アナザーワールド・オブ・ドリームズ

１５－３

胸の前で手を結び、祈りを捧げてから皆、昼食を摂り始めました。
エミリーも席には着いていましたが、何も食べたくないといい、水だけチビチビと飲んでいます。ルイスが呆れて言いました。
「だからキミはお酒を飲まない方がいいと言ったのに」
「そうみたい……もう飲まない……あぁ、」
エミリーはまだ辛そうです。なぜ辛くなるのが分かっているのに、お酒を飲もうとするのか？朝日にはよく分かりません。

シェパーズパイを大皿から取り分けながらルイスが話してくれました。
「子供の頃、エミリーがこっそりワインを飲んでしまってね。酔った彼女が笑いながら魔法を撃つから大変だったよ」
「アレは嵐の様だったね」
グランダが鼻で笑います。オリバーも頷きました。
「魔力が尽きると突然倒れてしまって、丸一日眠っていたよ。そして起きたらケロッとした顔で言うんだ『小屋がボロボロよ！』って。直すついでにオリバーが私達の為に部屋にしてくれたんだよ」
「こっちの家まで壊されたら、かなわないからね。向こうで寝られるようにしたのさ。イタズラするお姫様には馬小屋で十分だよ」
グランダが辛そうにしている孫に向け皮肉を言いました。エミリーには返す余裕は無いようです。
「全然覚えてないわ……大人になってもお酒を飲ませてくれないから、みんなで嘘を言って飲ませない様にしているんだと……あぁ、」
エミリーは頭を押さえました。

朝日はパイを飲み込んでから聞きました。
「昨晩の事も覚えていないのですか？」
「パーティーを開いていたことは分かるわよ？……でも、わたくしいつベットに入ったのかしら」
今度はアイラが聞きます。
「火球を打ち上げた事も？」
エミリーは首を振りましたが動かすのも痛いのか、すぐに頭を押さえ辛そうです。
「記憶をなくすほど酔っぱらうなんて、みっともないったらありゃしない。アンタは大人失格だよ」
グランダの嫌味に、エミリはー笑う事も出来ないのでした。

昼食を終え、魔法の特訓の再開です。さっきの場所に戻ろうとすると、ルイスも後をついて来ました。
「魔法の練習をしているのだろう？私も何か役に立てるかもしれない」
メイベールに笑いかけます。グランダはすぐさま言いました。
「コレは魔女の特訓だよ。男は引っ込んでな」
彼は引き下がりません。
「一人で部屋にいても退屈なんだ。一緒に見ているくらい構わないではないですか」
「退屈だって言うんなら、ナルの手伝いをしてやっておくれ。石垣が崩れているところがあるんだ。他にも手直しが必要な個所はいくらでもあるよ。ヤツひとりじゃ手が回らないのさ」
ルイスは諦めたのか肩をすぼめてみせます。
「皇太子は忙しいんだ」

午後も特訓をしたおかげで、朝日はだいぶ風の魔力を安定して扱えるようになってきました。アイラもコツを掴んだのか上手く出来ているようです。
「風魔法は難しいって聞いてたけど、案外いけるかも。アタシ才能あるんじゃない？」
調子に乗った朝日をアイラが笑います。
「明日にはホウキに乗って飛べるかもしれませんね」
二人で笑い合います。その笑い声にグランダが起き出してきました。
「魔力操作だけで出来たつもりかい？おめでたいね。なら、ちゃんと出来ているかテストしてやろう。二人とも風の魔力を練ってそこに立ちな」
言われた通り魔力を練り上げます。グランダは杖を振ると、いきなり二人のお腹めがけ石を飛ばしました。
ゴフッ！
ビックリしましたが、痛くはありません。
「やせ我慢してるんじゃないだろうねぇ？まあ、いい。今日はしまいだよ」