84 / 108
第83話 橋を渡る
しおりを挟む息が上がる。
酸素が足りないのか目の奥がチカチカする。足も全力で動かしているが、仲間達の背中を追うのが精一杯だ。
変なフラグ立てたせいかは定かではないが、威力偵察は失敗した。
久々に邂逅した敵ーー札幌に来たばかりの時にススキノで3回ほどデスペナルティを食らった幻想蛾に、我々偵察隊もいとも簡単に瓦解させられた。
連携がうまく取れなかったとかそんな理由ではない。
タンクはヘイトを取れず、アタッカーは攻撃が当たらず、幻想蛾は魔法を操り遠距離攻撃でHPが減ったプレイヤーを執拗に攻撃する。
超高難度エリアの敵は、数人いた高難度エリア経験者からみてもそれまでとは全く異質の存在だった。
アタッカー寄りにステータスを振ったらしい佐藤女史が3匹の幻想蛾の集中攻撃に遭いあっさりと沈黙。田辺さんが撤退を指示してイーストへと走って撤退中だ。
走力の問題で、意図せずしんがりとなった俺のHPは、蛾の魔法攻撃により現在進行形でガリガリと削られている。
全力疾走中なのだ。残りHPはいくつなのかも確認する余裕がない。まだ残っている……よな?
狭くなる視界の先に、国道36号線を渡るための横断歩道の信号が無情にも点滅を止め赤く染まってゆく……ここまで……か。
「さいとーさん! こっち!」
乱れた髪を頬に貼り付けたルイさんが手を引き、創成川を東へと渡っていく。
「もうちょい。もうちょいだから!」
応える声など出ない。息を吸って吐くだけでも心臓がどうにかなりそうだ。手足までチリチリしてきた。
「いた! 狐! 『消火準備』!」
ルイさんの消火起動ワードで、敵意とともに向かってくる炎狐。魔法は失敗し、ルイさんは狐に攻撃を受けているが気にせず走り抜けると、後ろからやってきた蛾が今度は狐を攻撃し始めた。
「よしっ! 今のうちに逃げよっ!」
事態が飲み込めず、コクコクとうなずくしかできなかったが、何とか距離を置くことができたところで歩道に座り込み、倒れ込むように大の字に寝転がってしまう。
「ハァッハッ……ありがと……ハァハァッ……ございます」
「なんとか、逃げ切れたみたいだね」
ぶありと噴き出した汗がこめかみを伝う。背中もびしょびしょでドロドロだ。空が……青い。
HPは……残り12。
「た……助かり……ました」
「ふー、危なかった。水でも買ってくるから座って待ってて。寝てると自転車に轢かれるよ」
呼吸と心拍数が中々落ち着かない。やはり日頃からランニングくらいはすべきだった。目を瞑るとぐらんぐらんしていて、太陽が眩しいが目を瞑れない。
「はい。さいとーさん。飲める? 起きて? 前にもあったねぇ、敵から逃げるの」
ルイさんの少し上気した笑顔も眩しい。
まだ、心臓がバクバクいっている。
これが吊り橋効果か……と、どこか他人事のような感想が浮かんでは消えた。
そして、水を飲んだら吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる