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8話:何気ない朝
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目の前を走っていく子供。その真横から走ってくるバイク。
僕は迷わず子供を突き飛ばし、バイクにぶつかる。
痛い、痛い。
そんな僕を突き飛ばした子供、男の子が僕を見下ろしている。
そして口を開く。
「ぼくはたのんでないよね?」
ハッと目を覚ますと見慣れない天井に匂い。
夢に出てきたバイクにぶつかる瞬間の痛さと僕を見ろしてきた男の子を思い出し冷や汗が滲む。男の子の顔は思い出せないけど、どこかで見たような顔な気がする。でも思い出せない、思い出さない方がいい気もする。
数十秒ほど呆然としていたが、次第に今の状況を思い出す。ああ、僕は死んであの好きだったレドクロの世界に来たんだった。そしてあの優しい老夫婦に拾われて……。
そこまで思い出して外を見る。外はもう明るく、日が山の頂上へ昇っている。部屋を見渡したのだが時計がない。急いで身なりを整える。整えるといっても服が昨日着てたのしかないからパジャマがはだけていないか確認し軽く髪の毛を手櫛で抑えただけだが。それから昨日夕飯を頂いた部屋へと向かう……が誰もいない。どうしようと少し立ち尽くしていると外からカコン!カコン!と少し鈍い音がした。
そして少し奥の部屋からは少しツンとした匂いと小麦の香りがする。ツンとした匂いは決して悪いものでなく、初めてこの家に入った時、感じた匂いに近しいものだった。
きっと外の音はおじいさん、奥の部屋はおばあさんがご飯を作っている香りだろう。
僕は少し迷ったが、外のおじいさんの方へと行くことにした。あの音の正体がなんなのか知りたかったのだ。
家の裏の方から音がする。ひょこっと家の角から覗くとおじいさんはどうやら薪割りをしていたようだ。しばらくの間ボーっと眺めていたがどうやら気が付かれていたらしく、驚く様子も見せずに最後の一個を割ったところでこちらを向いた。
「待たせちまってわりぃな。声かけてくれりゃよかったのに」
「すみません、薪割りを初めて見たので思わず魅入ってしまって……」
坊主の世界には薪割りないのかと不思議がる様子を見せたが、返事をする前にぐぅぅとお腹の方が返事をしてしまった。部屋の中で香ってたものが外にも漂ってきていたのだ。
「がははは!坊主も素直な方だが、腹の方はもっと素直みたいだな!」
そう言われたら恥ずかしくて顔が火照り、うつむくしかなかった。
恥ずかしすぎる、昨日散々大人だ!と主張したのにこんな失態を犯すなんて。
「そう恥ずかしがるな、誰でも腹は減るし腹が減るのは健康な証拠だ!」
その時地鳴らしの様なごぉぉという音が響く渡る。
「ほれ、俺の腹も我慢の限界だ!ばあさんの飯食いに行くぞ」
あまりの音の豪快さに驚いて顔を上げた僕におじいさんはにかっと笑い、颯爽と玄関口の方へ回っていく。慌てて僕も小走りで着いて行く。決して僕の身長やら足が短いのではなく、おじいさんの一歩一歩が大きいのだ。僕は日本人の平均身長とほぼ変わらないはずなのに!
小走りでついて行くき、家の中に入る……が、奥からおばあさんの声が。
「じいさん!服は叩いてから家に入ってと何回も言ってますよね!」
「お、おお!すまん!」
慌てて回れ右する巨体に僕はなけなしの瞬発力を使って右側に回り、ギリギリ家に入る。あ、もしかして僕も服叩いた方がいいのかな、なんて考えている間もなくバタンと思い切り扉を閉められてしまった。
「じいさんったらいつになったら覚えてくれるのかしら……。あら、坊やも外にいたのね? 特に汚れてる様子もないしこちらへおいで。朝餉にの準備を手伝ってちょうだい」
「あ、はい! ごめんなさい、その前に手と顔を洗いたいんですけど……。特に何もしてないんですけど外に行ったし、顔も昨日の涙でべちょべちょで」
へらっと笑いながら言うと「あら、場所教えていなかったわね」と洗面台へと案内してくれた。世界観的に井戸とかで水を汲んで、とか想像していたけれどある程度のインフラは整っているらしい。失礼な言い方になってしまうが、こんな森の中でも水道も電気も通っている。
冷たい水で手と顔を洗わせてもらい、置いてくれてたタオルで顔を拭く。タオルはふわふわで、久しぶりに嗅ぐお日様の匂いがした。大学は一人暮らしのアパートだったが、ベランダがなく、泣く泣く部屋干ししていた。天気のいい日は窓を開けて風は通していたし臭いには気を付けていたが、それでもなんか違った。僕の求めていた香りはこれだ……。と、ずっとこのタオルに顔を埋めていたかったがさすがにそんな訳にもいかずタオルを籠に入れ、先に戻ったおばあさんの後をついて昨日夕飯を頂いた部屋、(おそらくリビングだろう)に移動する。
リビングに近づくにつれ、さっきよりもいい香りが漂ってくる。匂いに釣られてリビングを通り越し、奥の部屋に行くとスープをよそっていたおばあさんっと目が合った。
「よく場所わかったわね」
「美味しそうな香りに誘われちゃって」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。おじいさんとルビぐらいしか食べてくれる人がいないもんですから」
「ルビ?」
初めて聞く名前に僕は首を傾げる。レドクロにそんな名前のキャラいたかな……?
「ええ、私たちの孫娘のルヴィア。たまーに私たちを心配して顔を見せに来てくれるのよ、さあこれをあっちへ運んでおくれ」
よそい終わったスープとパンが乗ったお盆をリビングへと運ぶ。後ろからサラダの乗ったお盆を持とうとしてたのでもう1回運ぶと言うとおばあさんはニコニコしながらエプロンを取り始めていた。
それにしてもルビ? ルヴィア? 聞いたことあるようなないような? そんな疑問を持ちたかったが、お盆に集中しないとスープを溢しそうなのでそっちに集中する。お盆を机に置き、もう一度キッチンへ向かう僕の頭はレドクロのシナリオをなぞるのでいっぱいだった。
僕は迷わず子供を突き飛ばし、バイクにぶつかる。
痛い、痛い。
そんな僕を突き飛ばした子供、男の子が僕を見下ろしている。
そして口を開く。
「ぼくはたのんでないよね?」
ハッと目を覚ますと見慣れない天井に匂い。
夢に出てきたバイクにぶつかる瞬間の痛さと僕を見ろしてきた男の子を思い出し冷や汗が滲む。男の子の顔は思い出せないけど、どこかで見たような顔な気がする。でも思い出せない、思い出さない方がいい気もする。
数十秒ほど呆然としていたが、次第に今の状況を思い出す。ああ、僕は死んであの好きだったレドクロの世界に来たんだった。そしてあの優しい老夫婦に拾われて……。
そこまで思い出して外を見る。外はもう明るく、日が山の頂上へ昇っている。部屋を見渡したのだが時計がない。急いで身なりを整える。整えるといっても服が昨日着てたのしかないからパジャマがはだけていないか確認し軽く髪の毛を手櫛で抑えただけだが。それから昨日夕飯を頂いた部屋へと向かう……が誰もいない。どうしようと少し立ち尽くしていると外からカコン!カコン!と少し鈍い音がした。
そして少し奥の部屋からは少しツンとした匂いと小麦の香りがする。ツンとした匂いは決して悪いものでなく、初めてこの家に入った時、感じた匂いに近しいものだった。
きっと外の音はおじいさん、奥の部屋はおばあさんがご飯を作っている香りだろう。
僕は少し迷ったが、外のおじいさんの方へと行くことにした。あの音の正体がなんなのか知りたかったのだ。
家の裏の方から音がする。ひょこっと家の角から覗くとおじいさんはどうやら薪割りをしていたようだ。しばらくの間ボーっと眺めていたがどうやら気が付かれていたらしく、驚く様子も見せずに最後の一個を割ったところでこちらを向いた。
「待たせちまってわりぃな。声かけてくれりゃよかったのに」
「すみません、薪割りを初めて見たので思わず魅入ってしまって……」
坊主の世界には薪割りないのかと不思議がる様子を見せたが、返事をする前にぐぅぅとお腹の方が返事をしてしまった。部屋の中で香ってたものが外にも漂ってきていたのだ。
「がははは!坊主も素直な方だが、腹の方はもっと素直みたいだな!」
そう言われたら恥ずかしくて顔が火照り、うつむくしかなかった。
恥ずかしすぎる、昨日散々大人だ!と主張したのにこんな失態を犯すなんて。
「そう恥ずかしがるな、誰でも腹は減るし腹が減るのは健康な証拠だ!」
その時地鳴らしの様なごぉぉという音が響く渡る。
「ほれ、俺の腹も我慢の限界だ!ばあさんの飯食いに行くぞ」
あまりの音の豪快さに驚いて顔を上げた僕におじいさんはにかっと笑い、颯爽と玄関口の方へ回っていく。慌てて僕も小走りで着いて行く。決して僕の身長やら足が短いのではなく、おじいさんの一歩一歩が大きいのだ。僕は日本人の平均身長とほぼ変わらないはずなのに!
小走りでついて行くき、家の中に入る……が、奥からおばあさんの声が。
「じいさん!服は叩いてから家に入ってと何回も言ってますよね!」
「お、おお!すまん!」
慌てて回れ右する巨体に僕はなけなしの瞬発力を使って右側に回り、ギリギリ家に入る。あ、もしかして僕も服叩いた方がいいのかな、なんて考えている間もなくバタンと思い切り扉を閉められてしまった。
「じいさんったらいつになったら覚えてくれるのかしら……。あら、坊やも外にいたのね? 特に汚れてる様子もないしこちらへおいで。朝餉にの準備を手伝ってちょうだい」
「あ、はい! ごめんなさい、その前に手と顔を洗いたいんですけど……。特に何もしてないんですけど外に行ったし、顔も昨日の涙でべちょべちょで」
へらっと笑いながら言うと「あら、場所教えていなかったわね」と洗面台へと案内してくれた。世界観的に井戸とかで水を汲んで、とか想像していたけれどある程度のインフラは整っているらしい。失礼な言い方になってしまうが、こんな森の中でも水道も電気も通っている。
冷たい水で手と顔を洗わせてもらい、置いてくれてたタオルで顔を拭く。タオルはふわふわで、久しぶりに嗅ぐお日様の匂いがした。大学は一人暮らしのアパートだったが、ベランダがなく、泣く泣く部屋干ししていた。天気のいい日は窓を開けて風は通していたし臭いには気を付けていたが、それでもなんか違った。僕の求めていた香りはこれだ……。と、ずっとこのタオルに顔を埋めていたかったがさすがにそんな訳にもいかずタオルを籠に入れ、先に戻ったおばあさんの後をついて昨日夕飯を頂いた部屋、(おそらくリビングだろう)に移動する。
リビングに近づくにつれ、さっきよりもいい香りが漂ってくる。匂いに釣られてリビングを通り越し、奥の部屋に行くとスープをよそっていたおばあさんっと目が合った。
「よく場所わかったわね」
「美味しそうな香りに誘われちゃって」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。おじいさんとルビぐらいしか食べてくれる人がいないもんですから」
「ルビ?」
初めて聞く名前に僕は首を傾げる。レドクロにそんな名前のキャラいたかな……?
「ええ、私たちの孫娘のルヴィア。たまーに私たちを心配して顔を見せに来てくれるのよ、さあこれをあっちへ運んでおくれ」
よそい終わったスープとパンが乗ったお盆をリビングへと運ぶ。後ろからサラダの乗ったお盆を持とうとしてたのでもう1回運ぶと言うとおばあさんはニコニコしながらエプロンを取り始めていた。
それにしてもルビ? ルヴィア? 聞いたことあるようなないような? そんな疑問を持ちたかったが、お盆に集中しないとスープを溢しそうなのでそっちに集中する。お盆を机に置き、もう一度キッチンへ向かう僕の頭はレドクロのシナリオをなぞるのでいっぱいだった。
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