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第五章「統治際」 5-1
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リード魔法学校の入学式から、はや1カ月。
秋は徐々に深まり、暗い冬の訪れを前に木々も紅葉して華やかに色づき始めました。新入生たちも寮生活にようやく慣れて落ち着きを見せ始めた頃、その賑やかなイベントは始まります。
「とうちさい?」
ティータイムの席でジャスパーの話を聞いていたメイベールこと、朝日は聞き返しました。
「そうだよ。毎年この時期には統治王ケント1世を称え、国中で祭りが開かれているだろう?」
日本から『another world of dreams』通称アナドリと呼ばれる乙女ゲームに似た世界へ飛ばされ、あろうことかゲームの悪役令嬢キャラであるメイベールになってしまった朝日にとって、ここの文化など知る由もありません。
(けど確かゲームの中では建国際って呼ばれてなかったっけ?)
ジャスパーに問いただします。
「お兄様、それは建国際の間違いではなくて?」
ジャスパーは笑って応えます。
「メイベール、まだ勉強が足りないよ。建国際は確かに正式な名称さ、けれどブリトン王国は連合国だ。それぞれの国によって呼び方が変わるんだ。北のスコー国は250年前ケント1世へ降伏の証として姫を差し出した。だから建国際ではなく婚礼の日と呼んで、その年の姫役を国中から選び街を練り歩くそうだよ。西のカンロ国ではケント1世に敗れた事を忘れない為に屈辱の日と呼ぶんだ。祭りではケント1世の人形を作り炎の中に放り込んで燃やしてしまうらしい」
「まあ!」
彼は笑ってさらに続けます。
「呼び方はそれぞれの貴族の領地によっても変わるんだ。例えばルイス」
話を振られたルイスは紅茶を口にしてから応えました。
「我がロンド家では11月5日を勝利の日と呼んでいる」
「あら、王家ですのに建国際とは呼びませんの?」
ルイスは苦笑いして、また紅茶をすすりました。どうやら応えたくないようです。それを笑ってジャスパーが代わりに言います。
「ブリトン王国を建国したのはケント1世だからね。悪名高きロンド家はそのケントの血筋を根絶やしにして王位を奪ったのさ。しかも建国の日に合わせて勝利宣言をしたんだ」
「やめてくれジャスパー、100年以上も前の話じゃないか。ハァ、だから私は歴史の授業が嫌いなんだ。ロンド家の非道な行いばかり出てくる……」
ジャスパーは肩をすくめて今度は静かに話を聞いていたテオに振ります。
「ベオルマ家ではなんと呼ばれているんだい?」
テオこと明星(あきと)もブリトン王国の事など、ましてアナドリのゲームすらやったことが無いのです。妹の朝日と同じく、ここの文化を知る訳がありません。けど彼はその少し強面な表情を崩さずさらりと応えました。
「興味が無いから知らないな、」
(おにぃ、ずるい!)
彼は雲行きが怪しいと、黙るか、知らないと言ってやり過ごすのです。普段から寡黙なキャラで通っているテオらしい対応です。
ジャスパーが疑念の目を向けます。
「統治者である貴族が、自分の領地で毎年開かれる祭りを知らないという事は無いだろう?」
「む……」
朝日は明星を助けてあげたかったのですが、代わりに応えたのはアイラでした。
「終戦の日じゃないですか?」
「ああ、そうだな。忘れていた」
今度はジャスパーの視線がアイラに向きます。
「アイラ嬢はベオルマの出身なのかい?」
「え?ええ、ベオルマには小さい頃にいた事があります……」
聖女であるアイラは教会の出ですが、テオとは血の繋がった兄妹なのです。その事を秘密にしている彼女はジャスパーの視線に耐えられずうつむいてしまいました。
見かねてルイスが助けに入ります。
「ベオルマ家は代々、王家に仕える武門の家系だからな。統治された日を終戦と呼ぶのは、らしいじゃないか」
「ケントからあっさりロンドに乗り換えたけれどね」
ジャスパーの皮肉に朝日も話を逸らします。
「思い出しましたわ!11月5日といえば、ケステル家では赤の日と呼ばれているじゃありませんの。統治祭などと、どおりで聞き馴染みがないと思いましたわ」
朝日はメイベールが持っている知識を引き継いでいるので、なんとか話を合わせる事が出来ました。
ジャスパーが向き直って聞きます。
「メイベール、なぜ我がケステル家では赤の日と定めているか知ってるかい?」
「それはケステル家が赤の公爵と呼ばれているからでしょう?」
「違うよ、メイベール。よく覚えておくといい。11月5日の赤はケント1世がスコー王を降伏させるため打ち上げた火球を表しているんだ。火球の逸話は歴史の授業で習っただろう?」
「ええ」
「夜空を赤く染めた火球にあやかり、赤の日と呼んでいる。ケステル家は火の魔法を得意としているしね。それに元々ケント1世は遡ればケステル家と血のつながりがあるんだ。うちはどこかの貴族に根絶やしにされずに生き残ったんだよ」
皆、呆れて笑っています。
(歴史の授業に出てくる偉人の子孫ばかりだなんて、お貴族はやっぱりすごいなぁ)
秋は徐々に深まり、暗い冬の訪れを前に木々も紅葉して華やかに色づき始めました。新入生たちも寮生活にようやく慣れて落ち着きを見せ始めた頃、その賑やかなイベントは始まります。
「とうちさい?」
ティータイムの席でジャスパーの話を聞いていたメイベールこと、朝日は聞き返しました。
「そうだよ。毎年この時期には統治王ケント1世を称え、国中で祭りが開かれているだろう?」
日本から『another world of dreams』通称アナドリと呼ばれる乙女ゲームに似た世界へ飛ばされ、あろうことかゲームの悪役令嬢キャラであるメイベールになってしまった朝日にとって、ここの文化など知る由もありません。
(けど確かゲームの中では建国際って呼ばれてなかったっけ?)
ジャスパーに問いただします。
「お兄様、それは建国際の間違いではなくて?」
ジャスパーは笑って応えます。
「メイベール、まだ勉強が足りないよ。建国際は確かに正式な名称さ、けれどブリトン王国は連合国だ。それぞれの国によって呼び方が変わるんだ。北のスコー国は250年前ケント1世へ降伏の証として姫を差し出した。だから建国際ではなく婚礼の日と呼んで、その年の姫役を国中から選び街を練り歩くそうだよ。西のカンロ国ではケント1世に敗れた事を忘れない為に屈辱の日と呼ぶんだ。祭りではケント1世の人形を作り炎の中に放り込んで燃やしてしまうらしい」
「まあ!」
彼は笑ってさらに続けます。
「呼び方はそれぞれの貴族の領地によっても変わるんだ。例えばルイス」
話を振られたルイスは紅茶を口にしてから応えました。
「我がロンド家では11月5日を勝利の日と呼んでいる」
「あら、王家ですのに建国際とは呼びませんの?」
ルイスは苦笑いして、また紅茶をすすりました。どうやら応えたくないようです。それを笑ってジャスパーが代わりに言います。
「ブリトン王国を建国したのはケント1世だからね。悪名高きロンド家はそのケントの血筋を根絶やしにして王位を奪ったのさ。しかも建国の日に合わせて勝利宣言をしたんだ」
「やめてくれジャスパー、100年以上も前の話じゃないか。ハァ、だから私は歴史の授業が嫌いなんだ。ロンド家の非道な行いばかり出てくる……」
ジャスパーは肩をすくめて今度は静かに話を聞いていたテオに振ります。
「ベオルマ家ではなんと呼ばれているんだい?」
テオこと明星(あきと)もブリトン王国の事など、ましてアナドリのゲームすらやったことが無いのです。妹の朝日と同じく、ここの文化を知る訳がありません。けど彼はその少し強面な表情を崩さずさらりと応えました。
「興味が無いから知らないな、」
(おにぃ、ずるい!)
彼は雲行きが怪しいと、黙るか、知らないと言ってやり過ごすのです。普段から寡黙なキャラで通っているテオらしい対応です。
ジャスパーが疑念の目を向けます。
「統治者である貴族が、自分の領地で毎年開かれる祭りを知らないという事は無いだろう?」
「む……」
朝日は明星を助けてあげたかったのですが、代わりに応えたのはアイラでした。
「終戦の日じゃないですか?」
「ああ、そうだな。忘れていた」
今度はジャスパーの視線がアイラに向きます。
「アイラ嬢はベオルマの出身なのかい?」
「え?ええ、ベオルマには小さい頃にいた事があります……」
聖女であるアイラは教会の出ですが、テオとは血の繋がった兄妹なのです。その事を秘密にしている彼女はジャスパーの視線に耐えられずうつむいてしまいました。
見かねてルイスが助けに入ります。
「ベオルマ家は代々、王家に仕える武門の家系だからな。統治された日を終戦と呼ぶのは、らしいじゃないか」
「ケントからあっさりロンドに乗り換えたけれどね」
ジャスパーの皮肉に朝日も話を逸らします。
「思い出しましたわ!11月5日といえば、ケステル家では赤の日と呼ばれているじゃありませんの。統治祭などと、どおりで聞き馴染みがないと思いましたわ」
朝日はメイベールが持っている知識を引き継いでいるので、なんとか話を合わせる事が出来ました。
ジャスパーが向き直って聞きます。
「メイベール、なぜ我がケステル家では赤の日と定めているか知ってるかい?」
「それはケステル家が赤の公爵と呼ばれているからでしょう?」
「違うよ、メイベール。よく覚えておくといい。11月5日の赤はケント1世がスコー王を降伏させるため打ち上げた火球を表しているんだ。火球の逸話は歴史の授業で習っただろう?」
「ええ」
「夜空を赤く染めた火球にあやかり、赤の日と呼んでいる。ケステル家は火の魔法を得意としているしね。それに元々ケント1世は遡ればケステル家と血のつながりがあるんだ。うちはどこかの貴族に根絶やしにされずに生き残ったんだよ」
皆、呆れて笑っています。
(歴史の授業に出てくる偉人の子孫ばかりだなんて、お貴族はやっぱりすごいなぁ)
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