23 / 38
第二章
多分もう意味のない話
しおりを挟む
夢を見た。
私にとってはもはや当たり障りのない内容。一枚しか無い思い出のアルバムを眺めるように、私の夢は決まって同じだった。
子どもの頃。自分の人生において忘れようのない人に出会った、その日の記憶。
それを、絵物語のように眺めていながら、感覚は当事者のようにリアルでもある。
————ある夏の日のことだ。
一面、めいっぱいの夏みかん畑。自分の背よりも高い木が、私を圧迫するように並んでいる。
空はどこまでも高く、どことも知らない遠くの何処かに放り出されたようだった。
ジリジリと夏の日差しに肌を焼かれながら、辺りを宛てもなくうろついていた。
……そうだ、私はここに迷い込んだんだっけ。特にやることも無かったから一人で外に出て、あちらこちらを歩いていたら、このみかん畑まで来て。それから、それから——————
行く宛のない波のように歩いて、歩いて、歩き続けて…………私は人を見つけたんだ。
私と同じくらいの背丈の女の子。けれど、それ以外は何もかもが違う。
髪が腰くらいまであって、それなのに一本一本整えてるんじゃないかってくらいきれいだった。真っ白なワンピースがこれでもかってくらい似合っていた。何より、目は大きくぱっちりとして、見惚れてしまうくらいに可愛かった。
まるで、絵本の中から出てきたお姫様のようだった。
彼女がこちらに気づく。雪のように白い肌だったけど、その頬は血色よくほんのりと朱く染まっていた。
私を見て、顔がほころぶ。そして何故だか喜々としてこっちに駆け寄ってきた。
人見知りな私はどうしていいか分からなくなった。顔を俯けていると、すぐに視界に彼女の靴が現れる。
“こんにちは”
“……………”
“ここで何してるの?よかったらいっしょに遊ばない?”
“え……”
びっくりした。まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
顔を上げると、やっぱり華のように笑う女の子がいた。あまりにも眩しくて、ここから逃げ出したくなる。
彼女は自分とは真逆の人だ。すぐにそう分かった。
いつもひとりで、ウジウジして誰にも何も言えず、何を考えてるのか分からないと言われて、バカにされてもそうだと納得してしまう————そんな自分自身でもキライになってしまいそうな自分。
そんなのとは、彼女は全然違う。住む世界が違う。
一目でそんなふうに思ったから、彼女が私に友好的に話しかけてきたことに驚いた。
“えっと……………その………”
なんでか泣きそうになる。
ただ話しかけられただけなのに。
でも、友だちなんか一人もいなかった私には、どうやって上手に話せばいいのか分からない。
ああ。こんな自分もキライだ。
……ぐるぐる、ぐるぐる。
ネガティブな言葉ばかりが頭の中を巡る。なんて言えば……どう応えればいいんだろう。こんなこと、教科書にものってないのに。わからない、わからない、わからない————
“こっち!”
答える前に、彼女は私の手を取った。
ぐいっと引っ張って、こちらに有無も言わさずに私をどこかへ連れて行く。
彼女がなにを考えてるのかわからない。なんで私に構うのか、それもわからない。
ただ一つ、すとんと心に落ち着くように分かることはあった。
彼女は楽しそうだった。ただただ純粋に嬉しそうだった。今この時を、全力で充実したものにしたいのだとわかった。
きっとその時間の中に、私も入れてくれている。
……そんな彼女を、私はいいなと思った。烏滸がましいのかもしれないけれど、純粋だった彼女のように、私も純粋に憧れたのだ。
ともあれ、それが生涯でたった一人の友達との出会い。
反芻する記憶。手触りのない夢の跡。
こんなものに意味なんてあるのだろうか。それすら私には分からない。
せめて私の所感でいいのなら。多分、無いようできっとある。なんとなく、そう信じたい。
夢を夢とも知らぬ私は、いつもそう思うのだった。
私にとってはもはや当たり障りのない内容。一枚しか無い思い出のアルバムを眺めるように、私の夢は決まって同じだった。
子どもの頃。自分の人生において忘れようのない人に出会った、その日の記憶。
それを、絵物語のように眺めていながら、感覚は当事者のようにリアルでもある。
————ある夏の日のことだ。
一面、めいっぱいの夏みかん畑。自分の背よりも高い木が、私を圧迫するように並んでいる。
空はどこまでも高く、どことも知らない遠くの何処かに放り出されたようだった。
ジリジリと夏の日差しに肌を焼かれながら、辺りを宛てもなくうろついていた。
……そうだ、私はここに迷い込んだんだっけ。特にやることも無かったから一人で外に出て、あちらこちらを歩いていたら、このみかん畑まで来て。それから、それから——————
行く宛のない波のように歩いて、歩いて、歩き続けて…………私は人を見つけたんだ。
私と同じくらいの背丈の女の子。けれど、それ以外は何もかもが違う。
髪が腰くらいまであって、それなのに一本一本整えてるんじゃないかってくらいきれいだった。真っ白なワンピースがこれでもかってくらい似合っていた。何より、目は大きくぱっちりとして、見惚れてしまうくらいに可愛かった。
まるで、絵本の中から出てきたお姫様のようだった。
彼女がこちらに気づく。雪のように白い肌だったけど、その頬は血色よくほんのりと朱く染まっていた。
私を見て、顔がほころぶ。そして何故だか喜々としてこっちに駆け寄ってきた。
人見知りな私はどうしていいか分からなくなった。顔を俯けていると、すぐに視界に彼女の靴が現れる。
“こんにちは”
“……………”
“ここで何してるの?よかったらいっしょに遊ばない?”
“え……”
びっくりした。まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
顔を上げると、やっぱり華のように笑う女の子がいた。あまりにも眩しくて、ここから逃げ出したくなる。
彼女は自分とは真逆の人だ。すぐにそう分かった。
いつもひとりで、ウジウジして誰にも何も言えず、何を考えてるのか分からないと言われて、バカにされてもそうだと納得してしまう————そんな自分自身でもキライになってしまいそうな自分。
そんなのとは、彼女は全然違う。住む世界が違う。
一目でそんなふうに思ったから、彼女が私に友好的に話しかけてきたことに驚いた。
“えっと……………その………”
なんでか泣きそうになる。
ただ話しかけられただけなのに。
でも、友だちなんか一人もいなかった私には、どうやって上手に話せばいいのか分からない。
ああ。こんな自分もキライだ。
……ぐるぐる、ぐるぐる。
ネガティブな言葉ばかりが頭の中を巡る。なんて言えば……どう応えればいいんだろう。こんなこと、教科書にものってないのに。わからない、わからない、わからない————
“こっち!”
答える前に、彼女は私の手を取った。
ぐいっと引っ張って、こちらに有無も言わさずに私をどこかへ連れて行く。
彼女がなにを考えてるのかわからない。なんで私に構うのか、それもわからない。
ただ一つ、すとんと心に落ち着くように分かることはあった。
彼女は楽しそうだった。ただただ純粋に嬉しそうだった。今この時を、全力で充実したものにしたいのだとわかった。
きっとその時間の中に、私も入れてくれている。
……そんな彼女を、私はいいなと思った。烏滸がましいのかもしれないけれど、純粋だった彼女のように、私も純粋に憧れたのだ。
ともあれ、それが生涯でたった一人の友達との出会い。
反芻する記憶。手触りのない夢の跡。
こんなものに意味なんてあるのだろうか。それすら私には分からない。
せめて私の所感でいいのなら。多分、無いようできっとある。なんとなく、そう信じたい。
夢を夢とも知らぬ私は、いつもそう思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。
帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。
♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。
♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。
♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。
♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。
※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。
★Kindle情報★
1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P
Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL
★YouTube情報★
第1話『アイス』朗読
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
Chit-Chat!1
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
イラスト:tojo様(@tojonatori)
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる