ゆるゾン

二コ・タケナカ

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燃える闘神がそこには立っていた。
なんと力強く、頼りがいのあるお姿か!今日は後ろに従者まで引き連れて・・・・・・え?誰ですか?
入り口に立つパイセンの後ろには見慣れない生徒が2人立っていた。たぶん1年生だろうと思う。
(文化祭の打ち合わせかな?)
その一人と目が合ったので、ペコペコと会釈だけしておいた。

今はそれどころじゃないんだ!ふーみんをなんとかしないと!
例えパイセンが手の付けられない荒ぶる闘神であろうと、一人でも助っ人は多い方がいい。
「どうした?海津」
パイセンはアタシが挨拶をしなかった事で変に思ったのだろう。その場で腕を組み仁王立ちになった。廊下からの光で後光が差していて神々しい。すべてを包み込んでくれそうなおおらかさと、それでいて他を寄せ付けない威圧感が混在している。無意識に膝をついて頭を下げてしまいそうだ。これが畏怖というものか。
「ちょっと今、トラブってまして、へへ」
「ん~・・・・・・?」
パイセンの鋭い眼光が辺りを見回す。
「関がいないな。伊吹山もそんな所に一人座ってどうした?羽島、お前なんで笑ってるんだ」
「い、いえ、これは、プッ!」この状況でも笑っていられるなんて、この人の心臓本当にどうなってるんだ?
パイセンが事態を見極める様にゆっくり歩き、ふーみんの側へ立った。そして目がカッと、見開かれた。
「おい!伊吹山!どうした?誰にやられた」
なんだか嫌な予感がする。説明の為にアタシは2人の側に駆け寄った。
「パイセンっ!これはですね」
「海津、お前は黙ってろ。今は伊吹山に聞いている」
「・・・・・・ハイ。」

「お前泣いてたんだろ。何があった?」
ふーみんはもう泣き止んではいたけど、頬には涙が垂れた後が残っていた。スカートにも落ちてしまった涙がポツポツと濡れ染みを広げている。
「黙っていても分からんぞ。いったい誰にやられたんだ?言ってみろ。アタシが話を付けに行ってやる」
(すごく嫌な予感しかしない)
ピクリとも動かなかったふーみんがゆっくり手を伸ばした。アタシへ向けて。ゆびまで指している。

(・・・・・・逃げるか?いや、逃げ切れるのか?)
闘神はアタシのすぐ側に立っている。腕を伸ばせばすぐ届く位置に。その太い腕に捕まれば、ただじゃ済まない事は確実だ。しかも今回は先輩が言う、じゃれ合いなんかじゃない。本気の絞め技が待っているだろう。
(逃げるのは得策じゃない。なんとか弁明しないと、)
そうは思っていても勝手に足が後ずさりする。
「海津。」
「ハイ!」恐怖で思考も体も停止した。

「歯を食いしばれ」
(え?なんで、)訳が分からず口が半開きになる。声なんて出ない。
「聞こえなかったか?歯を食いしばれと言ったんだ」感情を押し殺した声がもう一度響いた。
アタシは今、気が付いた。普段の先輩は怖くもありつつ、優しい目をしていたのだと。今、見下ろしてくるその目には、冗談など一切通用しない凄みがある。
(このままじゃダメだ!)そう思い、先細る意識を繋ぎ留め対策を打つ!
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル!
顔を左右に振り続ける。それがアタシにできる唯一の抵抗だった。何をされるのかは、もう分かってしまった。回避するにはこれしかない!

ガシッと頭を掴まれた。
(あぁぁぁぁ・・・・・・)強制的にブルブル作戦は止められてしまった。
パイセンが野太い声でゆっくり喋る。
「海津、暴力はよくないぞ」
(その言葉、そっくりそのままお返しします)
「暴力を振るえば、やり返されるのは当たり前だろ。なあ?」
「やってません!」
「暴力にもいろいろある。直接殴ったり、締め上げたり、言葉による暴力だってそうだ。暴言を吐けば殴り返される事だってあるんだぞ。みんな我慢してるからやり返さないだけで。なぜ好き放題言ってる奴が何もされないなんて思い込めるんだ?やり返されるまで分からないんだよこういうのは。だからお前は身をもって知っておくべきだ。」
「いってません!」
「お前にとっては何気ない一言だったかもしれない。それがちょっとしたジョークだったとしても、相手がどう思うかは別だろう?」
(ダメだぁ。この流れ、どうあがいても殴られる未来しか見えてこない。とーさんにも殴られた事ないのにぃ!)

アタシはわずかな望をかけて、かいちょに救いの眼差しを向けた。
「プッ!」笑ってる⁉この人、殴られそうな人を見て笑ってる⁉大晦日にやっているお笑い番組じゃないんだぞ!絶対に笑ってはいけない場面だろ!
(さっきは天使の様に思ったけど、お前は人間のフリが上手い悪魔か!)
かいちょが笑いを堪えながら、アタシ達の側に来た。
「待ってください、先輩。プッ!月光さんはたぶん悪くないと思います、フフッ!」
「なぜだ?」例えかいちょでも口ごたえは許さないというドスの効いた声だった。
それでもかいちょは笑っている。しかも、また彼女の口から想像のつかない一言が発せられた。
「これはきっと痴情のもつれです。フフ、」
(はい?あなた頭、大丈夫?)
パイセンに掴まれていた手が離れた。その腕がまた組まれて仁王立ちになると、先輩は唸った。
「んーーー、つまり?」
「つまり、loveです」
(何言ってるの?かいちょ、1ミリも笑えないんだけど)
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