シーフードミックス

黒はんぺん

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腹ぺこお母さん

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 アミ柱じゃない方の塔ね、先端が光ってる。この都市におけるイルミネーションは赤っぽいのが多かったのに、この塔の先端は青白い、それがいよいよ激しく光りだしたの。日本では塔やビルの高所の灯りは大抵は赤いんだけど、この都市では逆なのかしら。(航空障害灯といって高さによって赤とか白、点滅とか常灯とか決まっているそうです)
 こんなことを思ったりもします。都市の中央ほど古いユニットで、周辺ほど新しいのだと。新しいユニットが次々にくっついて都市が成長するのなら周辺ほど新しいのは自然な話ですよね。このあたりのユニットが黒ずんでいるのは大気中の有機物が付着しているから。汚れているのね。
 長期間ガス惑星の雲の下で漂っていたのね、おそらく。
 おっ?
 あたりが明るくなったわよ。塔の先端がますます輝き出して……光は他の塔の先端に、線状につながった!  さらに隣の塔へも。
 青白い光は縦穴を取り巻いた。たぶんね、アミ柱の向こう側は見えないから。
「さて、メアリの言うことにしたがって……」
 船がいった。彼が「さて」だなんて、ちょっと可笑しい、なんて思っていたら……。
「逃げるぞ」

 青白い火柱。
 世界が火柱に、なった。
 それも一瞬のこと。雲と霞とアミ族だらけの世界が、消える。あたりが明るいグリーン一色になる。外の情報が遮断されたんだ、全周モニターがデフォルト状態になったのだ。メアリさんは舞い上がり、天井にタッチして「ふんぎゃああ」と今までにない面白い声を上げ、再び舞い上がっては全ての触手をばらばらに上下させながら床だか壁だかにぶつかりにいく。「ぎゃぎゃぎゃあん」メアリさんってこんな声も出すんですね。
「どうなったぁぁ……報告!」
 メアリさん三度みたび空中遊泳しながら叫んだ。メアリさん、まるで宇宙飛行士みたいだ。水中でもこんな動きをするんだろうな。
「はいは~い。報告。腹ぺこお母さん、破裂しました~。今僕も『お握りころりん』状態、体勢立て直し、中、しばし、しばしお待ち~!」
 やっぱり、わがカプセルも大変な状態になっているんだ。
「もやもやぁ、大丈夫か」
 一応私にも気を使ってくれるのね。
「大丈夫です。実体はここにはいないので……ダメージはないです」
 お握りではなくおむすびじゃないかな。
「そーかー。つまんねえヤツだなぁ」
 じゃあ、私はどうすればいいんだ。
 それはともかく、なにが起きたんです?
 心配なのはしじみさまのことです。だって彼女の船の方が、破裂だか、爆発だかの近くにいたんじゃないですか。
「腹ぺこお母さんって誰です?」
 下の浮き島に住んでるひとですか。あの大きなところに、たったひとりだけが住んでるとも思えないけれども、飢えているならなんとかしてあげられないんですか。
「ぎゃんぎゃん、誰というか、浮き島のことだよ。なにが棲んでいるかは、うちも知らん」
「えーと、浮き島の名前が、『腹ぺこお母さん』なんですか」
 まぎらわしい名前をつけるなあ。

 こんにちは。ミジンコガールです。
 登場は一回だけのつもりだったのに、また出てしまいました。もしかして、あたし、主要登場生物だったかも。メインキャラ。真打ち、主役、スーパーヒロイン。
 残りのお話は、あたしが進行させてもよくってよ。でも、銀河の主役は自分だと思っている方がいます。そう、銀河中のシーフードを見張り、進化をコントロールしようとしている「眼」です。ひとりの人物なのか、組織なのか、特定の宇宙種族なのか、わかりません。あたしも知らないんです。アミ族さんを進化させた方ですね。
 メアリさんの種族もそんな強大な、ある意味鬱陶うっとうしい存在を察知しています。強い警戒心をもって見ているのです。ここでそれと出くわすとはメアリさんも予想していませんでした。
 ただメアリさんの地球への航行をお母さんが邪魔したとは考えにくいです。銀河の勢力分布に影響しそうもない、個人の行動にはお母さんは関心を持たないでしょう。
 ところでもやもやさんも首をひねる、「お母さん」というネーミングですが、メアリさんの誤訳ではありません。お気にいりの種族を育てはぐくみ、あるいは守り、宇宙へ版図を広げる種族に進化させるからです。お母さんは愛情をもってアミ族を育てました。
 グレート・マザー。
 ただし、このお母さんは、子どもが自立することは好みません。常に自分の支配下に置きたいと思っているようなのです。
 必要に応じて収穫もします……。

