奥の部屋

黒はんぺん

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本物のサウルス

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「ところでクジラはなんでポンポン跳ねるんダネ?」
 とりょうが訊いた。って、あれ、りょういつからいたの。あむる、びっくりよ。
「驚くなよ。オレのこと呼んでたんだろ」
 そうだけど。
「クジラのジャンプはブリーチングといいます」しじみちゃんにはスイッチはいったままだからね。
「海面をたたく大音響で、仲間に合図をするとか、身体についた寄生虫をはらうとか、気分のリフレッシュとか、あるいは高く跳べる子は異性にもてるとか言われています」
 いろいろ理由があるのね。
「まわりの様子をうかがうということもあるとか。船をうかがっているのかもしれません。下にいたんでは船底しかわからないでしょ」
 そうか……それが単なる好奇心ならいいけれど。
「ふ~ん。そんで、なんか用か?  血相変えてオレをさがしてたって聞いたぞ」
「そうなのよ、今ゆうさんとずみちゃんが下でパキケトゥスを呼び戻しているの。りょうも手伝ってあげて」
「できないよぅ、そんなこと」
「ゆうさんと同じ超能力、持っているんじゃないの、りょうも」
「あれ、ちょーのーりょくだったのか!  むしろ妖術じゃないかな?」
 同じでしょ?
「なんか違和感、って思ってたんですけど」しじみちゃんは続けている。「後ろのヒレも大きいですね、しっぽもすうっと伸びて上下にヒレっぽくなっている。クジラのあの特徴的な水平の尾ビレではない」
 しじみちゃんがいったような特徴がわかるほどのブリーチングを見せつけてくれるのよね。
「あれ、サウルスでも本物のサウルスではないでしょうか」
 はい?  本物って?
「鈴木くん、ハリイくん呼んできてくれないかな。どこにいるのかわからないんだけど」
「今度はハリイか……わかった、探して来る」
 一瞬不満そうな顔したのを見ちゃった。でもひさし、すぐに思い直したみたいね、走り去ったのだ。しじみちゃんにも、だいぶ飼いならされたみたいね。わはは。超能力か妖術か。
「本物というのは?」
「中生代、つまり恐竜の時代に生息していた海洋性爬虫類です」
「ネッシーみたいなやつか?」そういえば、りょうも恐竜見たいの娘。であったな。
「ネッシーはクビナガリュウ(首長竜)プレシオサウルスの仲間でしょう、実在なら。あたしたちを取り巻いてるのはモササウルスのような気がします。これまた生態系の頂点です」
 あむる、つばを飲む。
 いや、ごめん、科学の子ではないあむるはすぐには飲み込めなかったの。
「モササウルスって今の時代にいるものなの?」
「すでに滅びていると思います」
 笑っちゃうぐらいわけわかんない話だよ。
「モササウルスとバシロサウルスって笑っちゃうぐらい似てるんです。哺乳類なのに『サウルス』って名前をつけてしまったのも無理ないくらい」
「あれがモササウルスだったら、どういうことになる?」
「どうもこうも、怖いです」
「わかった、ねーちゃん手伝ってくる」りょうは甲板走ってスロープ駆け下っていった。

「タロウ!  ジロウ!  早く上がってこい。まゆみ~!  かおり~!」
 ゆうはもう必死に叫ぶ、悲しいかな船上から叫ぶ声は海中までは届かない。でも海面近くにいたパキケは気がついたのか、こっちに犬かきならぬ「パキケかき」で向かってくる。
「そうそう、こっちにおいで。サン~! スウ~!」
 太古の海はとても綺麗。透き通ってる。だからパキケたちの真下をクジラたちが通っていくのがよく見えるのだ。圧倒的にデカい。
 まずゴロウが上がってくる。
 ずみちゃんも上の甲板で待ってられなかった。ゆうといっしょに迎える。
「ほらっ、早く早く」
 上に押しやる。
 ポンポン・ジャンプのクジラども、パキケトゥスのいるあたりでも、ジャンプ。
 そのあぎとには小さなパキケの姿が見えた。ゆう、絶叫する。クジラは海に落ちていき、すぐにわからなくなる。
「早くぅ、戻ってぇ!」
 パキケどもも、これはヤバそうだと気がついてスロープの上がり口に集まってくる。ダンゴ状態にかえってパニック。ゆうとずみちゃん、逆に海に蹴り落とされそう、駆けつけたりょうはパキケを力まかせに上に押し上げようとする。なるほど、そうすればいいのか、あむるも加勢して、時ならぬ大玉転がし大会よ。(パキケトゥスは転がってないけど、まあまあ)
 密集のせいで船にあがれないでいたパキケが一瞬、暴れて、没していく。
「ゆうちゃん、駄目!  はいっちゃ駄目!」
 もはや見境のないゆう、海に飛び込もうとする。ずみちゃんはゆうの手首をつかみ、恐ろしいことに自分はつかまる場所がないことに気づいた。
「助けて!  ゆうちゃんが!」
 足は海水につかってすべるし、パキケに押されてずみちゃん転倒、たくさんの脚にめちゃくちゃに踏みつけられて……それよりも、ゆうちゃんの手首離してしまった!

 パキケに蹴り落とされたゆう、クジラの口に生えそろう鋭い牙を見る。
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