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アタシは話を続けた。
「兵は高い位置に布陣した方が有利だと言われている。鶴山は小さな山だけど、守って戦えば少しは勝機が上がるかもしれない。けど、そうしなかったのはもっと守りやすい場所があったからさ」
「長良川ですね」ヒメが応えた。
「そう。川岸で待って、渡ってくる兵を相手にした方が有利なはずさ。相手は水の中で身動きが取れないし、矢で狙うのもたやすい」
「けど、高政(たかまさ)だって同じように渡らずに待っていればいいじゃない」
「ところが高政は川を渡って強引に攻めたんだ」
「バカなの?」
「道三からは皮肉を込めて無能なんて呼ばれていたそうだね。そんな高政はまず5000の兵を渡らせて攻めるも、指揮していた武将の首を取られて一時撤退させられてしまったんだ」
「やっぱりバカなの?」
「おいおい、伊吹山。アタシの推しをバカにしてくれるなよ」点検の手を止めてパイセンが言った。
「い、いえ。そういうつもりは、」
彼女はニヤリとした。
「高政はバカというより、このとき焦っていたんだと思うよ」
「何を焦る必要があるのよ。川を渡らず待っていた方が有利なのに」
「もう一つの援軍だよ。それが到着する前にと焦っていたはずさ」
「援軍?明智は来ないんでしょ?」
「織田信長ですね?」ヒメが応えた。
「そう。小見の方の子、帰蝶は信長の正室だよ。だから道三は信長と同盟を結んでいた。それに帰蝶と明智光秀は、いとこ同士じゃないかとも言われていて、こう見ると血の繋がりではっきり陣営が分かれているのはおもしろいでしょ?」
「まあ、面白いかどうかはまだ分からないけど、だいぶ繋がりは分かってきた気がするわ」
「義父の要請を受け、信長は木曽川を越えて大良という場所に陣を構えたそうだよ。大良は今の羽島市だね。新幹線の駅がある所。ここからだと南西の方角に10キロ強といったくらいかな」
「意外に近くまで来てたんじゃない、信長」
「道三としてみれば、最初の予定は東からの援軍明智と南からの援軍織田を高政に当てて、自分は安全な鶴山で陣を構えて様子見でもしようとしてたかもしれない」
「人にやらせておいて自分は戦わないなんて、やっぱり道三は悪いやつね」
「戦上手と言ってあげて。でも、結局そうならなかったのは高政が明智側に先手を打ったからだよ。更に鶴山へ向けて迅速に動き出したから、これには道三も慌てたと思うよ。当てにしていた援軍が二つともいないんだから。高政が焦っていたと考えるのはこの点だよ。先手先手を打っている。信長に挟み撃ちにされる前に決着を着けたかったんだ。この時の高政軍の兵の規模からみてもそれは分かる。道三だけを討つならこんな大規模にする必要は無いからね。これは明らかに南から来る信長軍を警戒していた表れだよ」
「なんだ高政、バカじゃないじゃない」
「な?そうだろ?」
パイセンが嬉しそうに笑った。
「道三は高政が動き出した瞬間、もしかしたら自分も危ういと感じ取ったかもしれない。それでも鶴山を下りて前に出たのは流石と言ったところだね。長良川は川幅が広い。そうやすやすと渡れるものじゃないよ。その頃は橋がまだ架かっていなかったらしく、船で渡っていたんだ。大軍が船を使って渡るには時間が掛かりすぎる。水深だって深いだろうし馬でも場所によっては渡れない。なにより、その頃の馬は小さいし」
「ぽにー!」チカ丸がすぐに応えた。ポニーじゃないけどね。
「道三は川岸を押さえれば渡ってこないだろうと踏んだのさ。渡らせずに時間稼ぎをして信長軍が到着するのを待てばいい。それに少しでも南側に居た方が合流しやすいから。けど、ここでも思惑は外れる。予想に反して高政軍は川を渡ってきた。たぶん浅瀬を探しながら中州を足掛かりにしてね。道三もこの的確な采配には高政をバカにしていたことを悔やんだそうだよ」
「やるわねぇ、高政」
(この娘は、さっきの評価と真逆の事を言っているなぁ)
「一度は5000の兵を退けた道三。やっぱり川岸で迎え討ったのは正解だったね。けどさすがに道三も死を覚悟したのかもしれない。この時、美濃の国を譲るという内容の遺言書を信長に宛てて届けさせたんだ」
「勝手な人ね。もう斎藤家の家督は高政に譲ったんだから美濃は道三のものじゃないのに」
「この土地は元々、自分達のものだ!って勝手に言うリーダーは世界のどこにでもいるよ」
「確かにね。」
「でも、道三は遺言書と言っておきながらまだ諦めてなかったんじゃないかな?信長が助けに来てくれることを期待していた可能性がある。その為に美濃がエサとして使われた」
「どういうこと?」
「道三にとってみれば信長は義理とはいえ息子だから、立場的には父親である道三の方が上な訳だよ。美濃を信長に譲っても自分が織田の上に立てば美濃と尾張の両方を手に入れることになる。そういう目論見が無かったとは言えない」
「やっぱり悪いやつね、道三は」
「その誘いに信長は乗らなかった。というより、見捨てたのかもしれない。だって長良川の合戦場まで10数キロ程の距離にいたんだよ?人の歩く速さは時速4キロ程。少し早足で歩けば2時間でたどり着く場所だよ。開戦は辰の刻、朝8時頃だと言われている。高政が夜のうちに夜襲をかけたならいざ知らず、日は昇って明るい時間帯だよ。昔は一面、原っぱな訳だから戦いが始まれば見えたんじゃないかと思うよ。ちょっと小高い丘にでも見張りを送ればいいだけだから。なのに信長の援軍は長良川まで助けに行かなかった」
「信長も悪いやつね」
「第六天魔王」
またチカ丸が変な言葉をピンポイントで覚えている。
「信長は、あわよくば高政と道三が争って弱った所を攻めて、美濃を奪い取るつもりでいたのかもしれない。けど、思った以上に高政の兵の数が多い。それに10キロ行軍すれば美濃の地の奥まで進むことになる」
「どうする?信長」はなっちがまた茶化す。
「信長軍が陣を張った大良という場所は、木曽川を越えればすぐ尾張だったから様子見をするにはいい場所なのさ。様子見しているうちに終わちゃったんだろうね。高政は長良川の戦いの後、今度は信長軍に兵を向けたんだ。信長軍はすぐに木曽川の向こうに撤退している。高政は良く守ったと言えるよ」
アタシは話を続けた。
「兵は高い位置に布陣した方が有利だと言われている。鶴山は小さな山だけど、守って戦えば少しは勝機が上がるかもしれない。けど、そうしなかったのはもっと守りやすい場所があったからさ」
「長良川ですね」ヒメが応えた。
「そう。川岸で待って、渡ってくる兵を相手にした方が有利なはずさ。相手は水の中で身動きが取れないし、矢で狙うのもたやすい」
「けど、高政(たかまさ)だって同じように渡らずに待っていればいいじゃない」
「ところが高政は川を渡って強引に攻めたんだ」
「バカなの?」
「道三からは皮肉を込めて無能なんて呼ばれていたそうだね。そんな高政はまず5000の兵を渡らせて攻めるも、指揮していた武将の首を取られて一時撤退させられてしまったんだ」
「やっぱりバカなの?」
「おいおい、伊吹山。アタシの推しをバカにしてくれるなよ」点検の手を止めてパイセンが言った。
「い、いえ。そういうつもりは、」
彼女はニヤリとした。
「高政はバカというより、このとき焦っていたんだと思うよ」
「何を焦る必要があるのよ。川を渡らず待っていた方が有利なのに」
「もう一つの援軍だよ。それが到着する前にと焦っていたはずさ」
「援軍?明智は来ないんでしょ?」
「織田信長ですね?」ヒメが応えた。
「そう。小見の方の子、帰蝶は信長の正室だよ。だから道三は信長と同盟を結んでいた。それに帰蝶と明智光秀は、いとこ同士じゃないかとも言われていて、こう見ると血の繋がりではっきり陣営が分かれているのはおもしろいでしょ?」
「まあ、面白いかどうかはまだ分からないけど、だいぶ繋がりは分かってきた気がするわ」
「義父の要請を受け、信長は木曽川を越えて大良という場所に陣を構えたそうだよ。大良は今の羽島市だね。新幹線の駅がある所。ここからだと南西の方角に10キロ強といったくらいかな」
「意外に近くまで来てたんじゃない、信長」
「道三としてみれば、最初の予定は東からの援軍明智と南からの援軍織田を高政に当てて、自分は安全な鶴山で陣を構えて様子見でもしようとしてたかもしれない」
