アナザーワールド・オブ・ドリームズ

二コ・タケナカ

文字の大きさ
49 / 160

7-2

しおりを挟む
カラーン、カラーン、カラーン、

「はぁーーーーーーーっ」
授業終了の鐘の音を聞き、朝日はゆっくり静かに息を吐きました。授業中に睡魔に襲われ、寝ないようにお腹に力を籠めて耐えていたのです。彼女は最前列のど真ん中の席に座っているので、先生が目の前に居て寝る事は出来ません。何より、ほんの少しウトウトしただけで後ろにいるクラスメイトには、すぐにバレてしまいます。そんな失態、ケステル家の令嬢であるメイベールには許されません。
しかし、今日はやけに眠たいのです。お嬢様の方も同じらしく、体を任せて授業を受けてもらう事は出来ませんでした。

「大丈夫ですか?」
となりのアイラが心配そうに声をかけてきました。彼女には様子がおかしいのが分かっていたのでしょう。
「うん。ちょっと眠いだけ……最近寒くなってきたから、朝も起きられなくて」
「メイベールさん、図書館でずっと本を読んでたから疲れてるんじゃないですか?」
「あぁ、きっとそれだ」
「気分転換にお茶を飲みに行きましょう」

食堂に入るとジャスパーの後ろ姿を見つけました。
(そうだ!)
駆け寄って手を取ります。
「お兄ちゃん、魔力わけて」
彼は驚く事も、笑顔を見せる事もなく、表情を崩さず言いました。
「メイベール、世間体というものを考えなさい。」
そこは食堂、周りにはティータイムに集まる生徒達がいます。兄は生徒達の模範となるべき監督生であり、それ以前に貴族の中でも公爵という最高位の立場は他の貴族から敬意を払われる存在です。敬われるにはそれにふさわしい毅然とした態度が求められます。それは妹であるメイベールにもです。
お嬢様が『お兄ちゃん』と呼んで甘えたのは、ひと月前のアノ時のみです。彼女も普段の生活では兄の事を敬い、ケステル家次期当主として立てているのでした。

比べて朝日の中のジャスパー像は、アナドリに出てくる優しい兄そのままです。普段から冗談を言って楽しませてくれる気遣いの出来る存在。少し甘え過ぎていたのかもしれません。
(兄妹で手を繋ぐくらい……)
怒らせてしまったのかと思いましたが、つないだ手からは物凄い勢いで魔力が注がれました。あっという間に眠気は吹き飛び、活力がみなぎります。やはり兄は妹に優しいのです。
「ありがと、お兄ちゃん」
笑いかけると今度はいつもの笑顔を見せてくれました。
「しょうがない妹だ……さあ、紅茶を飲みに行こう」

ティータイムにいつものメンバーが揃いました。普段ならジャスパーが楽しいネタを話してくれるのですか、珍しく彼はため息を吐きました。
「ハァ、聞いておくれ妹よ」
「何でしょう?お兄様」
「どうやら僕は探偵に向いていないらしい」
「どういう事ですか?」
「昨日の推理は間違っていたって事さ」
彼が言うにはイタズラしすぎないように、例の友人をたしなめたのだそう。ところが彼女は何のことかさっぱり分からないと、イタズラの実行を否定したというのです。

「それは、認めてしまったら本当に犯人という事になってしまうからではありませんの?」
「いや、そうじゃない。話した感じでは本当にイタズラなどしていない様なんだ」
ルイスが頷きます。
「彼女は先生を手伝っているだけあって、真面目な生徒だ。イタズラを面白がってする様な性格には思えないな」
「そうだね。僕の思慮が足りなかったよ。彼女は優秀な成績を認められ、奨学金を受け取って進学したんだ。先生達の信頼を損なう事はしないだろう」
「では、他に犯人がいると?」
「そういう事になるね。メイベール、今日も探偵ごっこに付き合ってくれるかい?」
朝日は返事をためらいました。お嬢様は調べものに時間を取りたいはずです。けれど、
「もちろんです。お兄様」
こちらが気を使う間もなく、お嬢様は二つ返事で了承してしまいました。兄の頼みは断れないのでしょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

処理中です...