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第8章

8-29

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8-29「ライリーのターン」

西の山に太陽が沈んでいく。
私はその夕日を眺めながら、ワインをひと口づつ口に含んで味わいながら飲んだ。
「ライリー様、ワインのおかわりどうですか?」
「遠慮しておくわ。あまり飲むとそのまま寝入ってしまいそうだから」
「そうですか」
体はだいぶ楽になっていた、むしろまだ全身に残っている適度な疲れがワインの酔いと相まって心地いいくらいだ。

「ライリー様達は先に休んでいてもいいですよ。適当な時間になったら起こしますから」
アデリナの隣で地面に伏せていたココが、ゴロンと寝返りを打ってこちらを向きながら言った。
「どうします?休ませてもらいますか?」
「私は昼間休ませてもらったから大丈夫よ。アンス、あなたは疲れているでしょう?先に寝てもいいわよ」
「いえ、私だけ先に休むわけには・・・・・・」
「そんな事言っていると、体が持たないわよ」
「そう言うライリー様もブースト使ってまだ本調子じゃないんでしょ?ここは私達に任せて休んでください」
珍しくココが私の事を気遣ってくれる。さっきは私の体調など気にせず呼びに来たというのに。

「そうねぇ、」
確かに疲れてはいるが・・・・・・もうすぐ日は沈む。
日が沈めばユウ達も間もなく寝るだろう。そうすればアデリナは監視から解放される。それまでは起きていようと思いアデリナに声をかけた。
「アデリナ、あまり根を詰めてはダメよ」
「はいっ!」
よほど集中していたのか私の声かけに彼女は驚き、声をあげた。
真面目なのはいいが、先ほどからアデリナは私達の会話にも入ってこない。

「あなた、夜目は利くの?」
「え?・・・・・・普通だと思います。ただユウ達はたき火をしているので、その炎の光である程度は見えると思いますが、」
「そう、日が暮れたら馬車に戻りましょう。ユウ達も暗くなればすぐ寝るでしょうから」
「そうですかねぇ?」
「監視はいいんですか?」
私やアンスと違って2人ともまだ体力は残っている様だ。その口ぶりからするとまだ監視を続けるつもりでいるらしい。

「寝てしまえば監視の必要もないわ。それに中州にいればモンスターに襲われることはないから大丈夫よ。念の為、時々様子を見に来るくらいでいいでしょう」
「うーん・・・・・・」
ココは何か言いたげだ。

「彼らは今どうしてるの?もう夕飯は済んだ?」
座っている私の位置からでは中州の様子は見えない。立ち上がって見たとしても遠いのでアデリナの様に良くは見えないが。
「はい。食事が済んでユウは横になっています。エルフの方はそばで昔話を聞かせてあげています」
「昔話?」
「よく子供を寝かしつける時に読んであげる、エルフに伝わる昔話です」
「ひざ枕してあげて、いい雰囲気ですよ」
「エルフの彼女に寝かしつけてもらっているって事?まるで大きな子供ね。フフッ」
「あの昔話って、なんていうタイトルだったかなぁ・・・・・・そう!アーテルハイト」

(ああ、あれか・・・・・・)
私が一番嫌いな昔話だ。
「どういう内容でしたかねぇ?エルフなら知ってるんだろうけど、アデリナはちっとも通訳してくれないし、」
私は話す気にはなれなかったが、ココの質問にアンスが答えた。
「確か、美人のエルフとみすぼらしいエルフがいて、美人の方は森を出て街に行くんですよ。それを追ってみすぼらしいエルフも付いて行くんだけど、街の生活が合わなくて、森に帰ってしまうんです。そこで・・・・・・」
「もうやめなさい。」

私に止められたアンスが驚いたようにこちらを見た。
「その話は好きではないわ」
「・・・・・・すいません」
「なんでですかぁ、確かハッピーエンドで終わりませんでしたか?この話」
「ハッピーエンドね、フッ・・・・・・捉え方の違いね。その昔話は実話が元になっているのよ」
「そうなんですか?初めて知りました!ライリー様、聞かせてくださいよ」
ココは私が嫌いな話しだと言ったのに、ワザと食いついてきているように感じる。無視して先に馬車に戻ろうかとも思ったが、ただの昔話におとなげ無いと思い、私は少しだけ話してあげる事にした。

「元々エルフはコッレに住んでいたのよ。教会の講話にも出てくるでしょう?元はあの丘が木々に覆われる山だったって」
「モンスターの大量発生が起こって、聖都が襲われた話ですね」
「モンスターの発生を繰り返さないようにと、あの丘の木々は全て伐採する事になったのよ。当然住んでいたエルフ達は猛反対したのだけれど・・・・・・」
「確か昔話では、みすぼらしいエルフは族長の娘でエルフ達を率いて新たな森を探して旅立ったんですよね」
「その新しい森というのがここから南に行ったところにあるシエルボよ。エルフ達はその時の事を忘れないようにと昔話にして残したんじゃないかしらね。・・・・・・昔話では美化されているけど、人とエルフの対立を元にした実話だから私は好きではないのよ」

説明し終えると、太陽がちょうど西の山に沈みスーッと沈んだ。
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