「人にやらせておいて自分は戦わないなんて、やっぱり道三は悪いやつね」
「戦上手と言ってあげて。でも、結局そうならなかったのは高政が明智側に先手を打ったからだよ。更に鶴山へ向けて迅速に動き出したから、これには道三も慌てたと思うよ。当てにしていた援軍が二つともいないんだから。高政が焦っていたと考えるのはこの点だよ。先手先手を打っている。信長に挟み撃ちにされる前に決着を着けたかったんだ。この時の高政軍の兵の規模からみてもそれは分かる。道三だけを討つならこんな大規模にする必要は無いからね。これは明らかに南から来る信長軍を警戒していた表れだよ」
「なんだ高政、バカじゃないじゃない」
「な?そうだろ?」
パイセンが嬉しそうに笑った。
「道三は高政が動き出した瞬間、もしかしたら自分も危ういと感じ取ったかもしれない。それでも鶴山を下りて前に出たのは流石と言ったところだね。長良川は川幅が広い。そうやすやすと渡れるものじゃないよ。その頃は橋がまだ架かっていなかったらしく、船で渡っていたんだ。大軍が船を使って渡るには時間が掛かりすぎる。水深だって深いだろうし馬でも場所によっては渡れない。なにより、その頃の馬は小さいし」
「ぽにー!」チカ丸がすぐに応えた。ポニーじゃないけどね。
「道三は川岸を押さえれば渡ってこないだろうと踏んだのさ。渡らせずに時間稼ぎをして信長軍が到着するのを待てばいい。それに少しでも南側に居た方が合流しやすいから。けど、ここでも思惑は外れる。予想に反して高政軍は川を渡ってきた。たぶん浅瀬を探しながら中州を足掛かりにしてね。道三もこの的確な采配には高政をバカにしていたことを悔やんだそうだよ」
「やるわねぇ、高政」
(この娘は、さっきの評価と真逆の事を言っているなぁ)
「一度は5000の兵を退けた道三。やっぱり川岸で迎え討ったのは正解だったね。けどさすがに道三も死を覚悟したのかもしれない。この時、美濃の国を譲るという内容の遺言書を信長に宛てて届けさせたんだ」
「勝手な人ね。もう斎藤家の家督は高政に譲ったんだから美濃は道三のものじゃないのに」
「この土地は元々、自分達のものだ!って勝手に言うリーダーは世界のどこにでもいるよ」
「確かにね。」
「でも、道三は遺言書と言っておきながらまだ諦めてなかったんじゃないかな?信長が助けに来てくれることを期待していた可能性がある。その為に美濃がエサとして使われた」
「どういうこと?」
「道三にとってみれば信長は義理とはいえ息子だから、立場的には父親である道三の方が上な訳だよ。美濃を信長に譲っても自分が織田の上に立てば美濃と尾張の両方を手に入れることになる。そういう目論見が無かったとは言えない」
「やっぱり悪いやつね、道三は」
「その誘いに信長は乗らなかった。というより、見捨てたのかもしれない。だって長良川の合戦場まで10数キロ程の距離にいたんだよ?人の歩く速さは時速4キロ程。少し早足で歩けば2時間でたどり着く場所だよ。開戦は辰の刻、朝8時頃だと言われている。高政が夜のうちに夜襲をかけたならいざ知らず、日は昇って明るい時間帯だよ。昔は一面、原っぱな訳だから戦いが始まれば見えたんじゃないかと思うよ。ちょっと小高い丘にでも見張りを送ればいいだけだから。なのに信長の援軍は長良川まで助けに行かなかった」
「信長も悪いやつね」
「第六天魔王」
またチカ丸が変な言葉をピンポイントで覚えている。
「信長は、あわよくば高政と道三が争って弱った所を攻めて、美濃を奪い取るつもりでいたのかもしれない。けど、思った以上に高政の兵の数が多い。それに10キロ行軍すれば美濃の地の奥まで進むことになる」
「どうする?信長」はなっちがまた茶化す。
「信長軍が陣を張った大良という場所は、木曽川を越えればすぐ尾張だったから様子見をするにはいい場所なのさ。様子見しているうちに終わちゃったんだろうね。高政は長良川の戦いの後、今度は信長軍に兵を向けたんだ。信長軍はすぐに木曽川の向こうに撤退している。高政は良く守ったと言えるよ」
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