願わくは

十八十二

文字の大きさ
8 / 18
除け者達のファンファーレ

シルクの肌、絹糸の髪、めいどを振り切った白

しおりを挟む
「遠距離攻撃が欲しい!!」

 俺達はギルドに併設された酒場でお昼を食べていた。ちなみに討伐から帰って来たばかりだ。
 猩々狩りにもずふんと慣れ、反日で一食分の稼ぎを稼ぐことが出来るようになった。

「二匹倒すのに時間がかかり過ぎるんだ。だからすぐに援軍がくる」

 食費を浮かすため、食事は小魚一匹と味噌汁、そして白米のみ。これが三食連続で、今日で三日目。そろそろ限界だ。

 「お、ご飯が来たよ、ヒルコ」

 ここのご飯はおかわり自由。
   俺は茶碗を持って席を立つ。炊きたての米もたっていた。

「援軍の到着を遅らせることができれば、もっと深くまで森に入れるのに……」

   やるせなくて奥歯を噛み締めると、米の旨味が広がった。

「問題は子猩々さ、アイツが侵入者を群れに知らせに行く」

   ホスセリが残しておいたワカメ汁を啜った。

「一口くれよ」

「自分の分食べたろ」

「じゃあ、魚でいいから」

「はぁ、君は馬鹿か?    だいたい一口で食べきるから……」

「はぁ、君は馬鹿だ。一気に食べるのが一番旨いんだ。一番旨い食べ方で食べるのが食べ物に対しての礼儀だろ?    ほら、耳を澄まして。魚とワカメが嘆いているよ」

「……フンッ」

    鼻で笑われた!?   パーティーメンバーに向けていい笑い方じゃない!

「とりあえず、募集みたら?   誰か来るかもしれないよ」

「うーん、そうね」

    俺はもう一度おかわりを貰おうと席を立った。

「白飯だけで何杯目だい?」

「三杯目」

    炊きたてならこのくらいは余裕だ。
    
    昼食を終えた俺達はカウンターに向かい、パーティーメンバー募集の張り紙を貼ってもらうお願いに行った。

「え……?    パーティーメンバーの募集ですか」

    嫌そうな声でセリが対応する。
    午後だから気力が尽きたのだろう。もうなにもしたくないと言った様子だ。

    よっこらしょと紙切れ一枚ををやたら重そうにカウンターの上に置いた。
    何も書かれていないまっさらな紙だ。

「この裏紙上げるんで色々書いて掲示板に貼っといてください」

    テキトー過ぎるだろ。

「勝手に貼ってもいいんですか?」

「あーいいですいいです。冒険者の方が自由に使ってるスペースがあるので」

   
    それだけ言うとセリはスイッチを切ってスリープモードに入っていた。
 目を開けたまま寝ているセリに一言お礼を言った

「さ、ヒルコ。何を書くんだい?」

「えーっと、どうしよ?どうする?こうしよ」

「お、早いね!   もう決まったのかい?」

    キサガイ姉さんの真似をしてみたのにスルーされた。元ネタが分からないから仕方ないか。

「とりあえず、どんなに神材じんざいが欲しいかでしょ。あとはこっちの情報も書いて、あとどんな冒険を目指してるか、とか」

    詰まることなく、白紙の上が埋まってゆく。

「ね、最後にキャッチーな言葉がほしくないかい?」

    ホスセリが用紙のしたの余白を指差した。
    確かにここに何か格好いい言葉があると見映えがいい。
    どうする?どうしよ?こうしよっと。

「未踏の地に足跡をつけに行きませんか?……とか」

「よし、決まり早速貼りに行こう」

 掲示板にはいくつかの紙が貼られていた。もちろんパーティーメンバーの募集もある。

「もう島根に行くパーティーもあるみたいだね、ヒルコ」

「こっちは四国に渡りたいから船くれってあるよ」

 みんな早いな。すごい。
 口には出して、口角も上げて見せたが、内心はザワザワしている。
 これでは未踏の地を——。
 賞賛の声で隠した嫉妬の目で張り紙の書き手の名前を探した。

(……大国主か、覚えとこう)

 その後、日が暮れるまで待ったが誰も来なかった。

「何ガッカリしてるのかい? 貼ってすぐ来るわけないじゃないか。また明日待ってみよう」

 ホスセリの言葉で自分を納得させて、トボトボと重い足を引きずって帰路に着いた。
 そして翌日、俺達の張り紙がビリビリに破かれていた。

「誰が……」

 目を血走らせてギルド内にいる冒険者を見渡して俺たちを笑っている神を探した。
 大きな荷物や武器を背負った冒険者ばかり。誰も俺たちを見ているもにはいないと思ったそのとき、一人だけまっすぐ向かってくる女神がいた。

 腰まで伸びた髪も、和装の服も、短パンも、腰に巻いた上着まで、頭のてっぺんからつま先まで白一色の少女。
 彼女は、敵意むき出しの俺たちに頭を下げた。

「ふざけんな、 謝って許されると思ってんのか?」

 俺は静かに怒り、破れた張り紙をその少女に突きつけた。
 少女は驚いて様子で足を引いた。そして手を交差してバツを作った。
 俺は意味がわからずさらに問い詰めたると、バツを作ったまま頭を横に激しく振った。

「ストップ! ヒルコ、この子は犯人じゃないかもしれないよ」

「はぁ?」

「むしろ、その張り紙を見てきてくれたんじゃないかな?」

「……え?」

 少女はコクコク頭を縦に振る。

「一緒に冒険してくれる……んですか?」

 コクコク。

「やったね、ヒルコ。一緒に未踏の地に足跡つけに行ってくれる仲間だよ!」

 それを後日他人から聞くと、なんかすごく恥ずかしいけれど、それ以上に今は嬉しいかった。
 彼女はまたコクコクして、片足を上げてバタンバタンと足跡をつけるジェスチャーをして見せた。

「じゃ、早速自己紹介から始めようか。僕はホスセリ」

「俺はヒルコ」

 次は彼女の番になった。しかし彼女は口を開こうとせず、自分の髪を掴んで見せた。
 俺たちは彼女の不可解な行動に首をかしげる。
 今度は服の裾を引っ張って指をさした。次は腰に巻いた上着を持って指指した。
 彼女は指をさした後、必ず期待の目で俺たちの顔色を見て、ガッカリと目を伏せる。
 何がしたいのかさっぱりわからないが、彼女の顔は真剣で、決してふざけているようには見えない。
 なにかを伝えようとしている?

 彼女がまた髪を指差した。

「綺麗な髪」

 ふるふると頭を振った。

「白い髪」

 彼女の顔がパッと明るくなって、今度は自分を差した。

「は地毛だぞ……?」

 彼女が自分の太ももをバチンと叩いた。下唇を噛んで眉間と鼻に皺を寄せた表情はひどく悔しそうだ。
 そして諦めず、裾を引っ張って差した。白い服だ。もしかして色のことを言いたいのか?

「白」

 今日一番の笑顔になった。そして両手をわちゃわちゃ動かして最後に自分を指差す。

「ましかして名前のことか」

 コクコクコクコク。

「白、じゃないのか……白、しろ、ホワイト、あとは音読みでシラ」

 俺がシラと口にした瞬間、サムズアップした両手をビシィーー!っと突き出した。

「正解!?」

 パチパチパチと拍手が帰ってくる。

「改めてシラ、これからよろしく」

 シラは任せろと胸を叩いて親指を立てた。そして歯を見せて笑うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...