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第十六章「イメージの力」 16-1
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ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン……
ぼんやりする頭の中でボンボン時計の鐘の音が6回鳴ったのを数え、朝日は体を起こしました。隣でまだ寝ているアイラの肩を揺らします。
「アイラさん、起きて」
学校での規則正しい生活で、朝日は早起きできるようになっていました。寮では起床時間が7時と決まっています。寮長がベルを鳴らして廊下を回るのですが、もうすぐベルが鳴るという少し前に気配の様なものを察して目を覚ます癖がついたのです。お嬢様に勝手に動かれては困るという緊張感がそうさせているのかもしれません。
外はまだ暗いまま。ランプに明かりを灯し、身支度を済ませて、朝食を食べ始めたところでノックする音が聞こえました。扉が開けられ、顔が覗き込みます。グランダです。
「ちゃんと起きてたようだね。行くよ」
朝食を急いで口に押し込み、外に出ました。そこにはエミリーも居ます。
「二人とも、おはよう。」
今日はスッキリとした笑顔でした。
皆で昨日と同じ場所へ向かいます。
「エミリー様も魔法の特訓ですか?」
「ええ、もちろん。それが目的でこの島に来たようなものだから」
「でも、エミリー様は風魔法を扱えるのでしょう?」
「わたくしが習得したいのは風魔法の応用、空間魔法よ」
石が積まれている場所までやって来ると、水平線から太陽が昇りました。朝の陽ざしを浴び、エミリーが「気持ちいいわね」と、伸びをします。
「今日はエミーもいるから、大丈夫だろう。任せたよ」
グランダは昨日と同じ魔女のいでたちで、昨日と同じように椅子に腰かけると、昨日と同じように寝てしまいました。白猫が今日もジッと見てきます。
朝日は呆れて文句を言いました。
「あの方は特訓と言っておきながら、ずっと寝ているのですよ?」
アイラもうん、うんと頷いています。
昨日は結局、ろくに魔法のコツなども教えてもらえないまま自主練の様なものでした。グランダはずっと寝ていて、たまに起きたかと思うと本を読み始めるのです。そして、また寝るを繰り返す。老人の一日とはそんなにやる事が無いのかと朝日は驚きました。それならちょっとお手本でも見せてくれればいいのにと思っていたのです。
「フフフ、あなた達は知らないのね。コレがどれだけ恵まれていて、貴重な時間なのかを」
「どういう事でしょう?」
エミリーが説明してくれます。
「魔法とはイメージの力。この言葉は何度も授業で言われ続けたでしょう?」
朝日とアイラは頷きました。
「でもね、本当にイメージ出来ている魔導士はそうはいないのよ」
「しかし、エミリー様。それだと魔法は発動しないのではなくて?」
「そうね。もし一人で新たな魔法を作り出そうと思った時、イメージすることが出来なければ、そこには何も生まれないわ。魔法なんて発動しない。けれど、、、」
彼女は指先に炎を灯して見せました。
「既に確立された魔法なら、それに合わせた魔力を練り上げるだけで発動は出来る。なぜかだか分かる?」
朝日は首を振ります。
「この炎の魔法は、何十、何百、何千という魔導士達が昔から繰り返し使い続けてきたものなの。その発動イメージは固定されてしまっているわ。何万と繰り返し使われてきたのだから。おかげで詠唱もなしで発動できる」
「イメージも必要ないと?」
エミリーは頷きました。
「だから高度な魔法ほど、使いこなしてきた魔導士の数は減り、そのイメージも曖昧なままなの。時には呪文を必要とするわね。呪文は正しいイメージを正しく再現する方法よ。メイベールさんのヴァーミリオン・ボムだって、アイラさんのサンダー・ボルトだって、どんな大魔法であろうと魔導書を見れば知ることが出来るじゃない。けれど、初歩の魔法と違って使いこなすためのイメージが出来ないと発動はしない。だから誰でも扱える訳じゃないのよ」
アイラが質問します。
「そうすると、私達に風魔法を使いこなすのは難しいんじゃないですか?特殊な魔法ですし」
エミリーは頷きましたが、ニッコリ笑います。
「ここには魔女がいるわ」
朝日とアイラは顔を見合わせました。
「何度も言うけど、魔法はイメージの力。今の魔導士達が詠唱も無く使えるのは既に使いこなしてきた魔導士がいたからよ。一度、魔法として確立したものは、他の魔導士も使おうと思った場合、最初に比べれば格段に再現しやすくなるものなのよ」
「なぜですか?」
「そういうものだからよ、フフ。イメージが共有されるとでも言えばいいのかしら?理屈じゃないの」
朝日とアイラはまだ難しい顔をしています。
「……そうねぇ、簡単に言えばあなた達の様にイメージ出来る魔導士は、新しく魔法を覚えようと思った場合、既に使える人の側でなら再現しやすくなるということよ」
『ああ!』
納得した二人は声を上げてグランダの方を見ました。
「うるさいよ」
グランダはこちらを見る事も無く、顔に帽子を被ったままです。猫もすまして毛づくろいしています。
エミリーが笑いました。
「だから二人とも頑張って。お婆様に拝謁を賜る事なんか滅多に出来ないんだから」
ぼんやりする頭の中でボンボン時計の鐘の音が6回鳴ったのを数え、朝日は体を起こしました。隣でまだ寝ているアイラの肩を揺らします。
「アイラさん、起きて」
学校での規則正しい生活で、朝日は早起きできるようになっていました。寮では起床時間が7時と決まっています。寮長がベルを鳴らして廊下を回るのですが、もうすぐベルが鳴るという少し前に気配の様なものを察して目を覚ます癖がついたのです。お嬢様に勝手に動かれては困るという緊張感がそうさせているのかもしれません。
外はまだ暗いまま。ランプに明かりを灯し、身支度を済ませて、朝食を食べ始めたところでノックする音が聞こえました。扉が開けられ、顔が覗き込みます。グランダです。
「ちゃんと起きてたようだね。行くよ」
朝食を急いで口に押し込み、外に出ました。そこにはエミリーも居ます。
「二人とも、おはよう。」
今日はスッキリとした笑顔でした。
皆で昨日と同じ場所へ向かいます。
「エミリー様も魔法の特訓ですか?」
「ええ、もちろん。それが目的でこの島に来たようなものだから」
「でも、エミリー様は風魔法を扱えるのでしょう?」
「わたくしが習得したいのは風魔法の応用、空間魔法よ」
石が積まれている場所までやって来ると、水平線から太陽が昇りました。朝の陽ざしを浴び、エミリーが「気持ちいいわね」と、伸びをします。
「今日はエミーもいるから、大丈夫だろう。任せたよ」
グランダは昨日と同じ魔女のいでたちで、昨日と同じように椅子に腰かけると、昨日と同じように寝てしまいました。白猫が今日もジッと見てきます。
朝日は呆れて文句を言いました。
「あの方は特訓と言っておきながら、ずっと寝ているのですよ?」
アイラもうん、うんと頷いています。
昨日は結局、ろくに魔法のコツなども教えてもらえないまま自主練の様なものでした。グランダはずっと寝ていて、たまに起きたかと思うと本を読み始めるのです。そして、また寝るを繰り返す。老人の一日とはそんなにやる事が無いのかと朝日は驚きました。それならちょっとお手本でも見せてくれればいいのにと思っていたのです。
「フフフ、あなた達は知らないのね。コレがどれだけ恵まれていて、貴重な時間なのかを」
「どういう事でしょう?」
エミリーが説明してくれます。
「魔法とはイメージの力。この言葉は何度も授業で言われ続けたでしょう?」
朝日とアイラは頷きました。
「でもね、本当にイメージ出来ている魔導士はそうはいないのよ」
「しかし、エミリー様。それだと魔法は発動しないのではなくて?」
「そうね。もし一人で新たな魔法を作り出そうと思った時、イメージすることが出来なければ、そこには何も生まれないわ。魔法なんて発動しない。けれど、、、」
彼女は指先に炎を灯して見せました。
「既に確立された魔法なら、それに合わせた魔力を練り上げるだけで発動は出来る。なぜかだか分かる?」
朝日は首を振ります。
「この炎の魔法は、何十、何百、何千という魔導士達が昔から繰り返し使い続けてきたものなの。その発動イメージは固定されてしまっているわ。何万と繰り返し使われてきたのだから。おかげで詠唱もなしで発動できる」
「イメージも必要ないと?」
エミリーは頷きました。
「だから高度な魔法ほど、使いこなしてきた魔導士の数は減り、そのイメージも曖昧なままなの。時には呪文を必要とするわね。呪文は正しいイメージを正しく再現する方法よ。メイベールさんのヴァーミリオン・ボムだって、アイラさんのサンダー・ボルトだって、どんな大魔法であろうと魔導書を見れば知ることが出来るじゃない。けれど、初歩の魔法と違って使いこなすためのイメージが出来ないと発動はしない。だから誰でも扱える訳じゃないのよ」
アイラが質問します。
「そうすると、私達に風魔法を使いこなすのは難しいんじゃないですか?特殊な魔法ですし」
エミリーは頷きましたが、ニッコリ笑います。
「ここには魔女がいるわ」
朝日とアイラは顔を見合わせました。
「何度も言うけど、魔法はイメージの力。今の魔導士達が詠唱も無く使えるのは既に使いこなしてきた魔導士がいたからよ。一度、魔法として確立したものは、他の魔導士も使おうと思った場合、最初に比べれば格段に再現しやすくなるものなのよ」
「なぜですか?」
「そういうものだからよ、フフ。イメージが共有されるとでも言えばいいのかしら?理屈じゃないの」
朝日とアイラはまだ難しい顔をしています。
「……そうねぇ、簡単に言えばあなた達の様にイメージ出来る魔導士は、新しく魔法を覚えようと思った場合、既に使える人の側でなら再現しやすくなるということよ」
『ああ!』
納得した二人は声を上げてグランダの方を見ました。
「うるさいよ」
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∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
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