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コン、コン、コン、
(ん……?)
窓を叩く音に朝日は目を覚ましました。起き出し、吊るしてあったコートの隙間から覗くと窓辺にはミルク瓶がありました。オリバーが置いていってくれたようです。
(やった!)
コートを羽織り、カマドに再び火を入れます。昨晩はカマドのおかげでだいぶ寝心地が違いました。けれどその火も消えてしまえば隙間風によって部屋は凍える様に寒くなってしまいます。
手をこすり合わせながら、早く温まらないかと待っているうちに、アイラも起き出してきました。
「おはようございます」
「おはよ。あのオジサンが今度はミルクをくれたよ。温めて飲も」
瓶の蓋を開けた朝日でしたが、手が止まりました。ミルクに何かが浮いています。
「ナニコレ……」
アイラも覗き込みます。スプーンですくって出てきたのは乳白色のドロッとした半固形物でした。
「もしかして?腐ってる?」
匂いを嗅いでみますが、冷たい鼻では判別がつかず、アイラにも差し出します。
「腐って……は、無いと思いますよ?」
彼女は固形物を指に付けて舐めてみました。うんうん、と頷きます。
「たぶんコレ、ミルクの脂肪分が固まったものじゃないですかね?生クリームだと思います」
「おお!天然の生クリームなんて凄い!パンに塗って食べよ」
昨日、残しておいたパンを取り出しました。
パンを火にあぶってから生クリームを乗せます。バターの様に溶けたところへ軽く塩を振って食べました。サクサクのパンにクリームの油分が染み込んでいて、噛むとジュワっと口に溢れ出します。ほのかに甘い油は塩が味を引き立て美味しいものでした。一緒に飲むホットミルクも体に染みわたります。
当たり前の様に食べることの出来ていた毎日が、実は大変な苦労の元に成り立っているのだと、二人はありがたさを噛みしめながら食べました。
「よし!」
と、朝日は気合を入れて立ち上がりました。今日は朝ごはんを食べることが出来たので、気力もあります。
(お嬢様!出て来て!)
気合とは裏腹に、他力本願な朝日なのでした。
固まっている朝日を見てアイラが不思議そうに聞きます。
「どうしました?」
「……なんでもないわ。……ウサギを狩ればいいのよね?」
「ええ、」
頷いたメイベールは小屋を出ました。
庭では今日も散歩に行くのか、オリバーが犬を連れています。
「ちょっと、いいかしら?その犬、」
メイベールが指を差します。犬は何か命令されるのだと、お座りしました。
オリバーが一言、
「ミロだ。」
メイベールは頷きます。
「少しの間、貸してもらえるかしら?調教しているのでしょう?わたくしも興味がありますの」
「いいだろう。やってみろ」
「ミロ!」
お嬢様が名前を呼ぶと、ピンと立った耳がピクピク揺れます。ミロの目を見て指示します。
「サイド!」
太ももを叩くと、犬が隣に並びました。
「うまいもんだ。」
オリバーも感心しています。
「カム!」
お嬢様の歩くスピードに合わせ、犬も横に付いて歩いていきます。アイラもオリバーに頭を下げてから後を追いかけました。
今日も風が強く吹いています。草原まで歩いてきて、メイベールはシールドをドーム状に張りました。中は風を遮ってくれるのです。
「わぁ、こんな使い方もあるんですね」
「これなら風が当たって寒くはありませんし、声を張り上げる必要もないでしょう?」
メイベールは狩の説明を始めました。
「ウサギには2種類いるのを知っていて?」
アイラが首を振ります。
「穴ウサギと野ウサギよ。穴ウサギは巣穴を掘って生活しているわ。だから見つけても巣穴に逃げ込まれれば捕まえるのは容易ではない。そういう時は四方に開けられた出口を全て網で塞いでから、専用の小型犬を穴の中に放ってウサギを追い出して捕まえるの。この狩は農民向けね。地味で手間がかかるわ。野ウサギの狩は楽しいわよ。野ウサギは巣穴を掘らないの。掘っても窪地程度で、日中はそこにずっとひそんで、夕方になると動き出す習性なのよ。だから野ウサギを狩る場合、まず沢山の犬を放ってウサギが逃げて走り出すように仕向ける。野ウサギは犬より走るのが早いから集団で囲い込みながら捕まえるの。犬達と草原を駆け回って、狩の醍醐味を味わえるわ」
「へー、やっぱり詳しいんですね」
メイベールは草原を見渡しました。
「野ウサギぐらい多分いるんじゃないかしら?けど、猟犬が1匹ではまともな狩は出来ませんわね。風も強いから風下から匂いを辿らせる事も無理そうですし、」
「どうするんですか?」
「今日は狩を愉しみに来たのではないわよ。捕まえられればいいの」
メイベールは昨日、アイラが言った言葉を真似ました。
「まずは野ウサギを見つける事ね。犬を走らせて、吠えさせるの。ウサギは耳がいいからその内に我慢できなくなって逃げだすわ。草原に飛び出したら犬に追いかけさせる。十分スピードが乗ったところでウサギの目の前にシールドを張れば、避けられずに体当たりして捕まえる事が出来るハズよ」
「あったまイイですね!」
アイラも昨日、朝日が言った言葉を真似ました。二人で笑い合います。
(ん……?)
窓を叩く音に朝日は目を覚ましました。起き出し、吊るしてあったコートの隙間から覗くと窓辺にはミルク瓶がありました。オリバーが置いていってくれたようです。
(やった!)
コートを羽織り、カマドに再び火を入れます。昨晩はカマドのおかげでだいぶ寝心地が違いました。けれどその火も消えてしまえば隙間風によって部屋は凍える様に寒くなってしまいます。
手をこすり合わせながら、早く温まらないかと待っているうちに、アイラも起き出してきました。
「おはようございます」
「おはよ。あのオジサンが今度はミルクをくれたよ。温めて飲も」
瓶の蓋を開けた朝日でしたが、手が止まりました。ミルクに何かが浮いています。
「ナニコレ……」
アイラも覗き込みます。スプーンですくって出てきたのは乳白色のドロッとした半固形物でした。
「もしかして?腐ってる?」
匂いを嗅いでみますが、冷たい鼻では判別がつかず、アイラにも差し出します。
「腐って……は、無いと思いますよ?」
彼女は固形物を指に付けて舐めてみました。うんうん、と頷きます。
「たぶんコレ、ミルクの脂肪分が固まったものじゃないですかね?生クリームだと思います」
「おお!天然の生クリームなんて凄い!パンに塗って食べよ」
昨日、残しておいたパンを取り出しました。
パンを火にあぶってから生クリームを乗せます。バターの様に溶けたところへ軽く塩を振って食べました。サクサクのパンにクリームの油分が染み込んでいて、噛むとジュワっと口に溢れ出します。ほのかに甘い油は塩が味を引き立て美味しいものでした。一緒に飲むホットミルクも体に染みわたります。
当たり前の様に食べることの出来ていた毎日が、実は大変な苦労の元に成り立っているのだと、二人はありがたさを噛みしめながら食べました。
「よし!」
と、朝日は気合を入れて立ち上がりました。今日は朝ごはんを食べることが出来たので、気力もあります。
(お嬢様!出て来て!)
気合とは裏腹に、他力本願な朝日なのでした。
固まっている朝日を見てアイラが不思議そうに聞きます。
「どうしました?」
「……なんでもないわ。……ウサギを狩ればいいのよね?」
「ええ、」
頷いたメイベールは小屋を出ました。
庭では今日も散歩に行くのか、オリバーが犬を連れています。
「ちょっと、いいかしら?その犬、」
メイベールが指を差します。犬は何か命令されるのだと、お座りしました。
オリバーが一言、
「ミロだ。」
メイベールは頷きます。
「少しの間、貸してもらえるかしら?調教しているのでしょう?わたくしも興味がありますの」
「いいだろう。やってみろ」
「ミロ!」
お嬢様が名前を呼ぶと、ピンと立った耳がピクピク揺れます。ミロの目を見て指示します。
「サイド!」
太ももを叩くと、犬が隣に並びました。
「うまいもんだ。」
オリバーも感心しています。
「カム!」
お嬢様の歩くスピードに合わせ、犬も横に付いて歩いていきます。アイラもオリバーに頭を下げてから後を追いかけました。
今日も風が強く吹いています。草原まで歩いてきて、メイベールはシールドをドーム状に張りました。中は風を遮ってくれるのです。
「わぁ、こんな使い方もあるんですね」
「これなら風が当たって寒くはありませんし、声を張り上げる必要もないでしょう?」
メイベールは狩の説明を始めました。
「ウサギには2種類いるのを知っていて?」
アイラが首を振ります。
「穴ウサギと野ウサギよ。穴ウサギは巣穴を掘って生活しているわ。だから見つけても巣穴に逃げ込まれれば捕まえるのは容易ではない。そういう時は四方に開けられた出口を全て網で塞いでから、専用の小型犬を穴の中に放ってウサギを追い出して捕まえるの。この狩は農民向けね。地味で手間がかかるわ。野ウサギの狩は楽しいわよ。野ウサギは巣穴を掘らないの。掘っても窪地程度で、日中はそこにずっとひそんで、夕方になると動き出す習性なのよ。だから野ウサギを狩る場合、まず沢山の犬を放ってウサギが逃げて走り出すように仕向ける。野ウサギは犬より走るのが早いから集団で囲い込みながら捕まえるの。犬達と草原を駆け回って、狩の醍醐味を味わえるわ」
「へー、やっぱり詳しいんですね」
メイベールは草原を見渡しました。
「野ウサギぐらい多分いるんじゃないかしら?けど、猟犬が1匹ではまともな狩は出来ませんわね。風も強いから風下から匂いを辿らせる事も無理そうですし、」
「どうするんですか?」
「今日は狩を愉しみに来たのではないわよ。捕まえられればいいの」
メイベールは昨日、アイラが言った言葉を真似ました。
「まずは野ウサギを見つける事ね。犬を走らせて、吠えさせるの。ウサギは耳がいいからその内に我慢できなくなって逃げだすわ。草原に飛び出したら犬に追いかけさせる。十分スピードが乗ったところでウサギの目の前にシールドを張れば、避けられずに体当たりして捕まえる事が出来るハズよ」
「あったまイイですね!」
アイラも昨日、朝日が言った言葉を真似ました。二人で笑い合います。
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