 警報が鳴りやまない。
 Gシートはキャノピーを閉じ、あたしは閉じ込められたまま。慣性キャンセル機能がなかったら、あたしはシートに押し付けられつぶれていたかもしれない!  間一髪。ブラック・シティはアミ柱に向かって放電を仕掛けたらしい。
「間違いないの、放電ならあちこちであるけど」
「アミ柱に落雷したのではなく、都市からの放電だ。アミ柱は攻撃されたんだ」
「そんなぁ。アミ族さんたち、大丈夫なの」
「抵抗なく、縦穴に吸い込まれていくな。失神したか死んだんじゃないか」
 死んだんじゃないか、なんてあんまりあっさり言うものだから、あたしはむっとした。いったい何人のアミ族が生命を奪われたというの。暗黒星雲のように背後を隠してしまうほどたくさんいたアミ族だよ。つい最前までは元気に飛び回っていた(泳ぎ回っていた)ひとたちだよ。腹立ちまぎれにGシートの透明な扉を蹴飛ばして……。
「安全が確認できません。しばらくお待ち下さい」Gシートがやんわりという。
 そりゃ当たり散らすのはよくないのはわかってるけどさ。
 腹ぺこお母さんの電撃からまぬがれたアミ族さんたちにも、大気の急膨張による衝撃波に弾き飛ばされたひとがかなりいたようだ。お母さんから離れる方向に飛ばされたんだから、まあ、よかったんじゃないということか。
 あたしの船もお母さんからぐんぐん離れている。スタコラサッサ。訓練を積んだ戦闘機のパイロットでも、5Gだったか7Gだったか忘れたけど、大きな加速を受けると失神しちゃうんだって。あたしだったら、もう完全にのびちゃう猛ダッシュね、クワバラクワバラ。
 思えばメアリさんも何度もその場を離れるよう警告してたわよね。なにが起こるかはっきり言ってくれればいいのにね。
「メアリさん、もやもやさん」
 メンダコさんはどうなった?  当然あたしより安全なところに避難していたんだろうけど、呼びかけても空電ノイズばかり、またこれかい。
「いや、まだずっと、『腹ぺこなんとか』の近くにいるようだ」
 と船の報告。外部センサーのカタマリみたいなひとだから、情報収集ずっと続けているのね。
「なら引き返して。一刻も早くメンダコとランデブーしたい」
「あい・あい・さ」船は針路を変え、再びお母さんを目指す。

 腹ぺこお母さんは愛情深い。
 手を差し伸べ高等な知的生命にまで進化させた種族は、かわいい子供たちなのだ。銀河のそこにも、ここにもかわいい子供が住んでいる。優秀な子供もいて、お母さんの手法を覚え、まわりの動植物を品種改良、お役立ち生物をいっぱいつくりだすものもいる。
 お母さんはそんな子供たち、孫たちを優しく見守る。有用な化学物質や資源を体内に蓄積するのに特化した子供もいる。そんな子供にも愛情と感謝をこめながら、収穫するのである。
 苦痛を与えるのはお母さんの本意ではないから、なるべく素早く短時間で処理する。
 やれやれ、あたしたち、誰かのお役立ち生物でなくてよかったわ。
 もちろんあらゆる生物は他の生物との関わりにおいて、役割分担させられますが、今流行りの「たよーせー」ってやつね。あたしたちのことをエサとしか見ないやからもいる。でもそれはあたしたちという存在の、ごく一面の姿にすぎないのです。
 だから、物語の主人公スーパーヒロインというのも、やはりひとつの側面にすぎないと言えますが、ワイドスクリーンバロック的壮大で華麗なスペースオペラ、小さなあたしと愉快なあたしの娘たちの大活躍のお話が用意されてると聞きます。筋トレしてそれに備えてますからね。乞うご期待!  あたしたち、頑張る、応援よろしくね!

(そんな話、聞いてないわよ?)
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