116 / 136
109
しおりを挟む
109
「それで、長良川の戦いってどうなったの?」
「聞きたいの?」
かいちょは足を速めてスタスタ逃げていく。
「そりゃあ、あれだけ聞かされたんだから結末が気になるじゃない」
「じゃあ聞かせてあげよう」
と言いつつ、アタシもかいちょを追ってスタスタ歩いた。
「あ、ちょっと!待ちなさいよっ」
追いかけてきたふーみんに肩をつかまれ、簡単に捕まってしまった。アタシはピタリと止まり振り返って言った。
「討ち取られた~ぁ」
「はぁ?」
「敗走する敵というのはね、背中を向けていて一番仕留めやすいんだ。武器を構え向き合って戦っていれば、お互い必死だからそんな簡単に切り込めないものさ。一度兵が逃げ出すと、恐怖は連鎖する。軍の士気は落ちて一気に総崩れになるよ。道三軍は地形こそ有利に立ってはいたけど、数で圧倒する高政軍に押し負けていった。恐怖だっただろうね。川の向こうから次々に押し寄せる敵、その中央には遠目でもよく分かる巨人が進撃して来るんだから」
お菓子を分け合っていたチカ丸とはなっちの方をチラリと見る。
意図を察した相棒が右手でドン!っと胸を叩き、心臓を捧げた。チカ丸も何をしているか分かったらしく、同じポーズをとる。
(ナイス!)
彼女らに向かって言った。
「おそらく地獄を見てきた者達だ。面構えが違う」
「は?」
「ただのごっこだよ」
アニメのネタを知らないふーみんはいつもの様に訳が分からないといった顔をした。
「ふーみんは殿(しんがり)という言葉を知ってるかな?」
「しんがり?」
「負け戦の時は大将を逃がすため、忠臣が殿(しんがり)をつとめる事がある。最後尾の盾というか、大将を逃がすためのおとりというか、『ここは任せて先に行け!』って格好つける人だよ。殿はね、おとりだから死亡率が非常に高くなる。死を覚悟して引き受ける役なんだ」
「道三、逃げちゃったの?」
「戦の状況が不利だと見て、道三はここから少し北に行った所にある城田寺城(きだいじじょう)に逃げ込もうとしたという説がある。中間地点には鷺山城(さぎやまじょう)という、道三が隠居していた城もあるんだけど、城田寺城をわざわざ目指そうとしたのはあそこは神社やお寺の集まる場所だから、住職に間に入ってもらって神仏にすがろうとしたのかもしれない。道三は生き延びる道を考えていたと思うよ。最後までね」
「結局、どうなったのよ?」
「殿は誰もやりたがらない役なんだ。ほぼ死にに行くようなものだから。よっぽど主に対して忠誠心がなければやりたがらない。道三にそんな人徳あると思う?家臣達から追い出されたような人なのに。アタシが道三軍なら大将を置いてさっさと逃げ出すよ。逃げ出す兵で総崩れになって川岸は突破される。あとは陣形なんて関係ない。乱戦の中、道三は捕まってその場で首を落とされたんだ」
「うわぁ」
「丁度、そこで。」アタシはふーみんの足元を指さした。
「ひゃっ!」
彼女はかわいい声を出して、飛びのいた。
「フフフッ、」
「アンタねぇ」ジト目でこちらを見てくる。
「これがリアリティというものさ。身近に感じたでしょ?もう道三の事は忘れないね」
「道三ってあんまり知らなかったけど、よく分かったわ」
「知らなかったのはしょうがない。だいたい信長の方がメインで話されるんだから」
「ところで、高政はどうしたのよ」
「長良川の戦いの後、高政は道三がしてなかった政(まつりごと)を積極的におこなったよ。道三の書いた書状は残っているのが少ないのに対し、高政は沢山書状が残っているから分かる。この時、ハンコも使っていたみたいだね。お役所仕事みたいに。大男だったけど意外にそういうマメな部分も持っていたのさ」
アタシはチラリと生徒会の仕事をこなすパイセンの方を見た。視線に気づいた彼女が言う。
「なんだ。アタシが真面目に仕事してちゃ意外か?」
「いやー、さすが高政を推しにしているだけに、強くて仕事も出来るなんて似ているなぁ、と思いまして」
「そうだろ?ハハハッ!」
「それで、長良川の戦いってどうなったの?」
「聞きたいの?」
かいちょは足を速めてスタスタ逃げていく。
「そりゃあ、あれだけ聞かされたんだから結末が気になるじゃない」
「じゃあ聞かせてあげよう」
と言いつつ、アタシもかいちょを追ってスタスタ歩いた。
「あ、ちょっと!待ちなさいよっ」
追いかけてきたふーみんに肩をつかまれ、簡単に捕まってしまった。アタシはピタリと止まり振り返って言った。
「討ち取られた~ぁ」
「はぁ?」
「敗走する敵というのはね、背中を向けていて一番仕留めやすいんだ。武器を構え向き合って戦っていれば、お互い必死だからそんな簡単に切り込めないものさ。一度兵が逃げ出すと、恐怖は連鎖する。軍の士気は落ちて一気に総崩れになるよ。道三軍は地形こそ有利に立ってはいたけど、数で圧倒する高政軍に押し負けていった。恐怖だっただろうね。川の向こうから次々に押し寄せる敵、その中央には遠目でもよく分かる巨人が進撃して来るんだから」
お菓子を分け合っていたチカ丸とはなっちの方をチラリと見る。
意図を察した相棒が右手でドン!っと胸を叩き、心臓を捧げた。チカ丸も何をしているか分かったらしく、同じポーズをとる。
(ナイス!)
彼女らに向かって言った。
「おそらく地獄を見てきた者達だ。面構えが違う」
「は?」
「ただのごっこだよ」
アニメのネタを知らないふーみんはいつもの様に訳が分からないといった顔をした。
「ふーみんは殿(しんがり)という言葉を知ってるかな?」
「しんがり?」
「負け戦の時は大将を逃がすため、忠臣が殿(しんがり)をつとめる事がある。最後尾の盾というか、大将を逃がすためのおとりというか、『ここは任せて先に行け!』って格好つける人だよ。殿はね、おとりだから死亡率が非常に高くなる。死を覚悟して引き受ける役なんだ」
「道三、逃げちゃったの?」
「戦の状況が不利だと見て、道三はここから少し北に行った所にある城田寺城(きだいじじょう)に逃げ込もうとしたという説がある。中間地点には鷺山城(さぎやまじょう)という、道三が隠居していた城もあるんだけど、城田寺城をわざわざ目指そうとしたのはあそこは神社やお寺の集まる場所だから、住職に間に入ってもらって神仏にすがろうとしたのかもしれない。道三は生き延びる道を考えていたと思うよ。最後までね」
「結局、どうなったのよ?」
「殿は誰もやりたがらない役なんだ。ほぼ死にに行くようなものだから。よっぽど主に対して忠誠心がなければやりたがらない。道三にそんな人徳あると思う?家臣達から追い出されたような人なのに。アタシが道三軍なら大将を置いてさっさと逃げ出すよ。逃げ出す兵で総崩れになって川岸は突破される。あとは陣形なんて関係ない。乱戦の中、道三は捕まってその場で首を落とされたんだ」
「うわぁ」
「丁度、そこで。」アタシはふーみんの足元を指さした。
「ひゃっ!」
彼女はかわいい声を出して、飛びのいた。
「フフフッ、」
「アンタねぇ」ジト目でこちらを見てくる。
「これがリアリティというものさ。身近に感じたでしょ?もう道三の事は忘れないね」
「道三ってあんまり知らなかったけど、よく分かったわ」
「知らなかったのはしょうがない。だいたい信長の方がメインで話されるんだから」
「ところで、高政はどうしたのよ」
「長良川の戦いの後、高政は道三がしてなかった政(まつりごと)を積極的におこなったよ。道三の書いた書状は残っているのが少ないのに対し、高政は沢山書状が残っているから分かる。この時、ハンコも使っていたみたいだね。お役所仕事みたいに。大男だったけど意外にそういうマメな部分も持っていたのさ」
アタシはチラリと生徒会の仕事をこなすパイセンの方を見た。視線に気づいた彼女が言う。
「なんだ。アタシが真面目に仕事してちゃ意外か?」
「いやー、さすが高政を推しにしているだけに、強くて仕事も出来るなんて似ているなぁ、と思いまして」
「そうだろ?ハハハッ!」
0
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる