117 / 136
110
しおりを挟む
110
パイセンへのゴマすりを済ませ、アタシは続きを語った。
「長良川の戦いの後、信長は頻繁に美濃を攻める様になっていく。それを見越して高政は美濃の統治を急いだんだろうね」
「信長相手じゃピンチじゃない」
「1556年、この頃はまだ信長も尾張国内をまとめ上げていなかったんだ。こっちも兄弟同士で争っていた。だからそれほど脅威ではなかったよ」
「どこもそんな話ばかりなのね」
「そして1558年に高政は将軍・足利義輝から一色を名乗ることを許されている。美濃をまとめ上げる為の箔付けだね」
「お母さんの深芳野(みよしの)が一色だっけ?」
「ふーみんも覚えてきたじゃん。そうなんだ。深芳野の子だから足利一門の名門、一色氏を名乗ることが出来た。翌年、1559年には京へ上洛。将軍・足利義輝にも謁見しているよ。この時、諱(いみな)を高政から義龍(よしたつ)へと偏諱(へんい)している。義龍のよしは足利義輝のよしから一字貰ったものなんだ。これはとても名誉な事なんだよ」
「よし!」
チカ丸が変なポーズをしてくれている。よし、よし、言ってたから反応したな?だいぶこの部活が分かってきたじゃないか。
「ヨシ!」
アタシも同じポーズをして返してあげた。
「将軍様から正式に一色を名乗ることを許され美濃を名実ともに収めることになったんだよ、一色義龍(いっしきよしたつ)は。おもしろいよね土岐でもなく、ましてや斎藤でもなく、一色を名乗るんだから。どちらの父親も超えてやったんだという現れだったのかもしれない」
「ねえ、義龍のたつは龍(りゅう)じゃないの?」
「いい所に気付いたね。ふーみん、さっすがぁ!」
「バカにしてるでしょ!」
「してないよ。この龍の解釈については判断の分かれるところだね。読みようによっては、義輝の龍とも読める。足利一門に加わった一色の龍という意味だよ。だから道三が息子に付けた龍との決別や皮肉が込められていると言ってもいい。けど、いい話に持っていくなら、義龍も道三から本当は認めて欲しかった、龍の字が欲しかった現れだとも解釈できる。ふーみんはどっちだと思う?」
「んー、私なら決別かな」
「ふーみん意外にドライだな」
「だって父親を討つと決めたんだから、後になってそんな事しても今更って感じがしない?」
「そういう見方か。おもしろい」
パイセンがこちらにふり返って言う。
「義龍は強くて、仕事も出来て、家臣からの信任も厚い。その上、将軍の後ろ盾もある名門の出だぜ?向かう所、敵なしだろ」
「確かに。この頃の義龍は戦国最強を名乗っても過言でも何でもないと思うよ。信長は長良川の戦いで集まった兵の数を見て驚いたんじゃないかな?あの時、明智城を攻める為に別動隊を3千ほど割いていたから、兵の総数は2万を超えていたんだ。単純に兵の数だけで比較してみると、甲斐の虎と呼ばれて恐れられていた武田家は兵士の総数が1万前後だと言われている。越後の龍と呼ばれた上杉謙信も同じくらい。海道一の弓取り、今川義元は2万5千。相模の獅子、北条氏康は彼の治める関東がこの頃、ひどい飢饉に見舞われていたから兵を集めるのも苦労したんじゃないかな?。第六天魔王信長は家督を継いだばかりで織田家は家臣が対立していた。お父さんの信秀と比べれば従う兵の数は格段に少なかったはずだよ。その穴埋めのための鉄砲だったんだろうし」
「兵士の数より、なに?その男子が喜びそうな変な呼び方」
「変だと?二つ名で呼ばれるのは大大名の証だよ?多くはその治める土地と武将のイメージを合わせて呼ばれるんだ。まぁ、信長の場合、第六天というのは仏教の世界の事で、そこを治める魔王なんて中二病感が出ちゃってるのは否めないけど。しかも武田信玄へ送った書状の中で自ら名乗っている点も、痛々しさが入ちゃってる」
チカ丸とはなっちが揃って中二病ポーズをとってくれている。
「今川義元は?そんな呼び方されてたの?その人って信長に負けたんでしょ?」
「今川義元は信長に負けたイメージが強すぎて侮れるけど、当時は天下取りに一番近かった大大名だよ。武芸にも優れていて海道一の弓取はそんな彼を称える二つ名だよ。決して中二病なんかじゃない。決して!」
「プッ!」かいちょが吹き出した。怖い話は終わったから安心したな?もっと笑わせてやろうか。
「道三の二つ名『美濃のマムシ』は創作なんだし、一色義龍にもふーみんが二つ名を考えてあげたら?」
「そうねぇ・・・・・・長良川でお父さんを倒したんだからぁ・・・・・・長良のマングースは?」
「ブフーッ‼」かいちょが思い切り吹き出した。
「マングースは蝮じゃなくて、ハブだよ!それだと沖縄じゃないかッ!」
「略して長良マン」はなっちがすかさず乗って来る。
「もうご当地ヒーローだろッ!それ!」
「クククッ!」かいちょはお腹を抱えて笑いを堪えている。
パイセンへのゴマすりを済ませ、アタシは続きを語った。
「長良川の戦いの後、信長は頻繁に美濃を攻める様になっていく。それを見越して高政は美濃の統治を急いだんだろうね」
「信長相手じゃピンチじゃない」
「1556年、この頃はまだ信長も尾張国内をまとめ上げていなかったんだ。こっちも兄弟同士で争っていた。だからそれほど脅威ではなかったよ」
「どこもそんな話ばかりなのね」
「そして1558年に高政は将軍・足利義輝から一色を名乗ることを許されている。美濃をまとめ上げる為の箔付けだね」
「お母さんの深芳野(みよしの)が一色だっけ?」
「ふーみんも覚えてきたじゃん。そうなんだ。深芳野の子だから足利一門の名門、一色氏を名乗ることが出来た。翌年、1559年には京へ上洛。将軍・足利義輝にも謁見しているよ。この時、諱(いみな)を高政から義龍(よしたつ)へと偏諱(へんい)している。義龍のよしは足利義輝のよしから一字貰ったものなんだ。これはとても名誉な事なんだよ」
「よし!」
チカ丸が変なポーズをしてくれている。よし、よし、言ってたから反応したな?だいぶこの部活が分かってきたじゃないか。
「ヨシ!」
アタシも同じポーズをして返してあげた。
「将軍様から正式に一色を名乗ることを許され美濃を名実ともに収めることになったんだよ、一色義龍(いっしきよしたつ)は。おもしろいよね土岐でもなく、ましてや斎藤でもなく、一色を名乗るんだから。どちらの父親も超えてやったんだという現れだったのかもしれない」
「ねえ、義龍のたつは龍(りゅう)じゃないの?」
「いい所に気付いたね。ふーみん、さっすがぁ!」
「バカにしてるでしょ!」
「してないよ。この龍の解釈については判断の分かれるところだね。読みようによっては、義輝の龍とも読める。足利一門に加わった一色の龍という意味だよ。だから道三が息子に付けた龍との決別や皮肉が込められていると言ってもいい。けど、いい話に持っていくなら、義龍も道三から本当は認めて欲しかった、龍の字が欲しかった現れだとも解釈できる。ふーみんはどっちだと思う?」
「んー、私なら決別かな」
「ふーみん意外にドライだな」
「だって父親を討つと決めたんだから、後になってそんな事しても今更って感じがしない?」
「そういう見方か。おもしろい」
パイセンがこちらにふり返って言う。
「義龍は強くて、仕事も出来て、家臣からの信任も厚い。その上、将軍の後ろ盾もある名門の出だぜ?向かう所、敵なしだろ」
「確かに。この頃の義龍は戦国最強を名乗っても過言でも何でもないと思うよ。信長は長良川の戦いで集まった兵の数を見て驚いたんじゃないかな?あの時、明智城を攻める為に別動隊を3千ほど割いていたから、兵の総数は2万を超えていたんだ。単純に兵の数だけで比較してみると、甲斐の虎と呼ばれて恐れられていた武田家は兵士の総数が1万前後だと言われている。越後の龍と呼ばれた上杉謙信も同じくらい。海道一の弓取り、今川義元は2万5千。相模の獅子、北条氏康は彼の治める関東がこの頃、ひどい飢饉に見舞われていたから兵を集めるのも苦労したんじゃないかな?。第六天魔王信長は家督を継いだばかりで織田家は家臣が対立していた。お父さんの信秀と比べれば従う兵の数は格段に少なかったはずだよ。その穴埋めのための鉄砲だったんだろうし」
「兵士の数より、なに?その男子が喜びそうな変な呼び方」
「変だと?二つ名で呼ばれるのは大大名の証だよ?多くはその治める土地と武将のイメージを合わせて呼ばれるんだ。まぁ、信長の場合、第六天というのは仏教の世界の事で、そこを治める魔王なんて中二病感が出ちゃってるのは否めないけど。しかも武田信玄へ送った書状の中で自ら名乗っている点も、痛々しさが入ちゃってる」
チカ丸とはなっちが揃って中二病ポーズをとってくれている。
「今川義元は?そんな呼び方されてたの?その人って信長に負けたんでしょ?」
「今川義元は信長に負けたイメージが強すぎて侮れるけど、当時は天下取りに一番近かった大大名だよ。武芸にも優れていて海道一の弓取はそんな彼を称える二つ名だよ。決して中二病なんかじゃない。決して!」
「プッ!」かいちょが吹き出した。怖い話は終わったから安心したな?もっと笑わせてやろうか。
「道三の二つ名『美濃のマムシ』は創作なんだし、一色義龍にもふーみんが二つ名を考えてあげたら?」
「そうねぇ・・・・・・長良川でお父さんを倒したんだからぁ・・・・・・長良のマングースは?」
「ブフーッ‼」かいちょが思い切り吹き出した。
「マングースは蝮じゃなくて、ハブだよ!それだと沖縄じゃないかッ!」
「略して長良マン」はなっちがすかさず乗って来る。
「もうご当地ヒーローだろッ!それ!」
「クククッ!」かいちょはお腹を抱えて笑いを堪えている。
0
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる