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第十一章 「冬休み」 11-1
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季節は冬に入り、どんよりとした曇り空が続くようになりました。日差しはほとんど射さず、風が吹けば肌を刺す様に冷たく身に沁みます。
けれど生徒達は気の滅入る冬の寒空なんて、なんのその。その心は春風の様に軽やかに浮足立っていました。もうすぐ冬期休暇が始まるのです。
リード魔法学校の冬休みは4週間と長く、生徒達は皆それぞれの領地へと帰省します。規則正しい寮生活から解放され、自由の効く家族の元へ。特に入学して3か月が経った一年生にとっては初めてまとまった休みが取れるのですから、待ち遠しいのは当たり前です。一部を除いては……
いつものティータイムにジャスパーが冬期休暇を話題に上げました。
「皆、冬休みは何をして過ごすんだい?」
そう聞いたジャスパーでしたが、応えを待つまでもなく自ら話し始めました。彼も帰省を楽しみにしているようです。
「僕は思う存分、キツネ狩りを愉しむつもりさ」
「いいですわね!お兄様」
メイベールの体も狩りという言葉に反応して口が勝手に開きました。キツネ狩りは貴族の嗜みとして人気がありますが、お嬢様は狩りそのものより馬に乗って遠乗りする事が好きなのです。
(キツネ狩り?えー……可哀想じゃん)
朝日には何が楽しくて動物を狩るのか理解できません。
ルイスが飲んでいた紅茶のカップを置き、つぶやきました。
「狩りか……私はしたことが無いな」
「なら、ルイス様もご一緒になさいませんか?ねえ?お兄様」
「うーん……都合が付けば構わないが、ルイスは馬の世話があるんだよ。今年も寮に残るのかい?」
「あら、ルイス様は休みの間もここに?」
ケステル兄妹の赤い瞳が彼に向けられます。
「馬の世話を放り出すわけにはいかないからね、毎年帰ってはいないんだ。だが今年は父上に帰ってくるようにと言われていてね。どのみち付き合う事は出来ないよ」
「そうですの……」
今度は朝日が口を開きました。
「テオ様はどうしますの?よかったらわたくしと一緒に休暇を過ごしませんか?」
ジャスパーの鋭い視線が飛んできましたが、構いません。4週間も明星(あきと)と離れ離れになるなど、朝日はこれまで経験したことはないのです。明星ならこの気持ちを察してくれると思ったのですが、その応えは期待に添わないものでした。
「オレも学校に残ろうと思っていたんだが、帰ってくるようにと言われている」
「そうですの……」
ジャスパーがなだめます。
「まあ、領主の息子として新年の祝賀会に顔を出さないわけにはいかないからね。いや、残念だよ。うん。」
兄の顔はにこやかでした。今度は妹が鋭い視線を向けます。その矛先をかわす様に、ジャスパーがアイラに話を振ります。
「アイラ嬢はこの冬休み、どうするんだい?」
「えっと、私は……」
言葉をためらった彼女の視線はなぜかルイスの方を伺っていました。その彼は澄まして紅茶をすすり、視線に応えようとはしません。
「……まだ、分かりません」
「そうかい。」
ジャスパーはあえてそれ以上、聞いたりしませんでした。
「皆、それぞれ冬休みを愉しもうじゃないか」
けれど生徒達は気の滅入る冬の寒空なんて、なんのその。その心は春風の様に軽やかに浮足立っていました。もうすぐ冬期休暇が始まるのです。
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いつものティータイムにジャスパーが冬期休暇を話題に上げました。
「皆、冬休みは何をして過ごすんだい?」
そう聞いたジャスパーでしたが、応えを待つまでもなく自ら話し始めました。彼も帰省を楽しみにしているようです。
「僕は思う存分、キツネ狩りを愉しむつもりさ」
「いいですわね!お兄様」
メイベールの体も狩りという言葉に反応して口が勝手に開きました。キツネ狩りは貴族の嗜みとして人気がありますが、お嬢様は狩りそのものより馬に乗って遠乗りする事が好きなのです。
(キツネ狩り?えー……可哀想じゃん)
朝日には何が楽しくて動物を狩るのか理解できません。
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「狩りか……私はしたことが無いな」
「なら、ルイス様もご一緒になさいませんか?ねえ?お兄様」
「うーん……都合が付けば構わないが、ルイスは馬の世話があるんだよ。今年も寮に残るのかい?」
「あら、ルイス様は休みの間もここに?」
ケステル兄妹の赤い瞳が彼に向けられます。
「馬の世話を放り出すわけにはいかないからね、毎年帰ってはいないんだ。だが今年は父上に帰ってくるようにと言われていてね。どのみち付き合う事は出来ないよ」
「そうですの……」
今度は朝日が口を開きました。
「テオ様はどうしますの?よかったらわたくしと一緒に休暇を過ごしませんか?」
ジャスパーの鋭い視線が飛んできましたが、構いません。4週間も明星(あきと)と離れ離れになるなど、朝日はこれまで経験したことはないのです。明星ならこの気持ちを察してくれると思ったのですが、その応えは期待に添わないものでした。
「オレも学校に残ろうと思っていたんだが、帰ってくるようにと言われている」
「そうですの……」
ジャスパーがなだめます。
「まあ、領主の息子として新年の祝賀会に顔を出さないわけにはいかないからね。いや、残念だよ。うん。」
兄の顔はにこやかでした。今度は妹が鋭い視線を向けます。その矛先をかわす様に、ジャスパーがアイラに話を振ります。
「アイラ嬢はこの冬休み、どうするんだい?」
「えっと、私は……」
言葉をためらった彼女の視線はなぜかルイスの方を伺っていました。その彼は澄まして紅茶をすすり、視線に応えようとはしません。
「……まだ、分かりません」
「そうかい。」
ジャスパーはあえてそれ以上、聞いたりしませんでした。
「皆、それぞれ冬休みを愉しもうじゃないか」
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