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皆が夜空へ火球を打ち上げる中、アイラは苦戦していました。両手を掲げ、意識を集中して炎の魔力を全身に巡らせるものの、上手くいかないのです。目の前に赤い揺らめきが現れても球体にならず、不完全燃焼を起こしたようにモヤとなって消えてしまうのでした。
それを見ていたエミリーが大笑いして彼女に抱きつきました。
「あはは!アイラさんはへたっぴね!こうやるのよ」
掲げていた手を重ねて握り、言い放ちます。
「ふぁいやー!」
「ちょ、、、ヒッ!」
傍らで見ていた朝日にもアイラの体がビクついたのが見てとれました。エミリーが無理やり魔力を流し込んで強引にアイラの体から魔法を発動させたのです。反発し合う魔力は体に負担がかかるのです。
飛んで行った火球はおかしなものでした。炎と雷が混ざり合った様な見た目で、火球を中心にして稲妻が四方八方にバチバチと放電して火花をまき散らしています。これはプラズマ状態の雷が空気中の窒素や酸素と衝突して光を生み出しているのでした。また高温の火球はエネルギータンクの役割を果たしていて、その閃光はいつまでも消えずにピカピカ輝いています。しかも風魔法まで合わさっているらしく、落ちる事無く空中を漂い続けています。丁度それは空から垂れ下がる大きな線香花火の様で、光が赤や青や紫にと飛び散って綺麗なものでした。
「わぁ!きれー」
「もっと打ち上げましょ!」
調子に乗ったお姫様が次々に大きな線香花火を打ち上げます。打ち上げる度に二人の体はビクン!ビクン!と脈打っていました。
「エッ、、、んっ!エ、ミリーさんっ!」
「あはははは!、、、ヒック!」
エミリーも体に負担がかかっているはずなのに笑って打ち続け、夜空は線香花火で埋め尽くされました。
バチバチバチバチバチバチ!
軽快に破裂音をまき散らしていた花火は暫くするとエネルギーが尽きたのか、終わり方まで線香花火そっくりに、ひゅーっと火の玉が落下してきました。
「あらー、、、」
エミリーは呆けて見上げるだけで魔法で対処する事も逃げようともしません。慌ててルイスがシールドを張ります。けれど、シールドに弾かれる前に花火はパッと消えていきます。どうやらグランダが海の上へと転移させているようです。
「この島を火の海にするつもりかい!まったく!」
全ての花火が落ち切り、グランダの怒鳴り声が真っ暗な闇の中で響きました。
エミリーは怒られている事など気にもかけていないようです。暗闇の中で笑い声が響きます。
「フフフ、最後はあっけなかったわねー。まだ物足りないわー、、、んー」
アイラが魔法でライトを付けてくれました。光に映し出されたその表情は引きつっています。
「私はもうライトぐらいしか魔法は使えませんよ」
ほら、と言って自分が魔法を使っているのだと酔っぱらいにアピールしています。
「つまんない。はーーーーぁ、、、」
急に静かになった庭に、エミリーのため息が漏れました。
「じゃあ、そろそろお開きに……」
ルイスの言葉を遮ってエミリーが声を張り上げました。
「そうだわ!」
何か思いついたらしく、またお姫様の声は弾んだものに戻っています。その視線がメイベールに向けられました。
「メイベールさんはまだ魔法が使えるでしょ?お祭りで見せてくれたヴァーミリオン・ボム!あれが見たいわ!」
「えー、でもぉ……」
朝日は戸惑いました。祭りではジョージ先生のおかげで事なきを得たものの、やはりアレはやり過ぎだったと後になって猛烈に反省したのです。お嬢様もそれは同じはずです。あんな危険な魔法は使わない方がいい。
しかし、グランダが鼻を鳴らして言います。
「フン、学校ではケント王の再来なんてもてはやされているみたいだが、あたしも見てみたいもんだねぇ。その実力を」
挑発的な視線にメイベールが反応します。
「構いませんわ」
(お嬢様⁉)
体が勝手に前へ進み出ます。そして言いました。
「アイラさん。集中したいのでライトを消してくださる?」
「あ、ハイ」
暗くなった途端、朝日は地面に四つん這いになっていました。
(え?どういうこと⁉)
「ワ、ワオーン」
シーっとなだめる声がして、ゴツイ指が頭を撫でてくる感覚があります。朝日の精神はまた犬の中に入っているのでした。一時的な使い魔となっているのです。お嬢様は本気なのでしょう。詠唱が始まります。
「始まりの赤より続きしその奔流へ、我が真紅の血汐(ちしお)を捧ぐ……」
バインドの魔法によってメイベールと精神が同調している朝日の頭の中にも呪文が浮かび、勝手に口から詠唱が流れ出ていきます。
「ぐるぅぅぅぅーーーーううううぅ」
朝日は抵抗していましたが、関係なく魔力が高まっていきます。けど、拒んでいた為か現れた魔法陣はお祭りの時と比べれば規模の小さいものでした。それにあの時とは違って下準備もしていません。お嬢様も全力でやるつもりなど無いようです。
「ピア ヴァーミリオン・ボム!」
夜空に二つの大きな火球が現れました。そしてメイベールがパン!と、手を打ち合わせると二つの火球が合わさり何十倍もの大きさに膨れ上がりました。
「あっついわ!あはははは!」
能天気なお姫様の笑い声が響き渡ります。
「さあ!爆発させて!」
「こんな所で破裂させるんじゃない!島ごと吹き飛ばすつもりかい!」
巨大な火球はパッと消えてしまいました。それは海の向こう、何キロも先に転移していましたが、その煌々と輝く火球は離れていても見てとることが出来ました。そして、ゆっくりと太陽が沈んでいくように真っ暗な海に落ちていきます。
ブオッ!
着水すると同時に凄まじい爆発が起きました。水蒸気爆発が起きたのです。衝撃破が球体状に広がっていく様子が分かります。
「まずいね……こりゃ」
珍しくグランダがたじろぎました。すぐさまルイスに指示します。
「ルイ!風で衝撃をいなしておくれ」
「はい!」
グランダも島全体を覆うほどのシールドを張りました。
ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーッ!
まるで嵐の中にいるような衝撃が吹き抜けて行きます。それはあっという間の出来事でした。シールドが解かれると、みな緊張から解き放たれ安堵して息を吐いたのに、お姫様だけが大笑いしています。
「あはははは!あー、スカッとするわー」
それを見ていたエミリーが大笑いして彼女に抱きつきました。
「あはは!アイラさんはへたっぴね!こうやるのよ」
掲げていた手を重ねて握り、言い放ちます。
「ふぁいやー!」
「ちょ、、、ヒッ!」
傍らで見ていた朝日にもアイラの体がビクついたのが見てとれました。エミリーが無理やり魔力を流し込んで強引にアイラの体から魔法を発動させたのです。反発し合う魔力は体に負担がかかるのです。
飛んで行った火球はおかしなものでした。炎と雷が混ざり合った様な見た目で、火球を中心にして稲妻が四方八方にバチバチと放電して火花をまき散らしています。これはプラズマ状態の雷が空気中の窒素や酸素と衝突して光を生み出しているのでした。また高温の火球はエネルギータンクの役割を果たしていて、その閃光はいつまでも消えずにピカピカ輝いています。しかも風魔法まで合わさっているらしく、落ちる事無く空中を漂い続けています。丁度それは空から垂れ下がる大きな線香花火の様で、光が赤や青や紫にと飛び散って綺麗なものでした。
「わぁ!きれー」
「もっと打ち上げましょ!」
調子に乗ったお姫様が次々に大きな線香花火を打ち上げます。打ち上げる度に二人の体はビクン!ビクン!と脈打っていました。
「エッ、、、んっ!エ、ミリーさんっ!」
「あはははは!、、、ヒック!」
エミリーも体に負担がかかっているはずなのに笑って打ち続け、夜空は線香花火で埋め尽くされました。
バチバチバチバチバチバチ!
