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放課後、再調査のため図書館を訪れました。中へ入る前に朝日はメモをしていた手帳を取り出し、頭の整理をしようと扉の前で兄に確認します。
「図書館は8時には閉まりますわ。先生は内側から鍵をかけたとおっしゃっていました。その後9時には寮の点呼があります。その点呼では生徒が全員揃っていた事が確認されていますわ。そして図書室で物音がしたのが10時前」
「可能性を一つずつ挙げていこう。僕は最初から生徒のイタズラだと決めつけていたのが悪かったのかもしれない」
「生徒は寮にいたのですし……もしかして先生が?」
「生徒を驚かすため自作自演をしている可能性は否定できない。これまで生徒から、いたずらをされ続けてきたんだからね。お返しをたくらんだって不思議ではないよ」
「じゃあ、聞いてみます?」
「やめておこう。それは、もし間違っていた時に失礼が過ぎる。ただのいたずらなのだし、問い詰めたところで野暮というものだよ。それよりも他の可能性の方が心配だ」
「というと?」
「本当に窃盗事件じゃないかって事さ」
「まあ!もしそうなら大変じゃありませんか」
「だから僕も気が重かったのさ……」
空はジャスパーの心情を表す様に今日もどんより曇っています。もう冬の空です。寒風が二人の間をピューっと吹き抜けました。
「お兄様、取りあえず中に入りましょう」
図書館の中へ入り、朝日は手をこすり合わせました。
「急に寒くなりましたわね」
ジャスパーの方は寒そうにしていません。その顔はなぜか少し自慢げです。
「妹よ、いい事を教えてあげよう」
彼はポケットに突っ込んでいた手を出し、手のひらを見せてきます。
「なんですの?」
「触ってごらん」
言われた通り、手のひらを重ねてみるとビックリするほど熱いのです。おどろく妹を見て兄は笑って言います。
「火の魔法だよ」
朝日は周りを見渡し、ロビーに先生がいないことを確認しましたが、それでも声を潜めて言いました。
「お兄様、校内で魔法を使うのは禁止でしてよ?」
「知っているさ」
彼は笑って教えてくれました。
「魔法と言ってもこれは魔法を発動する前段階。体内で魔力を練り上げている状態だよ。厳密には魔法じゃない。だから魔法封じの結界が張られている図書館の中でも使えるだろう?」
「言われてみればそうですわ」
「僕達の適性は火だ。魔力にも熱エネルギーを帯びているんだ。その魔力を練り上げるだけでこんなにも温かくなるんだよ」
「温かいというより、熱くありません?大丈夫ですの?」
「大丈夫だよ。今のはビックリさせようと思って少し熱めにしたんだ。そもそも通常、魔法を発動しようとすると体にはその魔法に合わせてシールドの様なものが展開される。考えてご覧、とんでもない威力の火球を目の前に出しても、出した本人は熱くはないだろう?」
「そうですわね」
「これも同じ理屈だよ。魔導士本人は熱くはないが、周りに影響を及ぼしてるんだ。だから温かい。これからの季節、使える様になると便利だよ。やってみるかい?」
「ええ、ぜひ!」
「本当は3年生になってから教わるのだけどね。キミなら簡単にこなせるだろう」
二人は邪魔にならない様、ロビーの端に移動しました。
胸の前に手を出します。ジャスパーが右手を、メイベールが左手を出し、お互い手を合わせました。
「練り上げている最中に体外へ魔力を出してしまうと、それは魔法だよ。ただ魔力が放出されるだけのね。キミも初日の授業で経験したんじゃないかな?」
彼の顔がニヤニヤと笑っています。
「もうあの事はいいじゃありませんの!早くやり方を教えてくださいまし!」
「分かった、分かった。じゃあ、集中して……いいかい?まず火の魔法をイメージするんだ。そしたら体の中に魔力を巡らす。その魔力を手のひらへ持ってくるんだ。あふれ出しても僕が受け止めるから安心して」
朝日は手のひらに魔力を集中させました。
「うん。もう少し弱めようか。こちらに溢れている。手のひらのギリギリで止める感じだよ」
今度は手のひらから魔力を戻します。
「うん。戻し過ぎてるね。ゆっくりゆっくり、押し出す感じで」
言われた通り、意識します。
「ストップ。そのまま維持してみようか」
手のひらに魔力をとどまらせていると、だんだん熱くなってくるのを感じます。
「よし。完璧だ。その感覚を忘れないように」
「ええ!」
ニッコリ笑って見せると兄は少し寂しそうな表情を浮かべました。
「やっぱりキミには才能があるようだ。本当にあっという間に出来てしまうなんてね。兄として立場が無いな……」
「何をおっしゃいますの?お兄様はわたくしに初めて魔法というものを教えて下さったのですわよ。子供の頃からずっと尊敬いたしております」
