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それって犯罪じゃないの
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放課後とはいえ、グラウンドには野球部やサッカー部が場所を取り合って展開してるし(もっと広いグラウンドが欲しいよね)校庭の壁際をはしりこんでいるひとたちもいるし(何部なの?)木に脚立をかけて登っているひともいるし(本当に何部なのよ?)、校舎内にも文化系なんでしょ、生徒はまだだいぶ残っている。
四人のぞろぞろ歩きなど目立ない。ケーキの箱を持っていたってとがめられない。
クラスメートとすれ違っても「あれ~、まだいたんだ」「う~ん、いろいろとね~」説明は不要。
馴染んだ場所。あむるが先頭を歩く必要だってない、ホントはね。二階に上がる階段まえ。
あむるはふと立ち止まり、振り返る。
「質問してもいいかな? なぜわたしが先頭を歩き、君たちが一列になって続いているのだろうか。カルガモポジって必要なの?」
「あむあむ、カルガモ嫌いですか」
好きだよ。嫌いだと思ったことはないが。
「全員が先頭にはなれないからじゃないかな」
「りょうは時々面白いこというね」
「あむるに褒められるなんて、うれしい。珍しくて」
「…………」
真智さんは顔をしかめる。
「意地悪言うなよ。これからお化け屋敷に行くんだから誰でも緊張だってするさ。おっかなびっくりなんだよ」
「しじみちゃん、怖い?」
「ここここ」
「ケーキは死守するから安心しろ」と真智さん。決死の覚悟でいるのね。
ひっくり返すなよな!
そもそも男の子はあの部屋で何をしていたのだろうか。あむるは初めて疑問を覚えたのだ。
部屋と遭遇してから、もう何日もたっている。
その間、彼もずっとお茶してたわけではないだろう。あり得ない部屋を、無の空間に無理やりねじ込もうとしていたんだ。
りょうに言わせると部屋自体が妖怪だそうだが、妖怪には目的などないだろう。でも目的があって、何らかの工作をしていると思った方が、腑に落ちるよね?
でも彼はなんと言ってたかな……もうすぐオープンというような……そうだ、あの男の子は何かの準備をしていた。もうひとつの理科室。理科室であることにはおそらく何の意味はないのだろう。外側の本物の部屋をコピーしただけなんだ。
そしてそのあり得ない場所の外側には。
現代のものではないジャングル。
太古の密林。
「えーと、恐竜が滅んでどれくらいだぁ?」
「六千六百万年」
すんなり答えたのはしじみちゃん。そ~なのね。でもあの男の子は違う数字を言ってたよね。思い出せないけど。
「おい、あむあむ、どうした?」
立ち止まったままのあむるに真智さん痺れを切らしたのね。だけど、どうして真智さんに「あむあむ」って呼ばれなくちゃ、ならないのよ。
違和感だわ。
「やめてよ、あっちゃん」
「……。なんだよ、あむあむ」
「あっちゃん」
「あむあむぅ」
「あっちゃ~ん」
「どうした、ふたりとも。馬鹿になっちゃったのか」りょうに心配されてしまったわ。りょうも遠慮のない言い方をするものね。
あむるは気を引きしめて、階段に足をかける。行くわよ、ぞろぞろ、アヒルの探検隊。途中でゴリラにもワニガメにも遭遇することなく、理科室に到着。急げば数秒で行けるところよ。
「あちゃー」
そこで自分の大ボケに気がついたのだけれど、使用中でない部屋には当然鍵がかかっている。
「りょう、ごめん、鍵を借りてきてくれない」
「持ってる」
りょうの手には鍵が……。あれ、わたしの見てないうちに取ってきてくれたの。
「さんきゅー……」
真新しいカギ?
