燃え尽きた灰から蘇るもの

庵ノ雲

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広がりゆく"解放者"と"救済者"の噂

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アルフォンスとリーンの旅は続き、数ヶ月が過ぎた頃――

帝国南部の辺境地域から中部へと拡がりつつある噂は、奇妙な速さで広がっていた。

「隻腕隻眼の男が数百の魔物の軍勢を単騎で蹴散らした」
「聖女の祈りで不治の病が癒された」
「誰も助けてくれなかった小さな村が救われた」

これらの話題を共有するたびに人々は口を揃えるようになった。

"解放者"、"救済者"と呼ばれる二人の男女。

村の広場で情報交換を行う農民たちは興奮気味に語り合う。

「北の山岳地帯でも活躍してるらしいぜ」
「東の森で魔族の偵察隊を全滅させたとか」
「あの帝国の召喚勇者よりずっと信頼できるよな」

召喚勇者カズマへの不信感は徐々に浸透しつつあった。

彼は確かに強大な力を持っている。
だがその恩恵は主に富裕層や大都市圏のみに与えられている。
……というのが一般的な認識だった。

「帝国の大貴族たちには媚びてるらしいが庶民のことは見てないってよ」
「そりゃあんだけ贅沢三昧してるからな。金持ちにしか興味ねーんだろう」
「でも召喚された勇者ってのは、今まで魔王を倒した勇者と同じなんだろ?」

噂話は尾ひれをつけながら流れていき、真偽不明の情報が錯綜する中で
民衆たちの間では「勇者とは?」という疑念すら芽生えはじめていた。

-----

アルフォンスとリーンが次の目的地に向かう途中、小さな宿屋に立ち寄る。

「いらっしゃいませ」

店主が頭を下げる。店内は簡素ながら清潔感があり穏やかな雰囲気が漂っている。
数組の旅人と地元の住民が座っていたが――
彼らは入店してきたアルフォンスを見るなり視線を送り小声で話し始める。

(ここでもか……)

隻腕隻眼であることは確かに珍しいだろうが……だが、
注目される理由について薄々気づいていた。

「お世話になります」

リーンが丁寧にお辞儀する。
すると年配の女性客が口を開いた。

「あんた達……噂になってる"解放者"と"救済者"かい?」

「……えぇまあ」

アルフォンスは短く答える。
否定しても意味がないことを理解していた。

女性は嬉しそうに微笑みながら椅子を勧める。

「少し話を聞かせてくれんかねぇ。うちの孫が熱病で苦しんでるんだ」
「私たちだけじゃなくて村の若い連中も何人も……」

「分かりました。できる限り協力します」

リーンは即答する。彼女の瞳には慈悲深い光が宿っていた。

(これは長くなりそうだな……)

内心で溜息をつきつつもアルフォンスは彼女を止めなかった。

----

翌朝――

アルフォンスとリーンは治療を終えた村人から感謝されながら宿屋を後にする。

「思った以上に深刻でしたね」
「ああ。噂だけでここまで影響が出ているとはな」

馬車に乗り込みながら会話を続ける。
御者の老人が荷物を整理しながら話しかけてきた。

「最近じゃ帝国から派遣される治癒師も数が減ってるようでね……」
「大貴族の要請が優先されているんでしょう」

リーンが推測を述べる。
実際、帝国中央部の政治情勢は悪化の一途を辿っていた。

「このままじゃ地方の村々は全滅するんじゃないか?」

御者が不安げに言う。彼の言葉には誇張が含まれていたかもしれないが
それが実情でありそう思う村人達は多いだろう。
アルフォンスとリーンは沈黙したまま頷き合った。


----


魔王軍四天王のひとりグラヴィウスは執務室で書類を読んでいた。

「……ふむ」

帝国領域内の報告書には詳細な情報が記載されていた。
"解放者"と"救済者"の活動記録。

彼らは召喚勇者カズマとは異なり、魔族や魔物の大規模な拠点ではなく、
小さな村々を中心に動いているが、幹部を倒し数百の魔物を退けたとある。

「この男……確か隻腕隻眼だったか」

グラヴィウスは眉をひそめる。

身体に欠損がある。だが戦いに関しては……
召喚勇者のカズマよりも遥かに経験が豊富で強い意志を持っているようだ。
そして民衆からの支持も多く集めている。

「勇者と同様に……厄介かもしれんな……」

四天王最年少の彼は若さ特有の苛立ちを感じていた。
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