兄は笑顔を見せてくれました。
「図書館は8時には閉まりますわ。先生は内側から鍵をかけたとおっしゃっていました。その後9時には寮の点呼があります。その点呼では生徒が全員揃っていた事が確認されていますわ。そして図書室で物音がしたのが10時前」
「可能性を一つずつ挙げていこう。僕は最初から生徒のイタズラだと決めつけていたのが悪かったのかもしれない」
「生徒は寮にいたのですし……もしかして先生が?」
「生徒を驚かすため自作自演をしている可能性は否定できない。これまで生徒から、いたずらをされ続けてきたんだからね。お返しをたくらんだって不思議ではないよ」
「じゃあ、聞いてみます?」
「やめておこう。それは、もし間違っていた時に失礼が過ぎる。ただのいたずらなのだし、問い詰めたところで野暮というものだよ。それよりも他の可能性の方が心配だ」
「というと?」
「本当に窃盗事件じゃないかって事さ」
「まあ!もしそうなら大変じゃありませんか」
「だから僕も気が重かったのさ……」
空はジャスパーの心情を表す様に今日もどんより曇っています。もう冬の空です。寒風が二人の間をピューっと吹き抜けました。
「お兄様、取りあえず中に入りましょう」
図書館の中へ入り、朝日は手をこすり合わせました。
「急に寒くなりましたわね」
ジャスパーの方は寒そうにしていません。その顔はなぜか少し自慢げです。
「妹よ、いい事を教えてあげよう」
彼はポケットに突っ込んでいた手を出し、手のひらを見せてきます。
「なんですの?」
「触ってごらん」
言われた通り、手のひらを重ねてみるとビックリするほど熱いのです。おどろく妹を見て兄は笑って言います。
「火の魔法だよ」
朝日は周りを見渡し、ロビーに先生がいないことを確認しましたが、それでも声を潜めて言いました。
「お兄様、校内で魔法を使うのは禁止でしてよ?」
「知っているさ」
彼は笑って教えてくれました。
「魔法と言ってもこれは魔法を発動する前段階。体内で魔力を練り上げている状態だよ。厳密には魔法じゃない。だから魔法封じの結界が張られている図書館の中でも使えるだろう?」
「言われてみればそうですわ」
「僕達の適性は火だ。魔力にも熱エネルギーを帯びているんだ。その魔力を練り上げるだけでこんなにも温かくなるんだよ」
「温かいというより、熱くありません?大丈夫ですの?」
「大丈夫だよ。今のはビックリさせようと思って少し熱めにしたんだ。そもそも通常、魔法を発動しようとすると体にはその魔法に合わせてシールドの様なものが展開される。考えてご覧、とんでもない威力の火球を目の前に出しても、出した本人は熱くはないだろう?」
「そうですわね」
「これも同じ理屈だよ。魔導士本人は熱くはないが、周りに影響を及ぼしてるんだ。だから温かい。これからの季節、使える様になると便利だよ。やってみるかい?」
「ええ、ぜひ!」
「本当は3年生になってから教わるのだけどね。キミなら簡単にこなせるだろう」
二人は邪魔にならない様、ロビーの端に移動しました。
胸の前に手を出します。ジャスパーが右手を、メイベールが左手を出し、お互い手を合わせました。
「練り上げている最中に体外へ魔力を出してしまうと、それは魔法だよ。ただ魔力が放出されるだけのね。キミも初日の授業で経験したんじゃないかな?」
彼の顔がニヤニヤと笑っています。
「もうあの事はいいじゃありませんの!早くやり方を教えてくださいまし!」
「分かった、分かった。じゃあ、集中して……いいかい?まず火の魔法をイメージするんだ。そしたら体の中に魔力を巡らす。その魔力を手のひらへ持ってくるんだ。あふれ出しても僕が受け止めるから安心して」
朝日は手のひらに魔力を集中させました。
「うん。もう少し弱めようか。こちらに溢れている。手のひらのギリギリで止める感じだよ」
今度は手のひらから魔力を戻します。
「うん。戻し過ぎてるね。ゆっくりゆっくり、押し出す感じで」
言われた通り、意識します。
「ストップ。そのまま維持してみようか」
手のひらに魔力をとどまらせていると、だんだん熱くなってくるのを感じます。
「よし。完璧だ。その感覚を忘れないように」
「ええ!」
ニッコリ笑って見せると兄は少し寂しそうな表情を浮かべました。
「やっぱりキミには才能があるようだ。本当にあっという間に出来てしまうなんてね。兄として立場が無いな……」
「何をおっしゃいますの?お兄様はわたくしに初めて魔法というものを教えて下さったのですわよ。子供の頃からずっと尊敬いたしております」
兄は笑顔を見せてくれました。
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