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第20話 シリコンゴミ
しおりを挟む満腹でつい椅子でウトウトとしているとスマホの着信音が鳴り響く。キャバクラ経営者の勝田さんだ。
「悪い、先生。来れる?」
「5分で行きます」
薄手のパーカーを羽織り、自転車に跨がる。指定されたお店はアユミさんが働いている店ではなく、もう少し年齢層が高めのお店だ。HP調べ。
バイクのような速度で駆け抜け、店の前に到着すると着信履歴から3分だった。
「いらっしゃいませ。ご指名はありますか?」
「あの……回復士なんですけど」
「あ?ああー。どうぞこちらに!」
黒服さんにお客さん扱いされてしまったがこんな貧乏臭い恰好の客なんているのだろうか。店の内部はアユミさんのお店より拡張高くガラス張りに熱帯魚の水槽まである。絶対に客で来たくない。
この店でも裏手の待機室に案内されると、黒服2人に宥められている半狂乱の女性がいた。髪は乱れ、性的暴力にでも遭ったのかのような破れたパンストが痛ましい。
「来た来た。先生、頼むわ。同伴で出勤した時点で酔ってたからなぁ……どうもならんわ」
「はい。では、小解毒」
ぼやきながらやってきた勝田さんからGoも出たので、ゆっくりと刺激しないように後ろに回り小解毒をかけた。
びくりと動く肩。
「あ、あぁ……ああぁ……」
様子がおかしい。
汗をかき、荒い呼吸、力なく座り込んだ女性の血の気の引いた手がぶるぶると震えている。
「診断」
●アルコール離脱症
アルコール離脱って……なんだ?
スマホを取り出し検索する。
アルコール離脱とは、アルコール依存症の人がアルコールを抜くと起きる離脱症状で、通常数時間後に現れる小離脱と2~4日後に現れる大離脱とあり、大離脱の振戦せん妄は脱水・低栄養・電解質異常・糖尿病などの重篤な合併症がある場合などでは、適切な処置を行わないと死亡する場合もある。
とある。アル中の禁断症状で死ぬことあるの?!
いきなりアルコールを全部抜いたせいだろうか。
とりあえずこのままじゃまずい。黒服さん達と勝田さんの視線が突き刺さる。
「小治癒、小治癒、小治癒、小治癒」
消費MPにくらりとくるがローヒール4日分で様子を見る。
よし、震えは止まった。
いつの間にか額を伝う変な汗を拭い、安堵する。
「この方、アルコール依存症でした?」
「やっぱり? アル中っぽかったもんなぁ」
勝田さんはどうやら薄々気付いていたらしい。黒服さん達も頷いている。
「一先ず落ち着きましたが、依存症の場合は簡単にはいかないようです」
「先生、依存症も治せるの?」
勝田さんの目が光ったように見えた。
「……うーん。自信ないですね。メンタルな部分もあるでしょうし」
「……フィジカルは何とかなるんやな」
「うーん。対処的には……何とかなるのかなぁ……。ただすぐ治るか分かりませんし、料金的もそれなりになると思います。今日もちょっとこの後のヒーリングは厳しいですね」
ネットで調べた限りではまた数日後に離脱症状が出るかもしれない。飲むのが癖になっている人もいるだろうし、どこまでやれば治ったと言えるのかが不明だ。消費MPもそれなりだし、これを何人もはちょっと厳しい。
「了解した。今日この娘、見ててもらえんかな?」
「ラストまでですか? いいですけど」
「ただ場所がなぁ……まだ出勤してくるやついるし。マイって家どこだっけ?」
黒服さんと話し合う勝田さんだが……家に行くの?マイさんとやらの?
「先生、助かったわ。今日はこれで。後は頼んます」
何気なく分厚い黒の長財布から出てきたのは諭吉さん5枚。こんなに貰っていいのだろうか。勝田さんはお金を握らせると肩をポンポンして行ってしまった。
こうして自転車を置き去りのまま、黒服さんに送迎用のワンボックスカーで連行されたマイさんの家は立派なタワーマンションだったが、足の踏み場もない有り様だった。
虚脱状態でメイク落とさなきゃしか言わないマイさんをベッドに寝かせ、酒瓶や空き缶を片付ける。
アル中になるとこんなんになっちゃうんだなと思いつつ、朝方に元気に起きてきたマイさんに何かあれば連絡下さいと連絡先交換をし、走って帰宅した。
何もねぇよ。落ちてるヌーブラ見ちゃったくらいだよ!
ゴミかと思ったよ!
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