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第六章「令嬢探偵」 6-1
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ティータイムに紅茶をすすっていると、いつものようにジャスパーが話を振ってきました。
「聞いたかい?図書館の噂」
「知りませんわ。何ですの?」
妹の反応がいいので、兄も嬉しそうです。貴族たるもの情報通でなくてはなりません。仕入れた話題をウイットに富んだジョークを挟みつつティータイムに語ってこそ紳士と呼べるのです。
「昨日の夜、出たのさ……」
ジャスパーはもったい付ける様に紅茶を一口含んでから言いました。
「……幽霊が」
ルイスもテオも鼻で笑います。
「お兄様、わたくしもう子供ではなくてよ?そういう話は卒業いたしました」
「信じてくれないのかい?妹よ」
「信じるも何も幽霊なんて、」
「まあ、聞きたまえ。この話は確かな情報なんだ。僕が聞いたのは同じ6年生の友人からだ。彼女はチップ稼ぎに先生の手伝いをしていてね。その先生が図書室で見たと言っているんだ」
既にまた聞きなので確かな情報とは呼べませんが、皆ツッコまず彼の話に耳を傾けました。
「先生達の研究室は図書館にあるだろう?その先生は昨晩、遅くまで資料をまとめていたらしい。すると図書室から物音が聞こえてきたんだ。時間は午後九時をとうに過ぎていた。寮の門限は9時だから、誰もいないはずだ。もしかすると生徒が隠れて何かしているのかもしれない。だとしたら懲罰対象になる。先生は確認に向かい、そこで白い影を見たんだ」
「まあ!それで先生は?」
「見間違いじゃないかと灯りをつけ徹底的に調べたそうだよ。すると散乱する本を見つけたんだ。おそらくこれは本がひとりでに飛び回るフライングブックだろう」
ルイスが口を挟みます。
「フライングブックか、フフ」
笑った彼が目の前で指をクルクルと回して見せます。
「魔導士ならば物を浮かび上がらせることは可能だ。空気を操る風魔法だから、操作は難しいがね。こんな話を知っている。まだ魔法が貴族の秘術とされ一般人はほとんど目にする機会が無かった頃、お忍びで街に出かけた貴族が隠れて物を浮かび上がらせ、人々が怖がるさまを楽しんだそうだ。なんとも悪趣味なイタズラだ」
ジャスパーも指を左右に振ってみせます。
「場所は図書館だよ。あそこには貴重な資料が保管されているから、魔法封じの結界が張られているんだ。中で魔法を使うのは困難さ。しかも操作の難しい風魔法なんてね」
「ふむ……」
「知ってるかい?古い魔導書には意思が宿ると言われている。魔導士達が何百年にも渡って手に取ってきた代物だからね。魔力が少しずつ蓄積していてもおかしくはない。ある貴族の家系では、モノに意思を持たせる研究もされていたというしね。先生が見た影というのは意思を持った本の姿だったのかもしれないんだ」
「幽霊と魔法によるものとでは、意味が違ってきますわ」
「メイベール、幽霊という話もまだ否定は出来ないよ。もうすぐ秋の収穫祭じゃないか。それに合わせて先祖の霊や、さまよえる魂に悪魔までが死後の世界からやってくると言われているだろう?まぁ、収穫祭は統治祭と日にちも近いから、あまり目立たないけどね」
「お兄様は幽霊に話をこじつけたいだけじゃありません?」
テオが言います。
「そういえば図書館に本をちゃんと戻すよう、張り紙がされていた。誰かが散らかしたまま帰ったんだろう」
「それだよ!」
ジャスパーがテオに指をさしました。
「本が散らかっていたのは2日連続だったんだ。誰かが片付けないから張り紙がされた。図書係も昨日は最後に出てくる際に、本が片付けられている事を確認している。なのに夜中、先生が見に行くと本が散らばっていたんだ」
「なら余計に誰かのいたずらだろう」
「テオは幽霊を信じないのかい?」
「ああ。もし幽霊がいるのなら戦場で手柄を立ててきたベオルマ家は今頃、戦死者の霊に呪い殺されているからな」
テオの隣でフフフと笑っているアイラにも聞きます。
「聖職者なら幽霊は信じているのだろう?」
「そうですね……幽霊はともかく死後の魂が安らかであるよう、収穫祭には祈りを捧げますよ」
彼は小さくため息を吐きました。
「実はね、この件に関して僕が調べる事になってね」
「フフ、お兄様が?そういえば小さな頃に屋敷の中を一緒に探索いたしましたわね。お化けを見つけるんだと屋根裏部屋に登って怒られましたわ」
「屋根裏部屋に登ろうと言い出したのはキミの方だよ?今回のはそんな子供の遊びじゃないんだ。僕が寮の監督生なのは知っているだろう?テオが言うように生徒がいたずらしているんじゃないかという事で、僕の監督責任が問われているのさ」
兄の視線が妹を捉えます。
「誰か一緒に調べてくれないものだろうか……」
