなよ~!」
蒼が言う。

その後もなんだかんだ、朝倉先輩の話で盛り上がった。

皆んな今まで彼氏がいた事がなかったから、興味津々なのだ。
まあ、私も同じだけど。

そんな話しから、この場に朝倉先輩を呼ぼうという話しになった。

蒼は恥ずかしがって嫌がってたが、私にちゃんと紹介したいと言って呼んでくれた。

先輩がくる間、私と蒼は2人で話す。
美波と沙耶は2人でバトミントンを始めてしまった。


「本当はさぁ、不安なんだよね。私。」
蒼が突然そんな事を言い出す。
「何が?」
「だってさ、私は朝倉先輩が初めての彼氏なわけ。でも先輩は違うじゃん?」
「ああ、真理子先輩だっけ?」
私が聞くと蒼が大きく頷く。

「そう!真理子先輩ってさ、美人だし勉強も出来るらしいし、モテるんだよ。
そんな人と付き合ってた人が、次は私となんてさ、、、。」
めずらしく弱気な事を言う。
というか、蒼は恋愛になるといつも弱気だ。

「でも、好きって言われたんでしょ?朝倉先輩に。ならそんな事気にしなくてもいいんじゃない?」

「そうだけど、ふと思うんだよね。
この人との初めてが殆ど真理子先輩となんだよなぁって。全部私が良かったなって。」
そう言って落ち込む、蒼が物凄く可愛かった。

「それさ、全部先輩に話したら?」
「え?」
「今言った話し、全部先輩に話してみなよ。
先輩、蒼の事絶対に可愛い~って思うはずだから!」

私が言うと、蒼は目を丸くして
「そうかな?」
と言うので、私は「今日絶対言ってみて!」と言う。

日が暮れてきた。カラスが鳴き出している。
遠くから何羽もカラスが飛んできた。

目の前の棚田に赤い夕日がさす。
緑色だった稲が嘘の様に真っ赤に染まる。

なんだか、寂しいような、切ないような、なんとも言えない気持ちになる。

「糸は、こっちにきていいなあって人いた?
まあ、学校すぐ休みになっちゃったから、陸上部の子になっちゃうけど。」
と言う。

私は真っ先に、光の顔を思い浮かべた。
同じ中学だから、蒼達もきっと知ってるだろう。

光は見た目が少し派手で目立つし。
私は思い切って光の事を相談しようと思った。

「実はさ、私こっちで好きな人が出来たの。」
私が打ち明けると、蒼は驚いて私に聞いてくる。

「ほんとに?誰、誰!!陸上部の子!?」
蒼が、興奮すると美波と沙耶も、こっちが騒いでいるのに気がついて話しに入ってくる。

「まじで?糸まで抜け駆け?誰よ誰!」
「いや、まだ片思いだから、、、。気持ちも伝えられてないし。」

私が照れながら言う。
「陸上部じゃないんだけど、たまたま、お祭りの日に知り合って、同じ中学で1個上なんだけど。」
「同じ中学!?」
3人が更にびっくりする。
「名前は?」

 「荒木 光っていうんだけど。ちょっと見た目やんちゃっぽくて、髪の毛の明るい、、、。」


私がその名前を口にした途端、一瞬で3人の表情が強張る。

さっきまで興奮していたのが嘘の様に3人の顔が青くなる。

私は状況がわからず、戸惑う。
え?なに?

しばらく3人は黙っていたが、蒼が口を開く。

「糸、何それ何かの冗談?」
美波も沙耶も頷く。

「荒木光って、糸が会えるわけないじゃん。」
蒼が更に言ってくる。
私も蒼が言ってる意味が全然理解できない。

「出会えないって何で?
私ずっとこの夏光と会ってたよ。
陸上部の大会に出た時も光、学校に一緒にいたじゃん!」

私が必死に話しても、3人は更に固まる。

「あの日は糸、1人で学校へ来てたよ。」
1人で、、、?

どうゆう事?私は信じられず、パニックになる。

なんで皆んながそんな事を言うのかわからない。

蒼が言う。
「糸、荒木先輩は半年前に亡くなってるんだよ。」




私は蒼が言ってる事が理解できなかった。
だって、私は何日か前にも光に会っている。

死んでるって、なんで?そんなわけない。

「糸、何かの間違いじゃない?それ本当に荒木先輩?勘違いしてない?別の誰かと。」
蒼が言う。

「そ、そうだよね。勘違いだよ、多分。荒木先輩じゃないんじゃない?」
沙耶も動揺しながら言ってくる。

でも、でも、光は自分の事を荒木光だと確かに名乗った。

神坂中の3年だと、私に言った。

「荒木先輩って、どんな人、、、?」
私が聞くと、蒼が
「ちょっと待って!確か陸上の大会に助っ人できてくれた時の写真が携帯にあるはず!」
そう言って、携帯を取り出し探しだす。

私は何も言えずただ、蒼を見ていた。

「そう、これ!この人だよ!荒木先輩!」

蒼が携帯を見してくれる。
陸上の大会で、みんなで集合写真を撮っていた。

その中で蒼が指を指したのが、光だった、、

私のよく知っている。

光だった。

皆んなと一緒にいつもの笑顔でピースをしている。

紛れもなく、私とこの夏一緒にいた荒木光だ。

「違うでしょ?この人じゃないでしょ?」
蒼が私に必死に言う。

「この人、、、。私が祭りの日に会って、それからこの夏一緒に遊んでた。光はこの人だよ。」

3人とも信じられないように、私の顔を見る。

「そんな、事ある、、、?」
美波が呟く。

私は誰に言うでもなく呟く。
「なんで?違う、違うよ。私この夏本当に光と過ごしたの。一緒に川に行ったり、海に行ったり。花火も一緒に見たし。」

私は携帯を取り出して、光とのメッセージのやり取りを見る。

けれど、何回見直しても光からのメッセージがない。

どうして?
わけがわからない。
光は、光は、確かに私といたのに。

私にしか見えていなかった、、、?


、、、私は一体誰と会っていたの?


「糸、、、大丈夫?」
3人が心配そうに、私を見つめる。
そこに、朝倉先輩が来た。

「朝倉先輩に聞いてみな?荒木先輩と仲良かったから。」
蒼が言う。

「どうしたの?」
私達の様子がおかしい事に気づき、朝倉先輩が声をかけてくる。

「糸がこの夏、荒木先輩と会ってたって。」
蒼が言うと、朝倉先輩の表情が変わる。

「光と?糸ちゃんて、この夏に引っ越してきたんじゃなかった?」
と聞いてくる。

「そうです!でも、私光と会ってたんです!
つい何日か前も一緒に釣りをして、、、。
光がお気に入りの、小さな滝のある釣りスポットで遊んで、、、。」

言ってるうちについに涙が溢れてくる。
蒼が私を抱き寄せる。

「光のお気に入りの釣りスポットへ行ったの?
あの、森の奥の?」

朝倉先輩が信じられないように言う。

「はい!そうです!本当です!私、確かに光と、、、光といたんです。」

「糸、、、。」
皆んなも今にも泣き出しそうな顔をしている。

「糸ちゃん。光はね、半年前にダムの近くにある高い橋から落ちて死んだんだよ。
事故か自殺かは、わかってないけど遺書とか何もなかったから、一応事故って事になってる。」


『死ぬならもっと上に高い橋があるからそっちいけ。なっいいな?』


初めて、光と会った時、光が言ってたんだ。
もっと上の橋って、自分が落ちた橋の事だったの?

「光、中学入ってから親とあんまり上手くいってなくてさ、ちょっと他校の悪い奴とつるんだり。だからあの日も家族と言い合いになって、家を飛び出したらしいんだよ。そしたら、あんな事になって、、、。」

「最後の言葉が『俺なんて死ねばいいんだろう。』だったらしい。」

俺なんて、死ねばいい、、、。光がそんな事を?

「だから、自殺の可能性もあったんだけど。
俺はそうは思わない。」

朝倉先輩は私を見つめていう。

「光といたならわかるよね。
光がそんな事する奴じゃないって。」

その言葉を聞いて、私は余計に涙が溢れてくる。

わかる。光はこの夏誰よりも生きていた。
この、神坂村でめいいっぱい太陽を浴びて、自然の中で気持ち良さそうに遊んでいた。

「私、光が好きなんです。
本当に本当に、、、。まだ全然気持ち伝えられてないんです。」

私が言うと、朝倉先輩が
「光の家に行こう。お線香上げに行こうよ。」
と言ってくれた。


私はまだ光が亡くなっていた事が信じられなくて、呆然としながら歩く。

蒼がずっと、私を慰めるように肩を抱いてくれる。

皆んな何も喋らない。

けど、この私の嘘のような話しを否定せずに、ちゃんと信じてくれている様だった。

それだけでも私は救われた。

歩きながら、私は光と出会ってから今までの事を思い出す。

私が自殺するのを光が止めた事。
一緒に釣りをした事、光のお陰で勇気が出せて、九竜神社の梯子も降りれたし、岩山神社の鎖場も登れた。

そして友達だって作る事が出来た。
光はいつだって私に教えてくれた。
自然の厳しさ、素晴らしさ。
そして応援してくれた、『糸なら出来る!』
そう言ってくれたのは、光だよね?
だから、私はこの村でやってこれたのに。

「ここだよ。」
朝倉先輩が連れてきてくれたのは、大きな農家だった。
表札には「荒木」とある。

朝倉先輩が慣れたように門の中へ入っていく。
「すみませーん!」
声をかけると、作業場の中から女性が出てきた。

「あら、叶人くん?」

私はその女性をよく知っていた。



「優子さん、、、?」

優子さんだった。光のお母さんは、優子さんだった。





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