63 / 136
60
しおりを挟む
60
燃える闘神がそこには立っていた。
なんと力強く、頼りがいのあるお姿か!今日は後ろに従者まで引き連れて・・・・・・え?誰ですか?
入り口に立つパイセンの後ろには見慣れない生徒が2人立っていた。たぶん1年生だろうと思う。
(文化祭の打ち合わせかな?)
その一人と目が合ったので、ペコペコと会釈だけしておいた。
今はそれどころじゃないんだ!ふーみんをなんとかしないと!
例えパイセンが手の付けられない荒ぶる闘神であろうと、一人でも助っ人は多い方がいい。
「どうした?海津」
パイセンはアタシが挨拶をしなかった事で変に思ったのだろう。その場で腕を組み仁王立ちになった。廊下からの光で後光が差していて神々しい。すべてを包み込んでくれそうなおおらかさと、それでいて他を寄せ付けない威圧感が混在している。無意識に膝をついて頭を下げてしまいそうだ。これが畏怖というものか。
「ちょっと今、トラブってまして、へへ」
「ん~・・・・・・?」
パイセンの鋭い眼光が辺りを見回す。
「関がいないな。伊吹山もそんな所に一人座ってどうした?羽島、お前なんで笑ってるんだ」
「い、いえ、これは、プッ!」この状況でも笑っていられるなんて、この人の心臓本当にどうなってるんだ?
パイセンが事態を見極める様にゆっくり歩き、ふーみんの側へ立った。そして目がカッと、見開かれた。
「おい!伊吹山!どうした?誰にやられた」
なんだか嫌な予感がする。説明の為にアタシは2人の側に駆け寄った。
「パイセンっ!これはですね」
「海津、お前は黙ってろ。今は伊吹山に聞いている」
「・・・・・・ハイ。」
「お前泣いてたんだろ。何があった?」
ふーみんはもう泣き止んではいたけど、頬には涙が垂れた後が残っていた。スカートにも落ちてしまった涙がポツポツと濡れ染みを広げている。
「黙っていても分からんぞ。いったい誰にやられたんだ?言ってみろ。アタシが話を付けに行ってやる」
(すごく嫌な予感しかしない)
ピクリとも動かなかったふーみんがゆっくり手を伸ばした。アタシへ向けて。ゆびまで指している。
(・・・・・・逃げるか?いや、逃げ切れるのか?)
闘神はアタシのすぐ側に立っている。腕を伸ばせばすぐ届く位置に。その太い腕に捕まれば、ただじゃ済まない事は確実だ。しかも今回は先輩が言う、じゃれ合いなんかじゃない。本気の絞め技が待っているだろう。
(逃げるのは得策じゃない。なんとか弁明しないと、)
そうは思っていても勝手に足が後ずさりする。
「海津。」
「ハイ!」恐怖で思考も体も停止した。
「歯を食いしばれ」
(え?なんで、)訳が分からず口が半開きになる。声なんて出ない。
「聞こえなかったか?歯を食いしばれと言ったんだ」感情を押し殺した声がもう一度響いた。
アタシは今、気が付いた。普段の先輩は怖くもありつつ、優しい目をしていたのだと。今、見下ろしてくるその目には、冗談など一切通用しない凄みがある。
(このままじゃダメだ!)そう思い、先細る意識を繋ぎ留め対策を打つ!
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル!
顔を左右に振り続ける。それがアタシにできる唯一の抵抗だった。何をされるのかは、もう分かってしまった。回避するにはこれしかない!
ガシッと頭を掴まれた。
(あぁぁぁぁ・・・・・・)強制的にブルブル作戦は止められてしまった。
パイセンが野太い声でゆっくり喋る。
「海津、暴力はよくないぞ」
(その言葉、そっくりそのままお返しします)
「暴力を振るえば、やり返されるのは当たり前だろ。なあ?」
「やってません!」
「暴力にもいろいろある。直接殴ったり、締め上げたり、言葉による暴力だってそうだ。暴言を吐けば殴り返される事だってあるんだぞ。みんな我慢してるからやり返さないだけで。なぜ好き放題言ってる奴が何もされないなんて思い込めるんだ?やり返されるまで分からないんだよこういうのは。だからお前は身をもって知っておくべきだ。」
「いってません!」
「お前にとっては何気ない一言だったかもしれない。それがちょっとしたジョークだったとしても、相手がどう思うかは別だろう?」
(ダメだぁ。この流れ、どうあがいても殴られる未来しか見えてこない。とーさんにも殴られた事ないのにぃ!)
アタシはわずかな望をかけて、かいちょに救いの眼差しを向けた。
「プッ!」笑ってる⁉この人、殴られそうな人を見て笑ってる⁉大晦日にやっているお笑い番組じゃないんだぞ!絶対に笑ってはいけない場面だろ!
(さっきは天使の様に思ったけど、お前は人間のフリが上手い悪魔か!)
かいちょが笑いを堪えながら、アタシ達の側に来た。
「待ってください、先輩。プッ!月光さんはたぶん悪くないと思います、フフッ!」
「なぜだ?」例えかいちょでも口ごたえは許さないというドスの効いた声だった。
それでもかいちょは笑っている。しかも、また彼女の口から想像のつかない一言が発せられた。
「これはきっと痴情のもつれです。フフ、」
(はい?あなた頭、大丈夫?)
パイセンに掴まれていた手が離れた。その腕がまた組まれて仁王立ちになると、先輩は唸った。
「んーーー、つまり?」
「つまり、loveです」
(何言ってるの?かいちょ、1ミリも笑えないんだけど)
燃える闘神がそこには立っていた。
なんと力強く、頼りがいのあるお姿か!今日は後ろに従者まで引き連れて・・・・・・え?誰ですか?
入り口に立つパイセンの後ろには見慣れない生徒が2人立っていた。たぶん1年生だろうと思う。
(文化祭の打ち合わせかな?)
その一人と目が合ったので、ペコペコと会釈だけしておいた。
今はそれどころじゃないんだ!ふーみんをなんとかしないと!
例えパイセンが手の付けられない荒ぶる闘神であろうと、一人でも助っ人は多い方がいい。
「どうした?海津」
パイセンはアタシが挨拶をしなかった事で変に思ったのだろう。その場で腕を組み仁王立ちになった。廊下からの光で後光が差していて神々しい。すべてを包み込んでくれそうなおおらかさと、それでいて他を寄せ付けない威圧感が混在している。無意識に膝をついて頭を下げてしまいそうだ。これが畏怖というものか。
「ちょっと今、トラブってまして、へへ」
「ん~・・・・・・?」
パイセンの鋭い眼光が辺りを見回す。
「関がいないな。伊吹山もそんな所に一人座ってどうした?羽島、お前なんで笑ってるんだ」
「い、いえ、これは、プッ!」この状況でも笑っていられるなんて、この人の心臓本当にどうなってるんだ?
パイセンが事態を見極める様にゆっくり歩き、ふーみんの側へ立った。そして目がカッと、見開かれた。
「おい!伊吹山!どうした?誰にやられた」
なんだか嫌な予感がする。説明の為にアタシは2人の側に駆け寄った。
「パイセンっ!これはですね」
「海津、お前は黙ってろ。今は伊吹山に聞いている」
「・・・・・・ハイ。」
「お前泣いてたんだろ。何があった?」
ふーみんはもう泣き止んではいたけど、頬には涙が垂れた後が残っていた。スカートにも落ちてしまった涙がポツポツと濡れ染みを広げている。
「黙っていても分からんぞ。いったい誰にやられたんだ?言ってみろ。アタシが話を付けに行ってやる」
(すごく嫌な予感しかしない)
ピクリとも動かなかったふーみんがゆっくり手を伸ばした。アタシへ向けて。ゆびまで指している。
(・・・・・・逃げるか?いや、逃げ切れるのか?)
闘神はアタシのすぐ側に立っている。腕を伸ばせばすぐ届く位置に。その太い腕に捕まれば、ただじゃ済まない事は確実だ。しかも今回は先輩が言う、じゃれ合いなんかじゃない。本気の絞め技が待っているだろう。
(逃げるのは得策じゃない。なんとか弁明しないと、)
そうは思っていても勝手に足が後ずさりする。
「海津。」
「ハイ!」恐怖で思考も体も停止した。
「歯を食いしばれ」
(え?なんで、)訳が分からず口が半開きになる。声なんて出ない。
「聞こえなかったか?歯を食いしばれと言ったんだ」感情を押し殺した声がもう一度響いた。
アタシは今、気が付いた。普段の先輩は怖くもありつつ、優しい目をしていたのだと。今、見下ろしてくるその目には、冗談など一切通用しない凄みがある。
(このままじゃダメだ!)そう思い、先細る意識を繋ぎ留め対策を打つ!
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル!
顔を左右に振り続ける。それがアタシにできる唯一の抵抗だった。何をされるのかは、もう分かってしまった。回避するにはこれしかない!
ガシッと頭を掴まれた。
(あぁぁぁぁ・・・・・・)強制的にブルブル作戦は止められてしまった。
パイセンが野太い声でゆっくり喋る。
「海津、暴力はよくないぞ」
(その言葉、そっくりそのままお返しします)
「暴力を振るえば、やり返されるのは当たり前だろ。なあ?」
「やってません!」
「暴力にもいろいろある。直接殴ったり、締め上げたり、言葉による暴力だってそうだ。暴言を吐けば殴り返される事だってあるんだぞ。みんな我慢してるからやり返さないだけで。なぜ好き放題言ってる奴が何もされないなんて思い込めるんだ?やり返されるまで分からないんだよこういうのは。だからお前は身をもって知っておくべきだ。」
「いってません!」
「お前にとっては何気ない一言だったかもしれない。それがちょっとしたジョークだったとしても、相手がどう思うかは別だろう?」
(ダメだぁ。この流れ、どうあがいても殴られる未来しか見えてこない。とーさんにも殴られた事ないのにぃ!)
アタシはわずかな望をかけて、かいちょに救いの眼差しを向けた。
「プッ!」笑ってる⁉この人、殴られそうな人を見て笑ってる⁉大晦日にやっているお笑い番組じゃないんだぞ!絶対に笑ってはいけない場面だろ!
(さっきは天使の様に思ったけど、お前は人間のフリが上手い悪魔か!)
かいちょが笑いを堪えながら、アタシ達の側に来た。
「待ってください、先輩。プッ!月光さんはたぶん悪くないと思います、フフッ!」
「なぜだ?」例えかいちょでも口ごたえは許さないというドスの効いた声だった。
それでもかいちょは笑っている。しかも、また彼女の口から想像のつかない一言が発せられた。
「これはきっと痴情のもつれです。フフ、」
(はい?あなた頭、大丈夫?)
パイセンに掴まれていた手が離れた。その腕がまた組まれて仁王立ちになると、先輩は唸った。
「んーーー、つまり?」
「つまり、loveです」
(何言ってるの?かいちょ、1ミリも笑えないんだけど)
1
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる