アナザーワールド・オブ・ドリームズ

二コ・タケナカ

文字の大きさ
139 / 160

14-27

しおりを挟む
威力は抑えていたものの、朝日は肝を冷やしました。なのにお姫様はまた言うのです。
「メイベールさん!もう一回やって」
(ダメだ。この人、完全に酔ってる)
犬に入ってる朝日にも、お姫様の足元がおぼつかないのは分かります。その体はふらふらと揺れているのです。これは酔っぱらいが何の考えも無しに、ただ好き勝手言っているだけ。安全の事など頭の隅にもありません。
それに、もう一度やれと言われても犬の体は凄まじい衝撃波に怯えて震えています。耳も尻尾も垂れてしまっていました。クゥーン、クゥーンと弱々しく鳴き、落ち着かない様子でウロウロしています。朝日にも犬の体は不慣れで、言う事をきかせるのは無理そうです。

「ほら!はやくぅー、これは姫の命令よ」
今度は流石にグランダも止めます。
「あんなモノ、ホイホイ打ち上げるんじゃないよ!さあ、もうパーティーはしまいだ」
「えーっ!楽しくなってきたばかりなのにぃ!あはははは!」
エミリーはふらつく体でメイベールに寄りかかると、その手を繋ぎました。アイラの手も取ります。
「じゃぁーあ、さいごにー、みんなでうたいましょーぉ!コレをやらないと終われないわ」
やれやれと、ルイスが首を振りました。
「すまない、メイベール。あと少しだけ付き合ってあげてくれ」
「ええ、お気になさらず」
差し出されたルイスの手を取ります。皆が手を繋ぎ円陣を組みました。

酔っぱらいが音程を外しつつ最初のリズムを取ります。
「ターぁタータタ、タータぁタタ♪……ハイっ!」
調子は狂っていますが、歌い始めました。どうやら有名な曲らしく、みな歌えるようです。朝日にも何故かそのリズムは聞き覚えがある気がしました。犬のままなので、この世界の言葉は理解できませんが、メイベールと意識を共有しているため大まかな歌詞の内容は頭に流れ込んできます。

♪古き友を忘れ、もう戻る事は無いのか?
♪友も、昔の日々も忘れるべきだろうか?
♪昔懐かしき日々よ、
♪我が愛しき者よ、
♪昔懐かしき日々よ、
♪友も、昔の日々も忘れるべきだろうか?

アイラがライトを付けていてくれたのですが、歌っているとそっちに意識が持っていかれるらしく、光が弱くなったり、強くなったり安定しません。まるで蛍の光の様に点滅を繰り返す中、みな歌っています。

♪この手を取れよ、親友 そして君の手も貸してくれ
♪昔懐かしき日々の為、酌み交わそう
♪懐かしき昔の日々の為に、
♪我が愛しき者の為に、
♪過ぎ去りし日々の為に、
♪昔懐かしき日々の為、酌み交わそう

「ヒューーーーーぅ!」
歌い終わり、一人で歓声を上げたエミリーは両手を振り上げました。そのままゆっくりと後ろへ倒れていきます。慌ててルイスが抱きかかえました。妹は兄の腕の中で寝息を立て始めています。
「本当に困った妹だ……ベットに運んでくるよ。すまないが片づけを頼む」
皆が片づけをしているなかグランダは一人、庭の隅に歩いていきます。犬も寄り添うように付いて行きました。そして見てしまったのです。老婆が夜空を見上げ、静かに泣いているのを……

片づけを終え、メイベールの体に戻ることの出来た朝日は少し早い気はしましたが、寝る事にしました。お姫様に振り回されて気を使いましたし、大魔法まで披露したのですから魔力も使い果たして精神的にも肉体的にも疲れています。アイラも同じらしく、一緒にベットへ入ると隣ですぐに寝息を立て始めました。
(はーぁ、疲れた……なんで今日は急にパーティー始めたんだろう?それに……)
涙するグランダの顔が浮かびます。あんな嫌味な人でも泣く事があるんだと驚くとともに、その理由が分かりません。
(まぁ……いいか……)
こうして朝日は気付かないまま12月31日の大晦日は更けていったのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。 ※小説家になろうにも投稿しています

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

処理中です...