57 / 73
本物のサウルス
しおりを挟む
「ところでクジラはなんでポンポン跳ねるんダネ?」
とりょうが訊いた。って、あれ、りょういつからいたの。あむる、びっくりよ。
「驚くなよ。オレのこと呼んでたんだろ」
そうだけど。
「クジラのジャンプはブリーチングといいます」しじみちゃんにはスイッチはいったままだからね。
「海面をたたく大音響で、仲間に合図をするとか、身体についた寄生虫をはらうとか、気分のリフレッシュとか、あるいは高く跳べる子は異性にもてるとか言われています」
いろいろ理由があるのね。
「まわりの様子をうかがうということもあるとか。船をうかがっているのかもしれません。下にいたんでは船底しかわからないでしょ」
そうか……それが単なる好奇心ならいいけれど。
「ふ~ん。そんで、なんか用か? 血相変えてオレをさがしてたって聞いたぞ」
「そうなのよ、今ゆうさんとずみちゃんが下でパキケトゥスを呼び戻しているの。りょうも手伝ってあげて」
「できないよぅ、そんなこと」
「ゆうさんと同じ超能力、持っているんじゃないの、りょうも」
「あれ、ちょーのーりょくだったのか! むしろ妖術じゃないかな?」
同じでしょ?
「なんか違和感、って思ってたんですけど」しじみちゃんは続けている。「後ろのヒレも大きいですね、しっぽもすうっと伸びて上下にヒレっぽくなっている。クジラのあの特徴的な水平の尾ビレではない」
しじみちゃんがいったような特徴がわかるほどのブリーチングを見せつけてくれるのよね。
「あれ、サウルスでも本物のサウルスではないでしょうか」
はい? 本物って?
「鈴木くん、ハリイくん呼んできてくれないかな。どこにいるのかわからないんだけど」
「今度はハリイか……わかった、探して来る」
一瞬不満そうな顔したのを見ちゃった。でもひさし、すぐに思い直したみたいね、走り去ったのだ。しじみちゃんにも、だいぶ飼いならされたみたいね。わはは。超能力か妖術か。
「本物というのは?」
「中生代、つまり恐竜の時代に生息していた海洋性爬虫類です」
「ネッシーみたいなやつか?」そういえば、りょうも恐竜見たいの娘。であったな。
「ネッシーはクビナガリュウ(首長竜)プレシオサウルスの仲間でしょう、実在なら。あたしたちを取り巻いてるのはモササウルスのような気がします。これまた生態系の頂点です」
あむる、つばを飲む。
いや、ごめん、科学の子ではないあむるはすぐには飲み込めなかったの。
「モササウルスって今の時代にいるものなの?」
「すでに滅びていると思います」
笑っちゃうぐらいわけわかんない話だよ。
「モササウルスとバシロサウルスって笑っちゃうぐらい似てるんです。哺乳類なのに『サウルス』って名前をつけてしまったのも無理ないくらい」
「あれがモササウルスだったら、どういうことになる?」
「どうもこうも、怖いです」
「わかった、ねーちゃん手伝ってくる」りょうは甲板走ってスロープ駆け下っていった。
「タロウ! ジロウ! 早く上がってこい。まゆみ~! かおり~!」
ゆうはもう必死に叫ぶ、悲しいかな船上から叫ぶ声は海中までは届かない。でも海面近くにいたパキケは気がついたのか、こっちに犬かきならぬ「パキケかき」で向かってくる。
「そうそう、こっちにおいで。サン~! スウ~!」
太古の海はとても綺麗。透き通ってる。だからパキケたちの真下をクジラたちが通っていくのがよく見えるのだ。圧倒的にデカい。
まずゴロウが上がってくる。
ずみちゃんも上の甲板で待ってられなかった。ゆうといっしょに迎える。
「ほらっ、早く早く」
上に押しやる。
ポンポン・ジャンプのクジラども、パキケトゥスのいるあたりでも、ジャンプ。
その顎には小さなパキケの姿が見えた。ゆう、絶叫する。クジラは海に落ちていき、すぐにわからなくなる。
「早くぅ、戻ってぇ!」
パキケどもも、これはヤバそうだと気がついてスロープの上がり口に集まってくる。ダンゴ状態にかえってパニック。ゆうとずみちゃん、逆に海に蹴り落とされそう、駆けつけたりょうはパキケを力まかせに上に押し上げようとする。なるほど、そうすればいいのか、あむるも加勢して、時ならぬ大玉転がし大会よ。(パキケトゥスは転がってないけど、まあまあ)
密集のせいで船にあがれないでいたパキケが一瞬、暴れて、没していく。
「ゆうちゃん、駄目! はいっちゃ駄目!」
もはや見境のないゆう、海に飛び込もうとする。ずみちゃんはゆうの手首をつかみ、恐ろしいことに自分はつかまる場所がないことに気づいた。
「助けて! ゆうちゃんが!」
足は海水につかってすべるし、パキケに押されてずみちゃん転倒、たくさんの脚にめちゃくちゃに踏みつけられて……それよりも、ゆうちゃんの手首離してしまった!
