異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲

文字の大きさ
52 / 54
閑話

1「やばいです! ちょべりばです!」

しおりを挟む


 窓からランニング駆足をする隊員等が見える。彼等は、談笑しながら走っている。笑い声は、第1中隊事務室に迄入って来た。

「1中隊、鈴宮3尉、入ります」
「はい。どうぞ~」

 ついでに鈴宮3尉も入って来た。

「要望書を持って参りました」
「ありがと」

 私は、バインダー図板に挟まれたそれに目を通す。大体、変な所は無い。

「これ、車両用燃料には、観閲式の分も含まれてるよね?」
「はい……その通りですが」
「うん。普段は書かなくても良いんだけど、ここ異世界だからさ。日本から遠いところだからさ、変に追求されない様に但書きで良いから書いといて。『但、日ビ観閲式の演練用等含む』みたいに分る様にしてくれれば良いから」
「了解しました」

 実際に前回、月間報告を求められ送った所、戦闘で大量消費した事で本国から電話が来てしまった。「何に使ったんだ」と。補給本部も薄薄勘付いたのだろう。
 恐らく、陸上自衛隊で自衛隊法を元に人、又はそれに準ずる者を殺傷したのは我我が初めてだろう。政治に出汁に使われるのが目に見える。

「自衛隊が派遣先で戦闘。死傷者が出ています」

 事務室に情報収集と云う名目で点けっ放しで置いてあるテレビが、そう発した瞬間、場に居た全員がテレビの方を向いた。

「政府関係者が明らかにしました。具体的な被害は明らかにしておらず、先程の官房長官会見では、先先月に派遣部隊から報告を受けたが正確に確認出来ていない為、国民に不要な不安を煽らない為にも公表は控えていた、と詳細は語られませんでした」
「あーあ」
「遂にバレたか」

 墨田や京谷は、和ます様に言った。私も思わず、失笑してしまった。

「えぇ……凄いニュースが飛び込んできましたね」
「はい。こちら、派遣部隊というのが、今年4月に戦闘機等が相次いで失踪した事件で、捜索の為派遣された中央即応連隊や部隊を輸送する海自護衛艦等だそうです」

 私を含め、皆、テレビに釘付けになっている事に気付いた。

「じゃあ鈴宮、観閲式に向けて、演練と士気向上を宜しくね」

 私は、言うつもりのなかった事を伝えた。兎に角、誰かが仕事に取り掛からなければ、恐らくニュースが終る迄見続けてしまうからだ。

「了解しました。任せて下さい」



「マイクを試す。マイクを試す――」

 いよいよ迎えた、合同観閲観艦式。設営は、両国が合同で行った。この準備で、総員、多少なりともビルブァターニ臣民と交流する機会があり、ビルブァターニ語の「はい」「いいえ」位は分る様になった。
 ここは、日本で言う霞が関、官庁街。沿路には、異世界から見ても歴史的であると云う建造物が建ち並ぶ。建国前から地域の集団が行政に使用していたそうだが、それを現在も庁舎として使用しているらしい。財務省たる銭繰部局、防衛省たる軍事部局、総務省と言うべきか宮内庁と言うべきか迷ってしまう内宮部局等等が揃っている。書類を電波で送るより、走って届けた方が早い位だ。寧ろその為か。
 そして、この道の終点にあるのはこの国の中心部、宮殿ヴァルキリー。通行人みちゆくひとを見守っている、と言うより見張っていると言った方が正しいと思わせる厳かな雰囲気だ。
 今日午後、私達はここを行進する。外国の軍隊が車両迄持出してこうした国の中枢を行進するのは、余程の友好国かその国を傀儡としている他は、侵攻して手に入れた街を凱旋する位しかない。批判されるリスクを冒してこれをする理由は、両国の友好と日本がビルブァターニ帝政連邦を国として承認した事の宣伝と、イツミカの侵攻を退けた事を記念するパレードに参列して欲しいとビルブァターニからの申請、後押しがある。
 今、この道は通行規制が敷かれ、関係者の他はここにはいない。観客が入場するのは、午後になるから沿道にも人集りはない。何も通らない大きな道の真中で、一人、考え仰いでいると、何回も見た事のある鈴宮の焦った顔。鈴宮は、例の如く走ってこちらに向ってきた。

「やばいです! ちょべりばです!」

 ちょっと古めの流行語を話す鈴宮を久々に見た。以前、鈴宮の死語を聞いたのは……。

「奴です!」

 確か……。

「辻士長が、身分証を紛失しました!!」

 あ、そうそう。1小隊の子が身分証を亡くした時だ。

「辻かぁ……。これまた、何で今更。確かに朝から姿は見なかったけど」
「元元、昨晩に帰隊した時に紛失が発覚したらしく、ここは異世界だし亡くしたのニ回目だし、流石に今度は許してもらえないと思ったらしく、同期だけで解決しようとしたそうです。まあ結果はこの通りで、今になって濡れた猫みたいな顔で縋ってきました」

 鈴宮の声は段々小さくなる。監督責任が問われるから、萎縮してしまうのも無理はない。それに、身分証の紛失は見付からなかった場合、当該隊員は懲戒免職だ。手続きは、小隊長の鈴宮から私を通し連隊長へ行き……届けるべき所まで辿り着くのに大勢に迷惑を掛ける。

「はぁ……。仕方無い。捜索隊を編成するか。絶対、海自に迄迷惑掛けない様にね。私も行く」



 ヴァルキリーの周囲は、綺麗な芝生が広がる。私達が最初に入城した時、駐車した場所だ。観閲式を待ち望む車両等は、ほぼ同じ場所で万全を期する。
 この街全体を、東京の中で一番高い高層ビルよりも高い事が一目瞭然である壁が囲っている。更に、ヴァルキリーもこちらは中世欧州に見られる城壁と同じ位の高さだが壁に囲われている。だから、この芝生の広場から壁が二重に見える訳だが、こんな巨大な建造物自体、大陸ならまだしも狭い列島では見る事は先ず無い。
 さて、その芝生の上で整列するのは、向って左から鈴宮、杉田、宇野曹長だ。全員が指揮官級の人物だが、未だ会場設営が完璧ではなく物を運ぶのが殆どとなってしまった今は、手空きは陸曹士にはいない。会場設営の案出は海自だから、指示も彼等が出している。問題は無いだろう。

「……みんな、話は既に隊内へ広がっているから知っているだろうが、辻士長がやってしまった」

 話を切出す方も辛い。

「今、曹士は忙しいから、私を含めこの役職、この人数しか集められなかった。……ぜ、絶対に見つけ出すぞー!」

 何を言うか迷った私は、震えた声と一緒に拳を掲げた。その拳は、完全に上がりきっておらず、その位置に持っていく様は、油を半年していない機械であった。
 さっき迄鳴いていた筈の鳥は疎か、風すらも止んだ気がした。この静けさの中に虚しく聞こえるのは、杉田の元気な「おー!」と言う返しだけだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...