俺の幸せの為に

夢線香

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本編

03. 肝心なものが無い

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「俺の魔力って言ってたけど……俺、魔法が使えるの?」

 ハニエルは、頷くけど自分では今迄と変わらないので魔力とか言われてもいまいちピンと来ない。

 魔法と謂えば…学生時代にやったゲームや書籍、偶に観たアニメ位か……。

 そもそも、魔法が有るって事は、俺が居た世界とは全く違う世界って事だろ? 異世界ってやつだよな。

 異世界に来てまで…知りもしなかった他人に取り憑くって…俺ヤバ過ぎないか?

「でも、アシャが、きてくれたから…ぼくはまだきえてないよ…?」

「……まだ、ね……」

 ハニエルと出逢ったのも何かの縁だ。勝手に憑依した詫びに、せめて今の状態からは脱却させてやりたいが……。

 ハニエルの躰の現状を考えると…チートな魔法でもないと難しい……。

「ちーとなまほう?」

 だから、俺の心を読むなって……。

「だって、きこえるんだもん……」

 ちょっと頬を膨らませて拗ねるハニエル。その頰を軽く指で押すと、ふしゅーっと空気が抜けて萎む。

「で? 俺は、どんな魔法が使えるんだ?」

「………わかんない」

 はぁ……そう来たか。

「……じゃあ、ハルはどんな魔法が使えるんだ?」

「…ぼくは、おみずだせるよ!」

 落ち込み掛けたハニエルが、途端に元気になって腕を上げ人差し指を立てた。その指を視ていると、立てた指先の上に小さな雫が出来て、あっと言う間にピンポン玉位の大きさになった。

「アシャ、くちあけて!」

 謂われた通り、口を開けると水の玉を放り込まれた。

「みず、のみたいって、言ってたでしょ?」

 覚えてたんだ…口を閉じて軽く潰す様にすると簡単に普通の水になって喉を流れ落ちた。

 ほんの少しだけ甘かった。

「…ん、ありがとな」

 礼を言うとハニエルは嬉しそうに笑う。

 魔法を出すとき、何か言ったりしなくてもいいんだな。

 呪文みたいなものを謂えっ、とか謂われたら恥ずかしくて無理だ。俺にはハードルが高すぎる。

「…あのね……ぼく、まだ、まほうをならってないんだ…」

 成る程、教えたくても教えられないのか。

「……俺が、魔法の使い方を知っているって言うのは…どういう事?」

 確か、俺が水を飲みたいとぼやいた時、そんな事を言っていた。

「アシャとぼくは、一つになったから…ぼくがつかえる
まほうは、アシャもつかえると思って……」

「─ああ、ハルが水を出せるから…俺も出せると思った訳だ…」

 自分の人差し指を顔の前に立てて、さっきハニエルがした様にイメージする。

 指先に…何かが集まる様な感覚がして、あっさりと水の玉が出来た。

「すごいっ! アシャ!」

 ハニエルがめっちゃ褒めてくれた。 

 以外と簡単に出来そうな気がして来たな。

 とは謂え、闇雲に練習して魔力を消費しても駄目だよな。今、一番必要なのは……やっぱり回復魔法だよなぁ……。動けないんじゃ、話になら無い…。

 ゲームとかなら…魔法の属性なんかがあって、使えるものや使えないものがあったりするけど……。

 ステータスが観れれば良いのに。鑑定とか索敵とか空間魔法とかあれば便利だ。

 そう謂えば、秀麗騎士団物語に魔法とか出て来てたよ
な。ハニエルが、何回も繰り返し読んでいたお陰で内容もしっかり頭にある。

 ハニエルに与えられた本はアレしかない。内容をちゃんと理解出来ていたかは怪しいが…其れでも、他に無いから暗記する程何度も読んだんだろうな。

「よくわかんなかったけど…アシャのなかみたら、こういうことだったんだぁ、ってわかった!」

 やめろ! 俺の性事情を暴くな! 恥ずかし過ぎるだろ!

 考えている事が筒抜けなのは困るな…。

「……だって、アシャと一つになったんだもん」

 ハニエルが不貞腐れてる。

「なぁ、俺と一つになったって何回も言うけど…どういう事?」

 ちょっと、引っ掛かってたんだよなぁ。憑依しちゃったとは謂え、俺とハニエル、魂は二つだろ?

「?だって、アシャとぼく、くっついちゃてはなれなくなったでしょ?」

 ───くっついた? 離れない?

「ふたつでも、くっついちゃったら、ひとつでしょ?」

 当たり前でしょ? と謂わんばかりのハニエル。

「……今だけ、何だよな……? ハルの躰が元気になれば、俺は離れるんだろ……?」

 俺は、他人の躰に入って迄生きたいとは思っていない。

 短い人生ではあったけど…俺自身の生は終わったのだから、其れなら静かに眠るなり消えるなりしたい。

「げんきになっても…きえるのは、ぼくだよ……」

「何でだよ?」

「だって──」

 ハニエルは、急に立ち上がって俺の目の前に来た。

「アシャは、すけてないのに、ぼくは、こんなだよ?」

「っ!?」

 ハニエルは両手を広げてくるりと廻って見せた。

 透けた肩に…手を延ばし触れる。何だか、馴染むと謂うか…しっくり来ると謂うか……懐かしい? ほっとする? いや、自分の一部みたいな感じ?

 俺が無意識にハニエルの肩やら腕やらをペタペタと触っていると、ハニエルは、抱っこを強請るように首に腕を回して来たので…そのまま胡座の上に乗せるように抱っこする。

「ふふふっ。だっこされるの、ひさしぶり…うれしい…!」

 そんな事を謂って、ぎゅうっと抱きついて来る小さな躰を抱き締める。

 ──ずっと、寂しくて、不安で、怖かったよな。

 是迄のハニエルを想うと……胸が痛む……。微かに震える背中を擦りながらハニエルが満足するまで抱き締めた。

 こうしてハニエルを抱いていると、一体感がすごい。

 やっぱり、アレのせいだよな。俺の腹にハニエルがずぶずぶ沈んで二人でマーブル状に溶け合ったせいだよな。

 夢だと思っていたけど…夢じゃないのだとしたら……。

 ハニエルは、あの黒い場所では躰がないのだと言った。

 だとしたら…精神…要は魂だけの空間。そこで、ハニエルとあんな風に混ざって溶け合ったのなら……それは──


 魂の融合。


 そうなると…憑依とはちょっと違って来る。

 俺とハニエルでひとつの魂。二人でひとつの人格。いや二重人格の方がしっくり来るか……。

 何で、こんな…おかしな事になったのか……。

 だったら…今は弱っているハニエルの問題を解消して、その後はハニエルに主動権を返して…俺はハニエルの中で眠ればいいか。うん、それがいい。

「ハル、聴いてたよな?」

 俺の心の声が筒抜けのハニエルに問い掛ける。

「……うん」

 俺に抱きついたままのハニエルが頷いた。

「俺は、ハルが置かれてる状況を解消したら、お前の中で眠る事にするよ」

「……かあさまとにいさまに…会える…?」

 ハニエルは顔を上げて縋る様に俺を視る。

「……そうだな……その二人がどんな状況か解らないけど、この屋敷に居るのなら……会えるさ」

 まさかあの父親とぐるな訳は無いと思う…。ハニエルにはあの二人を盾に脅していたしな。

「取り敢えず躰に戻してくれ」

「うん」

 ハニエルが頷くと同時に、また眠気が襲って来て、気づくとハニエルの躰の中だった。

 相変わらず酷い痛みと怠さに顔が歪む。

 この怪我は、ハニエルの記憶によると出来たてほやほやだ。前に付けた傷が、治り切る頃に現れて鞭打って行く。しかも…全部服に隠れる場所だけに、傷を負わせる。虐待する奴らがよくやる手口だ。腹立だしい。

 今回は、父親の機嫌が悪かったのか、いつもより執拗に打たれている。

 はっきり言って、ハニエルが死ななかったのが不思議な位だ。

 こんな状況で、頼みの綱は使えるかどうかも解らない俺の魔法だけ。

「ステータスが視たいな…」

 必死に昔やったゲームのステータス画面を思い出そうとしたが、どのゲームも良く覚えていない。

 知りたい項目を自分で決めたらいいのか……?

 そうだな…先ず体力と魔力の数値化したものは絶対欲しい。ゲームだってこれは絶対だろ。あとは自分が使える魔法とか属性とかスキル? も有るのかな……? それと状態も知りたいよな。病気とか呪いとか憑依されてるとか? ゲームによっては、力とか俊敏さとか色々細かく数値化したものがあったけれど……それを知ったとしても俺が活用出来る気が、全くしない。あー、レベルが有るならそれも欲しいな、成長の目安にもなるし……。

 大体、こんな所か。あとはイメージしながら強く念じてみるだけ。

 ステータス出ろ、ステータス出ろ、出ろ出ろ出ろ出ろステータス出ろ!

 心の中で呪文の様に念じる。念じる。念じる。

 ───出て来ない……。

「……無理なのか……?」

『──ステータス、オープン!』

 俺が諦めかけた時、ハニエルの元気な声が頭に響いた。

 ピコン、という如何にもゲームぽい音と共にホログラムみたいな画面が目の前に現れた。

 …………マジか………。

「おおっ!? ハニエル!! デカした!!」

『えへん!』



 ハニエル・キディリガン  (7歳)
 
   キディリガン辺境伯爵家 次男

 アシャレント  (27歳)

   魂魄融合者 界渡り人
 
 状 態  瀕死 裂傷多数 臓器損傷 打撲
      外傷による発熱 栄養不足による衰弱
      アシャレントの護りにより状態維持
      魂魄融合(不完全)

 レベル  9


 体 力  54/584

 魔 力  6490/12160

 魔 法  火 水 風 空間 無

 スキル  物理耐性 痛覚耐性 精神耐性
      記憶領域拡張 開拓者 先導師




 あ、俺の名前おかしな事になってる。って言うか……






 ───回復魔法、持って無いじゃん………。       
























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