パキケに蹴り落とされたゆう、クジラの口に生え揃う鋭い牙を見る。
とりょうが訊いた。って、あれ、りょういつからいたの。あむる、びっくりよ。
「驚くなよ。オレのこと呼んでたんだろ」
そうだけど。
「クジラのジャンプはブリーチングといいます」しじみちゃんにはスイッチはいったままだからね。
「海面をたたく大音響で、仲間に合図をするとか、身体についた寄生虫をはらうとか、気分のリフレッシュとか、あるいは高く跳べる子は異性にもてるとか言われています」
いろいろ理由があるのね。
「まわりの様子をうかがうということもあるとか。船をうかがっているのかもしれません。下にいたんでは船底しかわからないでしょ」
そうか……それが単なる好奇心ならいいけれど。
「ふ~ん。そんで、なんか用か? 血相変えてオレをさがしてたって聞いたぞ」
「そうなのよ、今ゆうさんとずみちゃんが下でパキケトゥスを呼び戻しているの。りょうも手伝ってあげて」
「できないよぅ、そんなこと」
「ゆうさんと同じ超能力、持っているんじゃないの、りょうも」
「あれ、ちょーのーりょくだったのか! むしろ妖術じゃないかな?」
同じでしょ?
「なんか違和感、って思ってたんですけど」しじみちゃんは続けている。「後ろのヒレも大きいですね、しっぽもすうっと伸びて上下にヒレっぽくなっている。クジラのあの特徴的な水平の尾ビレではない」
しじみちゃんがいったような特徴がわかるほどのブリーチングを見せつけてくれるのよね。
「あれ、サウルスでも本物のサウルスではないでしょうか」
はい? 本物って?
「鈴木くん、ハリイくん呼んできてくれないかな。どこにいるのかわからないんだけど」
「今度はハリイか……わかった、探して来る」
一瞬不満そうな顔したのを見ちゃった。でもひさし、すぐに思い直したみたいね、走り去ったのだ。しじみちゃんにも、だいぶ飼いならされたみたいね。わはは。超能力か妖術か。
「本物というのは?」
「中生代、つまり恐竜の時代に生息していた海洋性爬虫類です」
「ネッシーみたいなやつか?」そういえば、りょうも恐竜見たいの娘。であったな。
「ネッシーはクビナガリュウ(首長竜)プレシオサウルスの仲間でしょう、実在なら。あたしたちを取り巻いてるのはモササウルスのような気がします。これまた生態系の頂点です」
あむる、つばを飲む。
いや、ごめん、科学の子ではないあむるはすぐには飲み込めなかったの。
「モササウルスって今の時代にいるものなの?」
「すでに滅びていると思います」
笑っちゃうぐらいわけわかんない話だよ。
「モササウルスとバシロサウルスって笑っちゃうぐらい似てるんです。哺乳類なのに『サウルス』って名前をつけてしまったのも無理ないくらい」
「あれがモササウルスだったら、どういうことになる?」
「どうもこうも、怖いです」
「わかった、ねーちゃん手伝ってくる」りょうは甲板走ってスロープ駆け下っていった。
「タロウ! ジロウ! 早く上がってこい。まゆみ~! かおり~!」
ゆうはもう必死に叫ぶ、悲しいかな船上から叫ぶ声は海中までは届かない。でも海面近くにいたパキケは気がついたのか、こっちに犬かきならぬ「パキケかき」で向かってくる。
「そうそう、こっちにおいで。サン~! スウ~!」
太古の海はとても綺麗。透き通ってる。だからパキケたちの真下をクジラたちが通っていくのがよく見えるのだ。圧倒的にデカい。
まずゴロウが上がってくる。
ずみちゃんも上の甲板で待ってられなかった。ゆうといっしょに迎える。
「ほらっ、早く早く」
上に押しやる。
ポンポン・ジャンプのクジラども、パキケトゥスのいるあたりでも、ジャンプ。
その顎には小さなパキケの姿が見えた。ゆう、絶叫する。クジラは海に落ちていき、すぐにわからなくなる。
「早くぅ、戻ってぇ!」
パキケどもも、これはヤバそうだと気がついてスロープの上がり口に集まってくる。ダンゴ状態にかえってパニック。ゆうとずみちゃん、逆に海に蹴り落とされそう、駆けつけたりょうはパキケを力まかせに上に押し上げようとする。なるほど、そうすればいいのか、あむるも加勢して、時ならぬ大玉転がし大会よ。(パキケトゥスは転がってないけど、まあまあ)
密集のせいで船にあがれないでいたパキケが一瞬、暴れて、没していく。
「ゆうちゃん、駄目! はいっちゃ駄目!」
もはや見境のないゆう、海に飛び込もうとする。ずみちゃんはゆうの手首をつかみ、恐ろしいことに自分はつかまる場所がないことに気づいた。
「助けて! ゆうちゃんが!」
足は海水につかってすべるし、パキケに押されてずみちゃん転倒、たくさんの脚にめちゃくちゃに踏みつけられて……それよりも、ゆうちゃんの手首離してしまった!
パキケに蹴り落とされたゆう、クジラの口に生え揃う鋭い牙を見る。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる