8 / 29
回想:過去の影 - 忘れ去りたい記憶
しおりを挟む
白い花が咲いていた。小さいけれど強い生命力を感じさせる花。
あの日はとても暖かい春の日だった。
確かひとりは16歳、もうひとりは14歳だったと思う……
「美しいですね……」
誰かがそう言って笑った。
金色の髪が風に揺れていて、その顔が太陽に照らされていた。
「ああ。名もない花だが……まるで君みたいだ」
優しい声にドキッとさせられる。あの人は私の手を取り微笑んだ。
(私にとって一番大切な人の笑顔……)
私たちは長い時間を一緒に過ごしてきた。
最初はただの婚約者同士だったけれど、いつの間にか心を通わせるようになった。
◆
「今日は一段と厳しい鍛錬だったな……」
「でも素晴らしい成果でしたよ!」
私の夫となるべき人が汗を拭いながらそう言った。
彼は誰よりも誠実で優しくて……そして勇敢だった。
「次は私が魔術でサポートします。もっと強くなりますから!」
そう言うと彼は少し驚いたように眉を上げたがすぐに柔らかな表情になった。
「ありがとう。だが無理はしないでほしい。君にはいつも助けられている」
彼の言葉が胸に染み渡る。私もまた彼のために何かできたらいいのにと思う。
(二人で国を守り抜いて……この国を豊かにしよう)
そう心に誓った。
◆
ある晴れた日のことだった。
街外れでモンスター退治を行った帰り道で偶然見つけた湖畔。
その場所は静かで水音しか聞こえず神秘的だった。
「ここで休憩しよう。疲れているだろう?」
そう言われて地面に座った。
隣に座る彼の横顔を眺めているうちに自然と肩にもたれてしまった。
「大丈夫か? 無理せず横になれ」
優しく頭を撫でられると心地よかった。
(私は本当に幸せ者だ……こんなにも愛してくれる人と出会えて)
でも……
◆
どこから狂ってしまったんだろう?
あの日まで彼との生活は何もかも順調だったはずなのに……
今思い返せば、すべてが始まった瞬間はある。
古より伝えられてきた秘術により召喚された勇者が現れてからだった。
召喚勇者と呼ばれる男性……年齢は私と同じ17歳。
カズマという人だった。初対面の時には特に何も思わなかった。
ただ王国から招かれた客人として接していたはずだった。
けれど、何故だろう?
彼と話しているうちに自分の意識がぼんやりとしてきてしまう時があった。
そして気づけば彼のそばで安堵感を覚えている自分が居たのだ。
(おかしい……なんでこんな気持ちになるんだろう?)
最初は疲れているせいだと思っていた。
しかし時間が経つにつれてその違和感は大きくなっていった。
「君はとても素敵な人だね。勇者である俺に相応しいと思わないかい?」
ある日、勇者と魔術師団の打ち合わせの後にカズマが私に囁いた言葉。
それを聞いた瞬間、胸の奥から言いようのない衝動が湧き上がった。
怖くて震えながら拒否しようとしても体が言うことを聞かない。
まるで別の存在が自分を支配しているみたいだった。
「君は本当に綺麗だ……」
カズマが近づいて来る。逃げたいけど体が動かない。
(嫌……助けて……お願い!)
声にならない叫びを上げても無駄だった。
そして唇が触れ合いそうな距離まで来たところで抵抗できない自分が居た。
その時だった。脳裏によぎったのはアルフォンス様の顔だった。
◆
その後何があったかよく覚えていない。
ただ、カズマによって私の心と精神が魅了されたことに気付いていたが、
その気付きを無視して変わっていく自分に恐怖してたと思う。
「君は俺のモノだよね?」
カズマの甘い囁きは耳障りでしかなかったはずなのに
今やそれを聞くたびに体が熱くなる感覚さえあるようになった。
(嫌だ!こんな事認めたくない)
しかしそんな願いなど叶う訳もなく、
日増しに自分の意識が薄れてゆく気がした。
そして徐々に自分が自分でなくなってしまうような恐ろしさを感じた。
◆
そして迎えたある朝。鏡に映った自分を見て愕然とした。
以前とは明らかに違う表情。媚びるように笑う口元。
それはもう自分の知っている自分ではなかった。
(どうしよう……どうしたらいいんだろう?)
悩んでいた矢先だった。
カズマによってアルフォンス様が陥れられることになる事件が起きた。
私を救ってくれなかったアルフォンス様。
そう思ってしまった瞬間から彼への想いは急速に冷め始めてしまった。
「ごめんなさい……もう貴方には戻れないんです」
そして私はカズマの腕に飛び込みながら思った。
(これが本当の私……?)
