イチメハ!! カン違いで始まる物語

二コ・タケナカ

文字の大きさ
116 / 305
第5章

5-5「2人のターン」

しおりを挟む
5-5「チェアリーのターン」

チュン、チュン、
早起きな小鳥が窓の外で鳴いているのが聞こえる。朝だ。けど、私は体を起こすことなくシーツにくるまりながら身をよじっていた。

「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー、あぁ・・・・・・ユウ」

昨日、ユウが脱ぎっぱなしにしてあった服を持ち帰った私はそれを抱きしめながら寝た。彼の服に顔をうずめ、何度も何度も深呼吸をしながら頬ずりしているうちに安心感に包まれ、満足した私はいつの間にか眠ってしまった。

一晩中、彼に抱かれているような錯覚に身をよじり、ふと目を覚ましてはまた身をよじった。夢の中では幸福に包まれていたのに現実に戻ると、とても切ない。すぐ下の階では彼自身がいるのに・・・・・・。
私は彼の服の残り香で自分をなぐさめた。

「ああ、ユウ。すぅーーーーーー、はぁ、はぁ」
何度も浅い眠りを繰り返し、朝になってもずっとこうして彼の匂いを嗅いでいる。
昼間はこっそりとしか嗅ぐことが出来なかったけど、今は思う存分、胸いっぱいに吸うことが出来る。

(こんな事してるの、絶対彼には言えない)
お互いそのつもりでいるはずなのに、なかなかタイミングが合わない。この状況に悶々としていた私は抑えがきかず、普段ならしないような洗濯物の匂いを嗅ぐなどという行動に出てしまったのだ。

ぎゅーーーーっ!!
服と一緒に抱きかかえていた枕を力いっぱい締め上げ、行き場の無い感情をぶつける。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・あァ、ュゥ・・・・・・ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、んっ、」

バサッ!
自分の呼吸と彼の匂いが混じって生温かいシーツを勢いよくめくり、湿気と共に解き放たれた体を起こして、私は大きくため息をついた。
「ハァー・・・・・・ユウのせいなんだからね」

ほてった体は少し気だるく、じっとりと汗ばんでいる。
(シャワー、浴びよ)
クタクタになってしまった彼の服と、昨日お尻の部分を汚してしまった自分の服を手に取り、浴室へ向かう。

浴槽へ自分の服を放り込み、私は名残惜しみつつもう一度彼の服へ顔をうずめ深呼吸した。
すぅーーーーーー、はぁーーーーーー。
「ハァ、・・・・・・くさい」
男臭い匂いがするのだけれど、何度嗅いでも私を虜にする何かがその匂いの奥から漂ってくる。それを胸に吸い込むたび脳がしびれるような感覚を繰り返し、私はすっかり酔いしれていた。

カランッ、カラ、カラン・・・・・・

抱きしめていた彼の服から滑り落ちた何かが床に転がり、乾いた音を浴室に響かせた。
小さなそれを拾い上げる。
(魔宝石?)
それは緑の魔宝石だった。きっと予備としてユウが最後まで残しておいたのだろう。冒険者なら誰もが念のため持っているものだ。

まだ他にないかポケットの中に手を突っ込み調べた。すると、ズボンのポケットからギルド会員であることを証明するバッチが出てきた。
(見えるところに付けておかないといけないのに)
私はいつも出かける時に持っていくバックに付けている。

あまり目立つものではないので、ユウがバッチを付けていなかった事に一緒にいた私も気付かなかった。
見ると彼のバッチナンバーは「オ・213」と刻印されている。
「おにいさん?・・・・・・ぷっ!」
語呂がちょうどよかったものだから吹き出してしまった。ユウはこの数字を見られるのが恥ずかしくてポケットに入れていたのかもしれない。そう思った。
後で魔宝石と一緒にバッチを返そうと取り置き、彼の服も浴槽へ入れる。

シャワーの蛇口をひねり、服が水に浸っていくのを眺めているうちに湯気が立ちのぼりはじめた。熱くなったのを確認して水を少しずつ足し適温にしてから、身につけていた下着も全て浴槽へ入れシャワーを浴びた。
「はぁー」

シャワーを浴びながら服を足で踏んで洗う。
ジャブジャブジャブ・・・・・・
泥が付いてしまったところは石鹸をこすりつけ手で丹念に揉み洗い。

ユウには洗濯に出すと言ったが、洗濯に出すのにだってお金はかかるのだ。
(そりゃあ、プロが洗うのとでは比べ物にならないかもしれないけど・・・・・・)
下着など薄手の物なら私はいつもこうして洗っていたし、コートなど厚手の物は洗濯に出す事もあったが、今は財布がきびしい。少しでも節約しておきたい。
(どうせ一緒に住むようになったら、私が洗ってあげることになるんだし、フフッ)
彼にはお金の事は心配させたくないので、私が洗っている事は黙っておくつもりだ。

シャワーを浴び終え、部屋の窓を開け放った。
朝の清々しい空気が流れ込み、部屋にこもった湿気が流れ去っていく。
開け放った窓から洗い終えてぎゅうぎゅうに絞り上げた服をシワを伸ばしながら干す。
パン!パン!
「よしっと、」

シャワーを浴びているうちに太陽は登り、日はサンサンと降り注いでいる。手を額に当て空を見上げると雲一つなく、今日もいい天気になりそうだ。
(これなら帰ってくるまでに乾きそうね)

私の服とユウの服が並べられて干されているのを見ていると何とも言えない幸福感に包まれ、寝ている間に感じていた切ない気持ちはいつの間にか消えていた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)
ファンタジー
初めての方は【第1章 リリアの巫女】 第55話からも読み始められます。 S級冒険者としての実力を隠していた俺が引き受けた「ありふれたいつもの依頼」は世界の根幹に関わる大きな事件のキッカケに過ぎなかった。 第54話の改変で作品自体にも変化が! ◆プロローグ ・【第-1章 迷星の時量剣師】 ・【第 0章 神在月の占い師】 ここでは世界設定と、颯竢君がこじらせてしまった過去について語られています。 本編を読んで興味が湧いてきたら是非読んでみて下さい。 読んだよ(´,,•ω•,,)ノ というサインとして作品の↓にある【♥】を押して頂ければ最新話を投下します お手数をお掛けしますがひと手間お願いします( *ノ_ _)ノノ╮*_ _)╮ハハー

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...