イチメハ!! カン違いで始まる物語

二コ・タケナカ

文字の大きさ
100 / 305
第4章

4-22

しおりを挟む
4-22「チェアリーのターン」

「よしっと!出来たよ」
ボタン穴のステッチを縫い終わり、私はストールを広げユウに見せてあげた。
「こっちも大体終わったよ。これでどうかな?」
彼もちょうど膜を取り除く作業が済んだようだった。

「はい、着せてあげる」
「いいよ、自分で出来るから」
「手が油でベタベタでしょ?ほら、」
恥ずかしがる彼の背中からストールを掛け、私は前へ回り込み、付けたばかりの牙のボタンを止めてあげた。

ストールのシワを伸ばしながら具合を見る。
「うん!似合ってるよ」
「・・・・・・ありがとう」
彼は恥ずかしそうに顔をそむけた。

「ウサギの牙はね、エルフの間でお守りとして身につける習慣があるんだよ」
「へぇー、そうなんだ」
「ウサギは走るのが早いでしょ、だからそれにあやかってモンスターから逃げ切れますようにって・・・・・・」
私は付けたばかりの牙を握りしめ、目をつむり祈りを込めた。
(彼がモンスターから生き伸びられますように)

「・・・・・・これで大丈夫(あ、)」
目を開けるとユウと目が合った。抱き合っている様にすぐそばに彼の顔がある。
期待して見つめ返すも、すぐ視線を外されてしまった。
「オレ、足腰には少し自信あるんだ。このお守りがあれば馬より速く走れる気がする。ハハッ!」
「ほんとに~?フフッ」
照れてしまったのか、彼は分かりやすいはぐらかし方をした。
(焦ってもダメだよね、)

「帰ろっか」
日も西へ傾きはじめ、見あげた空にはトンビが悠々と輪を描いて飛んでいる。
荷物を片付け、私達は帰る準備を始めた。

「皮はどうするの?」
「明日の朝、売りに行こ。それまで乾かないように宿に帰ったらバケツに入れて水に浸して置けばいいよ」
「分かった」
石の上に広げられた皮を小さくたたみ、ユウに渡す。
「持ってて」
彼に皮を任せて、私の方は適当な長さの流木と紐を用意し、川に沈めておいた肉を引き上げに向かった。

「うん、綺麗に血抜き出来た」
引き上げたウサギの肉は川の流水にさらされ、血もすっかり抜けて綺麗なピンク色だ。
(あとは・・・・・・)
カバンから小さな革袋を取り出し、川の水を汲む。袋にはなっているけど、水は剥い目からジャージャーと流れ落ちていく。
水が全部流れ落ちる前に、魔宝石を握り、
「アイス」
魔法で水の入った革袋を凍らせた。

コン!コン!
指ではじき、凍ったかどうか確かめる。
(よし、)
「それ、どうするの?」
彼が興味深そうに聞いてくるので、説明してあげた。

「ウサギはねお腹の部分が腐りやすいの。だからこうやって・・・・・・」
ウサギの肉から川へ沈める為に詰めておいた石を取り出し、代わりに凍った革袋を詰める。
「街に帰るまでだから大丈夫だと思うけど、一応ね」
「へー、」

「このままお腹を冷やしながらしばらく置いた方がおいしくなるんだって、おかみさんが言ってた」
彼に説明しながら私は持ち運びしやすいよう紐で前足と後ろ足それぞれ縛り上げて、足の間に流木を通した。
「はい、ユウ持って。こういうのはエルフの間では狩った人が持つものなの」
「そうなのか・・・・・・」

狩った人が持つというのは、適当な理由を付けただけだ。べつにユウを荷物持ちにしたかった訳じゃない。
私がウサギをお土産にしたかったのは事実だけれど、彼が直接おかみさんに狩ったウサギを見せれば、ユウの顔が立つと思ったのだ。だから彼が持っていかなければ意味がない。

「じゃあ、行こうか。帰りは土手の上から帰ろう。スライムがいるかもしれないし」
「ウサギが出たらまた捕まえてね」
「2度目は無理だよ」
「大丈夫、馬より早く走れるんでしょ?逃げられても追いかけて捕まえてよ。フフフッ」

結局、帰り道にはスライムもウサギも現れなかったが、それでも宿に帰った私は気分よくドアを開けた。
「ただいまー」
食堂にはまだ夕飯前とあってお客さんはまばらだ。
「おかえりなさい」
出迎えてくれたウェイターの目がユウの持つウサギ肉に向いている。

「どうしたんです?それ」
「彼がウサギを捕まえてくれたの。おかみさんにお土産」
「そうですか。おかみさんも喜ぶでしょう。厨房に運んでおきますよ」
ウェイターが気を利かせて、肉を運ぼうとしたので私は止めた。
「待って。まずおかみさんに見せたいから。どこにいったの?」
食堂を見渡すが、いないようだ。
「泊り客を案内して、宿の方に行きましたよ」
「そう、ありがとう。ユウ、いこ」

おかみさんを探して宿の方へ向かうと、中庭で鉢合わせた。
「おや、おかえり」
「ただいま。ねえ見て!」
私はユウの後ろへ下がり、少し背中を押しておかみさんの前に出した。
「オレが捕まえたんですけど、よかったら使ってください」

彼が持ち上げたウサギ肉におかみさんは目をまん丸にして、少し大げさなくらいに喜んでくれた。
「まあ!これをあんたが?いやー、立派なウサギじゃないかい」
「そうでしょ?」
「だけど、野生のものは少し匂うからねぇ、ハーブを使ってしっかり臭みを抜かないと」
「下処理はちゃんとしておいたつもりだけど・・・・・・ちょっと見て」

おかみさんがウサギの肉に顔を近づける。
「うん、いいね。血抜きもちゃんと出来ているし、変な臭いもしない。やっぱり野生のものは育ちがちがうねぇ、みてごらん太ももなんてしっかり締まって食べ応えありそうじゃないかい」
「彼、すごいんだよ!ウサギを剣で仕留めたんだから」
「はぁー、人は見かけによらないねぇ、アンタ凄腕の剣士なのかい」
「そんな事ないですっ!」
「アハハッ!そんなに謙遜しなくてもいいだろ。じゃあ、ありがたく頂いておくよ」

ウサギ肉を受け取ったおかみさんが私に尋ねる。
「あんたが捌いたのかい?」
「うん、彼にも手伝ってもらって。そうだ、毛皮を水に浸けておきたいからバケツを貸してもらえます?」
「いいよ。厨房にあるから取りにおいで」

厨房に入ると夕方からのお客に備えコックたちが慌ただしく準備をしていた。こちらには目もくれない。
「はいよ、バケツ」
おかみさんがバケツを渡しながら言う。
「今日はこのウサギはおあずけだよ。これからハーブにつけて熟成させないといけないからね。食べごろは3日後!お腹をすかせて待っておいで」
「熟成には3日かかるんですか。その後は?どうやって料理するんですか?」
「おや、アンタ料理に興味あるのかい?なんならウチの店で住み込み働きしたっていいんだよ。3食まかない付きでどうだい?」
「うーん、」

ユウが少し悩んだ声を出したので私は慌てて止めた。
「ちょッ!おかみさん!困ります」
「アハハッ!冗談だよ。それより、あんたたち夕飯はどうするんだい?ここで食べるんだろ?」
「うん、そのつもり」
ユウにも確認しようと彼の方を見ると、カバンをゴソゴソとあさりだした。

「まだパンが残ってるから、オレはこれでもいいけど」
「おや、本当に3食パンにするつもりかい。うれしいねぇ、残さず食べてくれるなんて」
彼が取り出した紙袋を覗くと2個のパンが残っていた。

「聞いたかい?あんたたち!私のパンなら3食でも食べたいってさ!」
慌ただしく準備を進める従業員に向かっておかみさんが呼びかけると、一人のコックがめんどくさそうに応えた。
「だからぁ、食べないとは言っていないでしょ!だいたい今日のパン、ほとんどおかみさんが食べたんじゃないですか!」
今朝、山盛りに置いてあったパンは大皿に2個しか残っていない。

「フフフッ」
私がクスクス笑っていると、おかみさんは残っているパンを手に取り紙袋の中に入れてくれた。
「喜んで食べてもらった方がうれしいからね。パンだけで足りなかったら後で食堂に来るといいよ」
「ありがとうございます」
「ちょっと早いけど、夕飯にしよっか」
私達は夕食にしようと中庭へ向かった。

厨房を出てもおかみさん達がやり取りする声が聞こえてくる。
「もう明日はパンを作ってやらないからね!」
「だからぁー・・・・・・」
「いっつもあんな感じなんだよ、フフッ。」
「おかみさん、いい人だね」
「うん」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...