燃え尽きた灰から蘇るもの

庵ノ雲

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回想:過去の影 - 忘れ去りたい記憶

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白い花が咲いていた。小さいけれど強い生命力を感じさせる花。
あの日はとても暖かい春の日だった。



確かひとりは16歳、もうひとりは14歳だったと思う……

「美しいですね……」

誰かがそう言って笑った。
金色の髪が風に揺れていて、その顔が太陽に照らされていた。

「ああ。名もない花だが……まるで君みたいだ」

優しい声にドキッとさせられる。あの人は私の手を取り微笑んだ。

(私にとって一番大切な人の笑顔……)

私たちは長い時間を一緒に過ごしてきた。

最初はただの婚約者同士だったけれど、いつの間にか心を通わせるようになった。



「今日は一段と厳しい鍛錬だったな……」
「でも素晴らしい成果でしたよ!」

私の夫となるべき人が汗を拭いながらそう言った。
彼は誰よりも誠実で優しくて……そして勇敢だった。

「次は私が魔術でサポートします。もっと強くなりますから!」

そう言うと彼は少し驚いたように眉を上げたがすぐに柔らかな表情になった。

「ありがとう。だが無理はしないでほしい。君にはいつも助けられている」

彼の言葉が胸に染み渡る。私もまた彼のために何かできたらいいのにと思う。

(二人で国を守り抜いて……この国を豊かにしよう)

そう心に誓った。



ある晴れた日のことだった。
街外れでモンスター退治を行った帰り道で偶然見つけた湖畔。
その場所は静かで水音しか聞こえず神秘的だった。

「ここで休憩しよう。疲れているだろう?」

そう言われて地面に座った。
隣に座る彼の横顔を眺めているうちに自然と肩にもたれてしまった。

「大丈夫か? 無理せず横になれ」

優しく頭を撫でられると心地よかった。

(私は本当に幸せ者だ……こんなにも愛してくれる人と出会えて)

でも……



どこから狂ってしまったんだろう?
あの日まで彼との生活は何もかも順調だったはずなのに……

今思い返せば、すべてが始まった瞬間はある。

古より伝えられてきた秘術により召喚された勇者が現れてからだった。

召喚勇者と呼ばれる男性……年齢は私と同じ17歳。
カズマという人だった。初対面の時には特に何も思わなかった。
ただ王国から招かれた客人として接していたはずだった。

けれど、何故だろう?

彼と話しているうちに自分の意識がぼんやりとしてきてしまう時があった。
そして気づけば彼のそばで安堵感を覚えている自分が居たのだ。

(おかしい……なんでこんな気持ちになるんだろう?)

最初は疲れているせいだと思っていた。
しかし時間が経つにつれてその違和感は大きくなっていった。

「君はとても素敵な人だね。勇者である俺に相応しいと思わないかい?」

ある日、勇者と魔術師団の打ち合わせの後にカズマが私に囁いた言葉。
それを聞いた瞬間、胸の奥から言いようのない衝動が湧き上がった。

怖くて震えながら拒否しようとしても体が言うことを聞かない。
まるで別の存在が自分を支配しているみたいだった。

「君は本当に綺麗だ……」

カズマが近づいて来る。逃げたいけど体が動かない。

(嫌……助けて……お願い!)

声にならない叫びを上げても無駄だった。
そして唇が触れ合いそうな距離まで来たところで抵抗できない自分が居た。

その時だった。脳裏によぎったのはアルフォンス様の顔だった。



その後何があったかよく覚えていない。
ただ、カズマによって私の心と精神が魅了されたことに気付いていたが、
その気付きを無視して変わっていく自分に恐怖してたと思う。

「君は俺のモノだよね?」

カズマの甘い囁きは耳障りでしかなかったはずなのに
今やそれを聞くたびに体が熱くなる感覚さえあるようになった。

(嫌だ!こんな事認めたくない)

しかしそんな願いなど叶う訳もなく、
日増しに自分の意識が薄れてゆく気がした。
そして徐々に自分が自分でなくなってしまうような恐ろしさを感じた。



そして迎えたある朝。鏡に映った自分を見て愕然とした。

以前とは明らかに違う表情。媚びるように笑う口元。
それはもう自分の知っている自分ではなかった。

(どうしよう……どうしたらいいんだろう?)

悩んでいた矢先だった。
カズマによってアルフォンス様が陥れられることになる事件が起きた。

私を救ってくれなかったアルフォンス様。
そう思ってしまった瞬間から彼への想いは急速に冷め始めてしまった。

「ごめんなさい……もう貴方には戻れないんです」

そして私はカズマの腕に飛び込みながら思った。

(これが本当の私……?)

もう後戻りできないところまできてしまったんだな―――と自嘲しながらも
どこかでホッとしている自分が居る事を否定できなかった。
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