燃え尽きた灰から蘇るもの

庵ノ雲

文字の大きさ
17 / 29

アルフォンス・リーンVS魔王軍幹部 -勝利と告白-

しおりを挟む
シャドウナイトが放つ暗黒の波動が村全体を覆うように広がっていく。

「アルフォンス様っ……!」

リーンの声が聞こえる中、アルフォンスは反射的に左腕を翳して身を守る。
隻腕のアルフォンスにとって左半身は本来死角であるはずなのに―
今は不思議な程に自然な動作で動けていた。

(女神の加護……これが『庇護』のチカラか)

全てを失い絶望すら持たずに、ひとり彷徨っていた孤独とは全く違う。
かつての、あの時までと同じように自分が守る「何か」が今はあるのだ。

そしてそれはリーンと共にあるからこそ強く感じられる。
暗黒の波動に飲み込まれながらも、アルフォンスは意識を保ち続けた。

(必ず生き抜いて見せる……)

決意を固めながら波動の中心に向かい走る。
視界は奪われたものの感覚は研ぎ澄まされていた。

魔族の気配。大地の震動。
そして人々の叫び声―その全てが彼に道を示してくれる。

(今だ―)

剣を一閃すると―まるで鏡面のような空間が割れ、眩しい光が溢れ出した。

「グアアアァ!」

シャドウナイトが叫ぶ。漆黒の鎧が砕け散る。
"女神の勇者"アルフォンスの放った斬撃は闇を切り裂いた。

「何故ダ……! 片腕デ……隻眼ノ男ガ……」

仮面を剥がされた魔族は驚愕の表情を浮かべる。

「人は……どんな障害があっても……乗り越えることができるんだ!」

隻腕となったことで得た新たな均衡感覚。
隻眼となったことで鍛えられた直感。

それらはアルフォンスの潜在能力を開花させ、新しい可能性をもたらしていた。

「バカナ……! 我ラガ魔族ニ対シテ……ソンナ力ナドアルハズガナイ!」

シャドウナイトは後退る。しかし―

「もう遅いっ ここまでですっ!」

背後からリーンの声が響いた。彼女は聖杖を高く掲げていた。

「聖光……浄化!」

聖なる光が闇を貫く。
シャドウナイトの身体から黒い煙が噴き出し始めた。

「ギャアアア!」

断末魔の叫びを上げながら漆黒の魔族は霧散していく―

---

戦闘が終息を迎えると同時に村全体が静寂に包まれた。

「アルフォンス様!」

リーンが駆け寄ってくる。

温かく柔らかい彼女の微笑みは、
白く小さな花のように戦闘の緊張感を和らげてくれる。

「ありがとう。リーンのおかげで助かったよ」

アルフォンスは右腕で剣を収める。
既に体力の限界を超えていた。両足が震えている。

「よかった……ご無事で」

リーンは安心したように息をつく。
しかしその瞳には僅かに涙が滲んでいた。

「そんな顔をするなよ……聖女様」

「でも……今回は本当に……危なかったんですからね!」

彼女の言葉にアルフォンスは苦笑する。
確かに今回ばかりは命を落としてもおかしくなかったかもしれない。

(それだけ俺も成長したってことか)

過去の自分では到底及ばなかっただろう。
隻腕隻眼となったことで逆境を乗り越える精神力が培われた。
女神の祝福もそれに呼応するかのように力添えをしてくれていた。

「リーン。これからどうする?」

周囲を見回すと村人たちは恐る恐る出てきている。
多くの建物が壊れており被害は甚大だが死傷者はゼロ。

「とりあえず……怪我人の手当てをして食糧の配給を手伝いましょう」

リーンが答える。彼女は既に冷静さを取り戻していた。

「そうするしかないな。でもその後はどうする?」

アルフォンスは尋ねる。
勇者の神具を見つけるための旅は一旦中断せざるを得ないだろう。

「私は……この村の人々を助けたいです」

聖女らしい強い意志が込められた言葉だった。

「そして……少し休憩してから……また旅立つのです」

「分かった。俺も協力するよ」

こうして二人の旅は続いていく。
勇者の神具を見つけるまでの長い道のり。途中で何度も困難に遭遇するだろう。
しかし今は互いに信頼できる仲間がいる。それだけで充分だった。

---

数日後の夕暮れ時。

修復作業が続く村の一角でリーンが呟くように言った。

「アルフォンス様。一つお願いがあります」

「なんだ?」

彼女の表情はいつになく真剣なものだった。

「私は……魔族との戦いが終わった後もあなたと一緒にいたいと思っています」

突然の告白にアルフォンスは言葉を失う。
リーンは目を逸らすことなく彼を見つめている。

(まさか……そういう意味で言ってるのか?)

考えたこともなかった。聖女としての使命感を持ちながらも――
彼女は一人の人間としての感情を持っている。

「それは……どういう……」

口ごもるアルフォンスにリーンは微笑む。

「今すぐお答えいただかなくても結構です。
 ただ……私の気持ちを知っておいてほしかったので……」

そう言い残すと彼女は去っていく。

残されたアルフォンスは呆然とする。

「おいおい……勘弁してくれよ」

独り言を漏らす。

彼自身も気づかないうちにリーンを特別な存在として見るようになっていた。
しかし彼にはまだ女神に選ばれ、己に定めた「勇者」としての使命が残っている。

それにアリシアの事も完全に吹っ切れたわけではない。
思い出したくない程の恨みがあった。
だが……もしかしたら彼女の意思では無いのではとも思い始めている。
女神の奇跡でも復活しない隻腕隻眼がそう訴えているのかもしれない。

(神具を見つけて魔王を倒し、魔族との戦いを終えたあとには……)

その時はきっと答えを出すべきなのだろう。アルフォンスは確信する。

「まったく……俺は元に戻ってきたのかな?」

彼は苦笑しながら村の夜景を眺める。
破壊された家屋の傍で子どもたちが遊んでいる。笑い声が聞こえてくる。

(俺自身のかつての誓いにかけても……この世界を守らないとな)

その思いがより強くなった。
女神の祝福を受けた「隻腕隻眼の勇者」アルフォンス。
そして彼と共に歩む決意を固めた聖女リーン。

二人の物語はまだ始まったばかりだ。
そしてその運命の糸は大きく動き出す兆しを見せ始めていた―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...