「年中、ここに来るからの、駅前のカギと靴修理の店でスペア作ってきたのよ。あんまり借りに行ったら先生に怪しまれるだろ」
さすが、なんと手回しのいい……というか……
「簡単にスペア作れちゃう安い鍵なのね……っていうか、勝手にスペア作っちゃうのは犯罪なんじゃ……」
「使わないのか」
「使う」
りょうの手から鍵をひったくる。震える手で解錠、理科室にじゃなくてダークサイドに足を踏み入れた気分よ。やばい。
なぜか忍び足になってね。
あむる一味は続いて入室、ぞろぞろ、みんなで忍び足。ここはまだ本物の理科室で、例の部屋はこの奥、ロッカーは……ないじゃん。ドアはある。全開。近づいてみれば、掃除用具のロッカーはあった。手前に倒れていたのだ。どうも後から押し倒された風情ですな。
「何があったの」
あむるはロッカー乗り越えて奥の部屋に飛び込んでいった。
「待て田西!」
「あむあむ!」
「馬鹿ぁ!」
みんなもなだれ込む。慎重さも用心もどこへやら。
四人のぞろぞろ歩きなど目立ない。ケーキの箱を持っていたってとがめられない。
クラスメートとすれ違っても「あれ~、まだいたんだ」「う~ん、いろいろとね~」説明は不要。
馴染んだ場所。あむるが先頭を歩く必要だってない、ホントはね。二階に上がる階段まえ。
あむるはふと立ち止まり、振り返る。
「質問してもいいかな? なぜわたしが先頭を歩き、君たちが一列になって続いているのだろうか。カルガモポジって必要なの?」
「あむあむ、カルガモ嫌いですか」
好きだよ。嫌いだと思ったことはないが。
「全員が先頭にはなれないからじゃないかな」
「りょうは時々面白いこというね」
「あむるに褒められるなんて、うれしい。珍しくて」
「…………」
真智さんは顔をしかめる。
「意地悪言うなよ。これからお化け屋敷に行くんだから誰でも緊張だってするさ。おっかなびっくりなんだよ」
「しじみちゃん、怖い?」
「ここここ」
「ケーキは死守するから安心しろ」と真智さん。決死の覚悟でいるのね。
ひっくり返すなよな!
そもそも男の子はあの部屋で何をしていたのだろうか。あむるは初めて疑問を覚えたのだ。
部屋と遭遇してから、もう何日もたっている。
その間、彼もずっとお茶してたわけではないだろう。あり得ない部屋を、無の空間に無理やりねじ込もうとしていたんだ。
りょうに言わせると部屋自体が妖怪だそうだが、妖怪には目的などないだろう。でも目的があって、何らかの工作をしていると思った方が、腑に落ちるよね?
でも彼はなんと言ってたかな……もうすぐオープンというような……そうだ、あの男の子は何かの準備をしていた。もうひとつの理科室。理科室であることにはおそらく何の意味はないのだろう。外側の本物の部屋をコピーしただけなんだ。
そしてそのあり得ない場所の外側には。
現代のものではないジャングル。
太古の密林。
「えーと、恐竜が滅んでどれくらいだぁ?」
「六千六百万年」
すんなり答えたのはしじみちゃん。そ~なのね。でもあの男の子は違う数字を言ってたよね。思い出せないけど。
「おい、あむあむ、どうした?」
立ち止まったままのあむるに真智さん痺れを切らしたのね。だけど、どうして真智さんに「あむあむ」って呼ばれなくちゃ、ならないのよ。
違和感だわ。
「やめてよ、あっちゃん」
「……。なんだよ、あむあむ」
「あっちゃん」
「あむあむぅ」
「あっちゃ~ん」
「どうした、ふたりとも。馬鹿になっちゃったのか」りょうに心配されてしまったわ。りょうも遠慮のない言い方をするものね。
あむるは気を引きしめて、階段に足をかける。行くわよ、ぞろぞろ、アヒルの探検隊。途中でゴリラにもワニガメにも遭遇することなく、理科室に到着。急げば数秒で行けるところよ。
「あちゃー」
そこで自分の大ボケに気がついたのだけれど、使用中でない部屋には当然鍵がかかっている。
「りょう、ごめん、鍵を借りてきてくれない」
「持ってる」
りょうの手には鍵が……。あれ、わたしの見てないうちに取ってきてくれたの。
「さんきゅー……」
真新しいカギ?
「年中、ここに来るからの、駅前のカギと靴修理の店でスペア作ってきたのよ。あんまり借りに行ったら先生に怪しまれるだろ」
さすが、なんと手回しのいい……というか……
「簡単にスペア作れちゃう安い鍵なのね……っていうか、勝手にスペア作っちゃうのは犯罪なんじゃ……」
「使わないのか」
「使う」
りょうの手から鍵をひったくる。震える手で解錠、理科室にじゃなくてダークサイドに足を踏み入れた気分よ。やばい。
なぜか忍び足になってね。
あむる一味は続いて入室、ぞろぞろ、みんなで忍び足。ここはまだ本物の理科室で、例の部屋はこの奥、ロッカーは……ないじゃん。ドアはある。全開。近づいてみれば、掃除用具のロッカーはあった。手前に倒れていたのだ。どうも後から押し倒された風情ですな。
「何があったの」
あむるはロッカー乗り越えて奥の部屋に飛び込んでいった。
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