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第10章

10-1「勇者パーティーのターン」

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10-1「リンカのターン」

早朝。
私は隣の部屋のチェアリーを訪ねた。
コン、コン、コン、
まだ薄暗かったが、彼女は既に起きていたらしくノックするとすぐに扉は開いた。

「早いですね・・・・・・」
「昨日、福音が鳴ったから門が閉まるかもしれないわ。早朝のうちなら通してくれるって言うし、急ぎましょ」
「はい。でもまだユウには、」
エルフの長に会うのなら早い方がいいと、彼女にはシエルボに行こうと昨日のうちに伝えてある。ユウの方は宿に帰るなりさっさと寝てしまったようで、まだ知らせていないがチェアリーが行きたいと言えば付いてきてくれるだろう。

「パパを起こしに行くのはママに任せるわ。準備が出来たらすぐに出発よ」
「朝ご飯は?ユウ、昨日は夕飯食べてないからお腹すかせてるかも」
「朝食は馬車に乗りながら食べればいいでしょ?」
「あ、なら先におかみさんに言って何か用意してもらうように・・・・・・」
「必要ないわ。簡単なお弁当を用意してって昨日、頼んでおいたから大丈夫」
「・・・・・・すいません。なにから何まで」
「いいのよ。お姉さんに全部任せておきなさい」

食堂へ顔を出すと、おかみさんは既に私達の朝食を用意して待ってくれていた。
「はいよ、お弁当。気を付けて行ってくるんだよ」
「ありがとうございます。でもコレ、多くないですか?」
持たされた包みは一抱えもあった。
「アンタ1人分のじゃないよ?アハハッ」
(それはそうだろうけど・・・・・・)
3人分と頼んではあったが、それでも朝ごはんにしては多い気がする。
(そんなに大食いに思われているのかしら)

「それにしても、アンタ達がパーティー組むなんてね。てっきり私はあの二人だけでやっていくものと思っていたんだけど・・・・・・」
「いい人達のようだったので、少し無理を言って入れさせてもらったんです。でも、私はお邪魔みたいだから、ちょっとパーティー気分を味わったら離れるつもりです」
「そうかい。しばらくの間だろうけど、あの子達の事、頼んだよ」
「はい、任せてください。モンスター退治にかけては自信があるので」
「それもあるんだけどね・・・・・・」
いつもニコニコしているおかみさんが真顔になった。

「あの二人を見ていると何か引っかかるんだよ。いやね、はたから見たらとても仲がいいんだけど。こう、胸に突っかかるものがあって・・・・・・おばさんの勘なんだけど」
おかみさんは気遣いの上手な人だ。その彼女も何かを感じ取っているのだろう。
「特にアリーチェ。あの子は周りが見えてない事があるから気を付けてあげてほしいんだ」
「彼女の方ですか?しっかりしているように見えますけど?」
「普段はね。でもあれで危なっかしいところがあってねぇ。おばさん、放っておけないんだよ」
私にはおかみさんがまるで実の娘を心配する母親の様に見えた。

「こんな他人事を頼まれたって、アンタには得なんてありはしないし迷惑な話だったね。ごめんよ」
それはおかみさんにも言えることだ。他人の事にこれほど心配りをしているのだから。
「任せてください。美味しいお弁当をこんなにも用意してもらったんだから、もう得したわ」
「アハハ!」
私はおかみさんを安心させるよう力強く応え、食堂を後にした。

外に出ると空は白み始めていた。
空気はひんやりとして少し肌寒さを感じる。だが、もうしばらくすれば日も射して温かくなるだろう。今日も天気は良さそうだ。
今回の旅は私にとっては珍しく連れがいる。いつもの様に一人トコトコ歩いて行く訳にもいかなので馬車を借りることにした。今から出発すれば、昼前にはコウの町に着く。そこでお昼休憩に屋台巡りをして、それから長の待つシエルボまで行けばいい。
「日暮れ前に着けばいいわよね」

空を見上げて予定を立てていた時、
「また私を置いていくの?」
不意に声をかけられ、私は瞬時に拳を握りしめた。
声のした方を見れば、路地の陰から姿を現したのはアンスだった。
「アンタ、こんな時間に何でいるの?」
「いつでも訪ねてきなさいって言ったのはお姉ちゃんでしょ?」
「そうは言ったけど、なにもこんな朝早くに・・・・・・あ、もしかして久しぶりに会ったお姉ちゃんが恋しくて、居ても立っても居られなかった?」

昨日の様に遊んであげるつもりはないけど、少し妹の事を挑発してみた。
子供っぽいとか言われそうだが、アンスの方だって気配を消して路地に潜んでいたのだから、また私の背後でも取って、やり返そうと考えていたのかもしれない。

アンスがゆっくり側に近寄ってくる。
私の前に立ち、見下ろす妹の顔は今にも泣きそうな表情をしていた。
「そうよっ・・・・・・ずっと寂しかったんだからっ」
(あぁ、)
ピコ族の村にいた、あの頃の妹の顔だ。
「なんで勝手に出て行ったの?私も一緒に行きたかった!」
「あの頃は精神的に余裕が無かったのよ・・・・・・寂しい思いをさせて悪かったわ」
腕を広げると、アンスは膝をついて抱きついてきた。
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