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気を取り直し、火を起こします。
指先にともした小さな炎を葉っぱに近づけます。けれど葉っぱは湿気っていて、モクモクと煙ばかり立ち登りました。しかもカマドの上には調理用の穴が空いています。そこから煙が出てくるのを見てから慌てて鍋を置いたので、部屋は煙たくなってしまいました。
「コホ!コホ!もっと火力が無いと燃えないのかな?……ファイヤー」
今度は力を抑えた火球をカマドの中に放ちました。すると葉っぱや小枝はブワッ!と一瞬で灰になり、薪が赤々と燃え盛りはじめました。火力が強すぎたようです。怖くなった朝日は小さなシールドを張って薪の投入口を塞ぎました。
アイラがスープの準備を進めます。海藻を洗って刻んでいるうちに、鍋にはグラグラとお湯が沸きました。
「ちょっと火が強すぎません?」
「弱めるにはどうすればいいの?」
アイラも首を振ります。
しょうがないので煮え立つお湯に海藻を入れました。濃い緑色だったのが、パッと鮮やかな薄緑に変わります。アイラは続けて小枝を1本入れました。
「ソレ、なに?」
「ローズマリーの枝です。香りづけのハーブですね」
湯気からは爽やかなハーブの香りが立ちのぼってきました。
「さっき庭で見つけたんで、取ったんです」
「へー、さすが園芸クラブ。アタシはそういうの全然わかんないや」
「フフフ、後は味付けを……」
調味料を探すアイラに代わり、鍋をかき混ぜていた朝日。段々とスープの様子が変わってきました。
「ねえ……コレ大丈夫?ドロドロになってきたんだけど、」
「わあっ!煮すぎです!」
鍋を火から下ろしたくても煙が出ないように蓋の役目をしていたので、あたふたするうちに手遅れになってしまいました。海藻は溶けて随分と減った様に見えます。
「コレは……そう!とろみの付いたスープだと思えば大丈夫だよ。体も温まりそうだし」
「そう……ですね」
アイラは見つけた塩で味を調え始めました。けれど何度味見をしても納得いかないようです。
「あぁ、ごめんなさい。多分失敗です……私、もう一度海藻を拾ってきますね」
「いいよ!いいよ!もう暗くなり始めてるし」
外は日が沈み始めていました。今日は食材を探すだけで時間を潰してしまったのです。
「さあ、食べよ?」
カップにスープを注ぎ、テーブルに着きました。
アイラが祈りのポーズをとったので、朝日もそれを真似てから、ひと口すすります。
(うぅーん……しょっぱい)
ソレはスープと呼ぶにはお粗末なものでした。味は海藻の旨味や風味の様なものがほとんど無く、しょっぱいだけなのです。ローズマリーも香りづけの為だけにあるので口に入れた瞬間は匂うものの、後に残るのは塩味のみです。唯一の利点はドロドロとしているので、お腹に入れると温まれる事でした。
お腹は減っていましたが、食は進みません。ほとんど水分なので食欲がわかないのです。先ほどから気遣ってくれていたアイラも流石に失敗した料理を出したことが申し訳なかったのか無言でした。
コン、コン、コン
窓を叩く音に振り向くとオリバーが立っています。彼は何か言うのでもなく、直ぐに立ち去ってしまいました。何だったんだろう?と、窓に近づくと窓辺には紙袋に入れられたパンが置かれていました。
「やったー!パンくれた!あの人、いい人じゃん!」
お礼を言おうと小屋を出ましたが、彼は既に石垣の外に出ていて帽子だけが遠ざかっていくのが見えました。どうやら帰って行くようです。
改めて食事の再開です。
パンはフォークに刺し、カマドで温めながら食べました。プレーンなパンでしたが、ようやく口に入った固形物に胃が喜んでいるかのようです。食欲が急に湧きます。しょっぱいスープもパンと一緒なら丁度飲みやすくなりました。
お腹は一応満たされ体も温まったので、やっと落ち着いた二人。カマドの前で暖をとりながらこれからどうするか話し合いました。
「明日はどうしよう。食べ物探すだけでこんなにも疲れるなんて、やっぱりコレ特訓なんかじゃなくお仕置きだよ」
「魔法をうまく使う事が特訓なんじゃないですか?私が雷で魚をうまく獲れていれば……」
アイラは薪をからげてあった針金をほどきながら考え込んでしまいました。
「魔法か……」
朝日も考えます。お嬢様なら魔法で何とかしてくれるかもしれません。
「ねえ、明日は狩をしてみない?」
「狩ですか?」
「うん。言ってたでしょ?まずウサギを捕まえろって。あれは課題なんじゃないかな?」
「でも私、狩なんてした事ないですよ?」
「そこは多分、大丈夫。」
ニッコリ笑ってみせます。
(お嬢様に手伝ってもらうから)
朝日も針金を手に取ります。それを曲げてねじって、その場しのぎのハンガーを作りました。着ていたコートを掛け、南の窓に吊るします。少しでも冷気が入ってこないようにしたいのです。
「あのオジサンに言えば食べ物分けてくれそうじゃない?今日も結局、あの人に欲しいって言ったら全部用意してくれたし、狩に時間を充てても少しくらいなら大丈夫だよ」
「そうですね」
アイラも同じようにハンガーを作り、吊るします。
「食べ物はなんとかなるとして、お風呂はどうしよう?髪、潮風でパサパサだよぉ」
「ですね。」
「着替えも無いし……」
そうだ!と思い出し、朝日は唯一持っていたハンカチをお湯に浸して顔と髪を拭き始めました。アイラも真似て拭き始めます。
「フフ、メイベールさん意外と生活力が高いというか、物事に動じないというか、私なんとかなりそうな気がしてきました」
「そう?」
二人で笑い合います。
「今日はもう疲れたから寝ようか」
「はい。」
くっつき合ってベッドに入ると、アイラの髪からは磯の香りがしました。
(ハァ……おにぃの手料理が食べたい)
指先にともした小さな炎を葉っぱに近づけます。けれど葉っぱは湿気っていて、モクモクと煙ばかり立ち登りました。しかもカマドの上には調理用の穴が空いています。そこから煙が出てくるのを見てから慌てて鍋を置いたので、部屋は煙たくなってしまいました。
「コホ!コホ!もっと火力が無いと燃えないのかな?……ファイヤー」
今度は力を抑えた火球をカマドの中に放ちました。すると葉っぱや小枝はブワッ!と一瞬で灰になり、薪が赤々と燃え盛りはじめました。火力が強すぎたようです。怖くなった朝日は小さなシールドを張って薪の投入口を塞ぎました。
アイラがスープの準備を進めます。海藻を洗って刻んでいるうちに、鍋にはグラグラとお湯が沸きました。
「ちょっと火が強すぎません?」
「弱めるにはどうすればいいの?」
アイラも首を振ります。
しょうがないので煮え立つお湯に海藻を入れました。濃い緑色だったのが、パッと鮮やかな薄緑に変わります。アイラは続けて小枝を1本入れました。
「ソレ、なに?」
「ローズマリーの枝です。香りづけのハーブですね」
湯気からは爽やかなハーブの香りが立ちのぼってきました。
「さっき庭で見つけたんで、取ったんです」
「へー、さすが園芸クラブ。アタシはそういうの全然わかんないや」
「フフフ、後は味付けを……」
調味料を探すアイラに代わり、鍋をかき混ぜていた朝日。段々とスープの様子が変わってきました。
「ねえ……コレ大丈夫?ドロドロになってきたんだけど、」
「わあっ!煮すぎです!」
鍋を火から下ろしたくても煙が出ないように蓋の役目をしていたので、あたふたするうちに手遅れになってしまいました。海藻は溶けて随分と減った様に見えます。
「コレは……そう!とろみの付いたスープだと思えば大丈夫だよ。体も温まりそうだし」
「そう……ですね」
アイラは見つけた塩で味を調え始めました。けれど何度味見をしても納得いかないようです。
「あぁ、ごめんなさい。多分失敗です……私、もう一度海藻を拾ってきますね」
「いいよ!いいよ!もう暗くなり始めてるし」
外は日が沈み始めていました。今日は食材を探すだけで時間を潰してしまったのです。
「さあ、食べよ?」
カップにスープを注ぎ、テーブルに着きました。
アイラが祈りのポーズをとったので、朝日もそれを真似てから、ひと口すすります。
(うぅーん……しょっぱい)
ソレはスープと呼ぶにはお粗末なものでした。味は海藻の旨味や風味の様なものがほとんど無く、しょっぱいだけなのです。ローズマリーも香りづけの為だけにあるので口に入れた瞬間は匂うものの、後に残るのは塩味のみです。唯一の利点はドロドロとしているので、お腹に入れると温まれる事でした。
お腹は減っていましたが、食は進みません。ほとんど水分なので食欲がわかないのです。先ほどから気遣ってくれていたアイラも流石に失敗した料理を出したことが申し訳なかったのか無言でした。
コン、コン、コン
窓を叩く音に振り向くとオリバーが立っています。彼は何か言うのでもなく、直ぐに立ち去ってしまいました。何だったんだろう?と、窓に近づくと窓辺には紙袋に入れられたパンが置かれていました。
「やったー!パンくれた!あの人、いい人じゃん!」
お礼を言おうと小屋を出ましたが、彼は既に石垣の外に出ていて帽子だけが遠ざかっていくのが見えました。どうやら帰って行くようです。
改めて食事の再開です。
パンはフォークに刺し、カマドで温めながら食べました。プレーンなパンでしたが、ようやく口に入った固形物に胃が喜んでいるかのようです。食欲が急に湧きます。しょっぱいスープもパンと一緒なら丁度飲みやすくなりました。
お腹は一応満たされ体も温まったので、やっと落ち着いた二人。カマドの前で暖をとりながらこれからどうするか話し合いました。
「明日はどうしよう。食べ物探すだけでこんなにも疲れるなんて、やっぱりコレ特訓なんかじゃなくお仕置きだよ」
「魔法をうまく使う事が特訓なんじゃないですか?私が雷で魚をうまく獲れていれば……」
アイラは薪をからげてあった針金をほどきながら考え込んでしまいました。
「魔法か……」
朝日も考えます。お嬢様なら魔法で何とかしてくれるかもしれません。
「ねえ、明日は狩をしてみない?」
「狩ですか?」
「うん。言ってたでしょ?まずウサギを捕まえろって。あれは課題なんじゃないかな?」
「でも私、狩なんてした事ないですよ?」
「そこは多分、大丈夫。」
ニッコリ笑ってみせます。
(お嬢様に手伝ってもらうから)
朝日も針金を手に取ります。それを曲げてねじって、その場しのぎのハンガーを作りました。着ていたコートを掛け、南の窓に吊るします。少しでも冷気が入ってこないようにしたいのです。
「あのオジサンに言えば食べ物分けてくれそうじゃない?今日も結局、あの人に欲しいって言ったら全部用意してくれたし、狩に時間を充てても少しくらいなら大丈夫だよ」
「そうですね」
アイラも同じようにハンガーを作り、吊るします。
「食べ物はなんとかなるとして、お風呂はどうしよう?髪、潮風でパサパサだよぉ」
「ですね。」
「着替えも無いし……」
そうだ!と思い出し、朝日は唯一持っていたハンカチをお湯に浸して顔と髪を拭き始めました。アイラも真似て拭き始めます。
「フフ、メイベールさん意外と生活力が高いというか、物事に動じないというか、私なんとかなりそうな気がしてきました」
「そう?」
二人で笑い合います。
「今日はもう疲れたから寝ようか」
「はい。」
くっつき合ってベッドに入ると、アイラの髪からは磯の香りがしました。
(ハァ……おにぃの手料理が食べたい)
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