もう後戻りできないところまできてしまったんだな―――と自嘲しながらも
どこかでホッとしている自分が居る事を否定できなかった。
あの日はとても暖かい春の日だった。
確かひとりは16歳、もうひとりは14歳だったと思う……
「美しいですね……」
誰かがそう言って笑った。
金色の髪が風に揺れていて、その顔が太陽に照らされていた。
「ああ。名もない花だが……まるで君みたいだ」
優しい声にドキッとさせられる。あの人は私の手を取り微笑んだ。
(私にとって一番大切な人の笑顔……)
私たちは長い時間を一緒に過ごしてきた。
最初はただの婚約者同士だったけれど、いつの間にか心を通わせるようになった。
◆
「今日は一段と厳しい鍛錬だったな……」
「でも素晴らしい成果でしたよ!」
私の夫となるべき人が汗を拭いながらそう言った。
彼は誰よりも誠実で優しくて……そして勇敢だった。
「次は私が魔術でサポートします。もっと強くなりますから!」
そう言うと彼は少し驚いたように眉を上げたがすぐに柔らかな表情になった。
「ありがとう。だが無理はしないでほしい。君にはいつも助けられている」
彼の言葉が胸に染み渡る。私もまた彼のために何かできたらいいのにと思う。
(二人で国を守り抜いて……この国を豊かにしよう)
そう心に誓った。
◆
ある晴れた日のことだった。
街外れでモンスター退治を行った帰り道で偶然見つけた湖畔。
その場所は静かで水音しか聞こえず神秘的だった。
「ここで休憩しよう。疲れているだろう?」
そう言われて地面に座った。
隣に座る彼の横顔を眺めているうちに自然と肩にもたれてしまった。
「大丈夫か? 無理せず横になれ」
優しく頭を撫でられると心地よかった。
(私は本当に幸せ者だ……こんなにも愛してくれる人と出会えて)
でも……
◆
どこから狂ってしまったんだろう?
あの日まで彼との生活は何もかも順調だったはずなのに……
今思い返せば、すべてが始まった瞬間はある。
古より伝えられてきた秘術により召喚された勇者が現れてからだった。
召喚勇者と呼ばれる男性……年齢は私と同じ17歳。
カズマという人だった。初対面の時には特に何も思わなかった。
ただ王国から招かれた客人として接していたはずだった。
けれど、何故だろう?
彼と話しているうちに自分の意識がぼんやりとしてきてしまう時があった。
そして気づけば彼のそばで安堵感を覚えている自分が居たのだ。
(おかしい……なんでこんな気持ちになるんだろう?)
最初は疲れているせいだと思っていた。
しかし時間が経つにつれてその違和感は大きくなっていった。
「君はとても素敵な人だね。勇者である俺に相応しいと思わないかい?」
ある日、勇者と魔術師団の打ち合わせの後にカズマが私に囁いた言葉。
それを聞いた瞬間、胸の奥から言いようのない衝動が湧き上がった。
怖くて震えながら拒否しようとしても体が言うことを聞かない。
まるで別の存在が自分を支配しているみたいだった。
「君は本当に綺麗だ……」
カズマが近づいて来る。逃げたいけど体が動かない。
(嫌……助けて……お願い!)
声にならない叫びを上げても無駄だった。
そして唇が触れ合いそうな距離まで来たところで抵抗できない自分が居た。
その時だった。脳裏によぎったのはアルフォンス様の顔だった。
◆
その後何があったかよく覚えていない。
ただ、カズマによって私の心と精神が魅了されたことに気付いていたが、
その気付きを無視して変わっていく自分に恐怖してたと思う。
「君は俺のモノだよね?」
カズマの甘い囁きは耳障りでしかなかったはずなのに
今やそれを聞くたびに体が熱くなる感覚さえあるようになった。
(嫌だ!こんな事認めたくない)
しかしそんな願いなど叶う訳もなく、
日増しに自分の意識が薄れてゆく気がした。
そして徐々に自分が自分でなくなってしまうような恐ろしさを感じた。
◆
そして迎えたある朝。鏡に映った自分を見て愕然とした。
以前とは明らかに違う表情。媚びるように笑う口元。
それはもう自分の知っている自分ではなかった。
(どうしよう……どうしたらいいんだろう?)
悩んでいた矢先だった。
カズマによってアルフォンス様が陥れられることになる事件が起きた。
私を救ってくれなかったアルフォンス様。
そう思ってしまった瞬間から彼への想いは急速に冷め始めてしまった。
「ごめんなさい……もう貴方には戻れないんです」
そして私はカズマの腕に飛び込みながら思った。
(これが本当の私……?)
もう後戻りできないところまできてしまったんだな―――と自嘲しながらも
どこかでホッとしている自分が居る事を否定できなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
