好きだったゲームのモブになりましたが、どうやら主人公も転生者らしくやりたい放題です。お陰様でモブから昇格できそうです

小野村 夏果

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7話:『ホール』

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7話:『ホール』

 真面目な顔をしていたおじいさんはにかっとおじいさんとおばあさんの反応は一生忘れないだろう。目を真ん丸にしてから二人して笑って「まさか!」と言っていたが僕の真剣な表情を見てか、雰囲気を察したのか、おじいさんは「本当の本当のか?」と疑いつつも戸惑っていたし、おばあさんはなんて声をかけていいか分からなかったようで手元がソワソワしていた。
 日本人は童顔なんてよく言われるが、異世界でもまさかそうだとは……。
「まあ、証明する手立てはないんですけどね。でもお酒も飲んでいたし、タバコも吸える年なんで少なくとも子供ではないですよ」
 レドクロは日本人チームが作ったゲームであり日本人向けに作られたゲームが故に、お酒タバコの描写があるキャラクターや大人の定義は20歳だったからわりと説得力ある言い訳ではないのだろうか。
「まあ……なんだ。坊主が言うことなら信じるしかないな。だが! 俺からしたら坊主にはかわりねえ! なんだ、早く生まれた孫だと思えばいいさ」
「そうね、20歳なんてまだまだ子供よ。なんでも頼りなさいね、まだ甘えていい歳よ」
 本当に至れり尽くせりだ。こんな得体も知れない奴を孫だ子供だ言うなんて。優しすぎてこっちが心配になってしまう。いつか変な詐欺に引っかからないだろうか。僕が守らなければ――なんて使命感が湧くがいつまでここにいさせてもらえるか分からない。でもいつか出ていくその時までは僕が守るんだ。優しくしてくれたこの人たちに少しでも恩返しできたらいいな。まあ、詐欺師が存在しないことが一番いいんだが。
「それに最近『ホール』が増えてきて大人でも危ないしな。この世界を知らないお前さんはそこらの子供よりも危ない存在だ」
「『ホール』?」
 スッと目を細め、真剣でいてどこか怖い雰囲気を出すおじいさんに気後れしながらも、何度も聞いてきたその言葉に疑問を抱く。
「ああ、この世界各地に存在するやつだ。そのホールから『モンスター』が生まれる。お前さんの世界にはモンスターはいたか?」
 その言葉に僕は首を横に振る。知ってはいるが、地球には存在はしていないから嘘は言っていない。
「そこの説明もしなきゃいけねーか。今日は簡単な説明しかしねえが、また詳しく教えるからな。モンスターってのは基本人に危害を加える危ない生物だ。だが、人はモンスターが落としたりするものを食べたり加工したりして共存してきた。そのモンスターが出てくる穴があってそれを『ホール』と呼んでいる。そいつは不定期に出現していてな、モンスターを一定数吐き出すか、癒すとそのホールを閉じることができると伝説で言われているが肝心な癒し魔法、いわゆるヒーラーってやつはこの世界にいないんだ。だから一定数吐き出されるのを王都の騎士団やギルドの奴らが倒して均衡を保っていたが、ここ最近ホールの出現頻度が高くてな。ギルドの討伐じゃ間に合わなくなっている。だから塀に囲まれた王都や自警団が守っている村から一歩踏み出すとモンスターに遭遇する確率が高くなっている。あいつらは人間を見つけ次第襲ってくるから訓練していない大人でも危険なんだ。」
「この森は昔、マナレス様が守護魔法をかけてくれたおかげでホールができることは少なかったし、王都にも近いからすぐにギルドの方達が倒していてくれたけど最近はギルドの方達も忙しいのかホールが増えてきてしまってね。あなたがここまでモンスターに会わなかったのは運がよかったのよ」
 その言葉にすこしぞっとする。ゲームでは装備をした勇者プレイヤーがなんなく倒していたが、現実で考えればなんの変哲もない生身の人間がモンスターに太刀打ちできるわけがない。それに装備が薄いプレイヤーが誤って少しレベルの高い森に入り込んだら敵にもよるが大抵3発攻撃を喰らって気絶、セーブポイントからやり直しだ。勇者でも何でもない僕は3発喰らったらセーブポイントからではなく今度こそあの世ヘと行くことだろう。もう二度とあの死にゆく感覚を味わいたくない。
 そしておじいさんの話からしてここは勇者が現れる前のレドクロの舞台なんだと。確かホールの数が増え始めたのは勇者が現れる約1年前と作中で語られていたはずだ。もしこの世界が本当にゲームと同じ世界なら後1年はこの世界の人間はホールに、増え続けるモンスターに怯えて暮らすことになる。勇者が現れるまでは斬っても斬っても減らないホールにギルドの士気が下がり、人手不足に陥り怪我をする人もとても多くなるはずだ。思わずぎゅっと唇を噛み締める。ここはゲームの世界ではなく僕が存在している世界なんだと思うと色々な感情が押し寄せる。
 そんな僕を見ておじいさんは少し心配そうに僕を見つめる。
 「少し怖がらせちまったか? だがな、坊主が考えている以上に危ない世界だ。うかつに外に出ればモンスターにやられちまう。だから明日から調合もだがモンスターへの対処法も教えていく。」
 真面目な顔をしていたおじいさんはにかっと笑うと明日から忙しぞー!といって僕の頭を撫でて、さあ、ご飯に戻りましょうと暖かく言ってくれたおばあさんに僕は子供に戻ったかのように元気にはい!と返事をした。
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