分かりやすくメイベールに手伝って欲しい様です。朝日も本ばかり読むことに退屈していたところです。笑顔で応えました。
「いいですわよ。お手伝いいたしますわ。お兄様」
「聞いたかい?図書館の噂」
「知りませんわ。何ですの?」
妹の反応がいいので、兄も嬉しそうです。貴族たるもの情報通でなくてはなりません。仕入れた話題をウイットに富んだジョークを挟みつつティータイムに語ってこそ紳士と呼べるのです。
「昨日の夜、出たのさ……」
ジャスパーはもったい付ける様に紅茶を一口含んでから言いました。
「……幽霊が」
ルイスもテオも鼻で笑います。
「お兄様、わたくしもう子供ではなくてよ?そういう話は卒業いたしました」
「信じてくれないのかい?妹よ」
「信じるも何も幽霊なんて、」
「まあ、聞きたまえ。この話は確かな情報なんだ。僕が聞いたのは同じ6年生の友人からだ。彼女はチップ稼ぎに先生の手伝いをしていてね。その先生が図書室で見たと言っているんだ」
既にまた聞きなので確かな情報とは呼べませんが、皆ツッコまず彼の話に耳を傾けました。
「先生達の研究室は図書館にあるだろう?その先生は昨晩、遅くまで資料をまとめていたらしい。すると図書室から物音が聞こえてきたんだ。時間は午後九時をとうに過ぎていた。寮の門限は9時だから、誰もいないはずだ。もしかすると生徒が隠れて何かしているのかもしれない。だとしたら懲罰対象になる。先生は確認に向かい、そこで白い影を見たんだ」
「まあ!それで先生は?」
「見間違いじゃないかと灯りをつけ徹底的に調べたそうだよ。すると散乱する本を見つけたんだ。おそらくこれは本がひとりでに飛び回るフライングブックだろう」
ルイスが口を挟みます。
「フライングブックか、フフ」
笑った彼が目の前で指をクルクルと回して見せます。
「魔導士ならば物を浮かび上がらせることは可能だ。空気を操る風魔法だから、操作は難しいがね。こんな話を知っている。まだ魔法が貴族の秘術とされ一般人はほとんど目にする機会が無かった頃、お忍びで街に出かけた貴族が隠れて物を浮かび上がらせ、人々が怖がるさまを楽しんだそうだ。なんとも悪趣味なイタズラだ」
ジャスパーも指を左右に振ってみせます。
「場所は図書館だよ。あそこには貴重な資料が保管されているから、魔法封じの結界が張られているんだ。中で魔法を使うのは困難さ。しかも操作の難しい風魔法なんてね」
「ふむ……」
「知ってるかい?古い魔導書には意思が宿ると言われている。魔導士達が何百年にも渡って手に取ってきた代物だからね。魔力が少しずつ蓄積していてもおかしくはない。ある貴族の家系では、モノに意思を持たせる研究もされていたというしね。先生が見た影というのは意思を持った本の姿だったのかもしれないんだ」
「幽霊と魔法によるものとでは、意味が違ってきますわ」
「メイベール、幽霊という話もまだ否定は出来ないよ。もうすぐ秋の収穫祭じゃないか。それに合わせて先祖の霊や、さまよえる魂に悪魔までが死後の世界からやってくると言われているだろう?まぁ、収穫祭は統治祭と日にちも近いから、あまり目立たないけどね」
「お兄様は幽霊に話をこじつけたいだけじゃありません?」
テオが言います。
「そういえば図書館に本をちゃんと戻すよう、張り紙がされていた。誰かが散らかしたまま帰ったんだろう」
「それだよ!」
ジャスパーがテオに指をさしました。
「本が散らかっていたのは2日連続だったんだ。誰かが片付けないから張り紙がされた。図書係も昨日は最後に出てくる際に、本が片付けられている事を確認している。なのに夜中、先生が見に行くと本が散らばっていたんだ」
「なら余計に誰かのいたずらだろう」
「テオは幽霊を信じないのかい?」
「ああ。もし幽霊がいるのなら戦場で手柄を立ててきたベオルマ家は今頃、戦死者の霊に呪い殺されているからな」
テオの隣でフフフと笑っているアイラにも聞きます。
「聖職者なら幽霊は信じているのだろう?」
「そうですね……幽霊はともかく死後の魂が安らかであるよう、収穫祭には祈りを捧げますよ」
彼は小さくため息を吐きました。
「実はね、この件に関して僕が調べる事になってね」
「フフ、お兄様が?そういえば小さな頃に屋敷の中を一緒に探索いたしましたわね。お化けを見つけるんだと屋根裏部屋に登って怒られましたわ」
「屋根裏部屋に登ろうと言い出したのはキミの方だよ?今回のはそんな子供の遊びじゃないんだ。僕が寮の監督生なのは知っているだろう?テオが言うように生徒がいたずらしているんじゃないかという事で、僕の監督責任が問われているのさ」
兄の視線が妹を捉えます。
「誰か一緒に調べてくれないものだろうか……」
分かりやすくメイベールに手伝って欲しい様です。朝日も本ばかり読むことに退屈していたところです。笑顔で応えました。
「いいですわよ。お手伝いいたしますわ。お兄様」
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