軽快に破裂音をまき散らしていた花火は暫くするとエネルギーが尽きたのか、終わり方まで線香花火そっくりに、ひゅーっと火の玉が落下してきました。
「あらー、、、」
エミリーは呆けて見上げるだけで魔法で対処する事も逃げようともしません。慌ててルイスがシールドを張ります。けれど、シールドに弾かれる前に花火はパッと消えていきます。どうやらグランダが海の上へと転移させているようです。
「この島を火の海にするつもりかい!まったく!」
全ての花火が落ち切り、グランダの怒鳴り声が真っ暗な闇の中で響きました。
エミリーは怒られている事など気にもかけていないようです。暗闇の中で笑い声が響きます。
「フフフ、最後はあっけなかったわねー。まだ物足りないわー、、、んー」
アイラが魔法でライトを付けてくれました。光に映し出されたその表情は引きつっています。
「私はもうライトぐらいしか魔法は使えませんよ」
ほら、と言って自分が魔法を使っているのだと酔っぱらいにアピールしています。
「つまんない。はーーーーぁ、、、」
急に静かになった庭に、エミリーのため息が漏れました。
「じゃあ、そろそろお開きに……」
ルイスの言葉を遮ってエミリーが声を張り上げました。
「そうだわ!」
何か思いついたらしく、またお姫様の声は弾んだものに戻っています。その視線がメイベールに向けられました。
「メイベールさんはまだ魔法が使えるでしょ?お祭りで見せてくれたヴァーミリオン・ボム!あれが見たいわ!」
「えー、でもぉ……」
朝日は戸惑いました。祭りではジョージ先生のおかげで事なきを得たものの、やはりアレはやり過ぎだったと後になって猛烈に反省したのです。お嬢様もそれは同じはずです。あんな危険な魔法は使わない方がいい。
しかし、グランダが鼻を鳴らして言います。
「フン、学校ではケント王の再来なんてもてはやされているみたいだが、あたしも見てみたいもんだねぇ。その実力を」
挑発的な視線にメイベールが反応します。
「構いませんわ」
(お嬢様⁉)
体が勝手に前へ進み出ます。そして言いました。
「アイラさん。集中したいのでライトを消してくださる?」
「あ、ハイ」
暗くなった途端、朝日は地面に四つん這いになっていました。
(え?どういうこと⁉)
「ワ、ワオーン」
シーっとなだめる声がして、ゴツイ指が頭を撫でてくる感覚があります。朝日の精神はまた犬の中に入っているのでした。一時的な使い魔となっているのです。お嬢様は本気なのでしょう。詠唱が始まります。
「始まりの赤より続きしその奔流へ、我が真紅の血汐(ちしお)を捧ぐ……」
バインドの魔法によってメイベールと精神が同調している朝日の頭の中にも呪文が浮かび、勝手に口から詠唱が流れ出ていきます。
「ぐるぅぅぅぅーーーーううううぅ」
朝日は抵抗していましたが、関係なく魔力が高まっていきます。けど、拒んでいた為か現れた魔法陣はお祭りの時と比べれば規模の小さいものでした。それにあの時とは違って下準備もしていません。お嬢様も全力でやるつもりなど無いようです。
「ピア ヴァーミリオン・ボム!」
夜空に二つの大きな火球が現れました。そしてメイベールがパン!と、手を打ち合わせると二つの火球が合わさり何十倍もの大きさに膨れ上がりました。
「あっついわ!あはははは!」
能天気なお姫様の笑い声が響き渡ります。
「さあ!爆発させて!」
「こんな所で破裂させるんじゃない!島ごと吹き飛ばすつもりかい!」
巨大な火球はパッと消えてしまいました。それは海の向こう、何キロも先に転移していましたが、その煌々と輝く火球は離れていても見てとることが出来ました。そして、ゆっくりと太陽が沈んでいくように真っ暗な海に落ちていきます。
ブオッ!
着水すると同時に凄まじい爆発が起きました。水蒸気爆発が起きたのです。衝撃破が球体状に広がっていく様子が分かります。
「まずいね……こりゃ」
珍しくグランダがたじろぎました。すぐさまルイスに指示します。
「ルイ!風で衝撃をいなしておくれ」
「はい!」
グランダも島全体を覆うほどのシールドを張りました。
ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーッ!
まるで嵐の中にいるような衝撃が吹き抜けて行きます。それはあっという間の出来事でした。シールドが解かれると、みな緊張から解き放たれ安堵して息を吐いたのに、お姫様だけが大笑いしています。
「あはははは!あー、スカッとするわー」
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