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本編
42. 黒猫と一緒
しおりを挟む皆、猫で癒やされたのか、気力を取り戻した。
「こうなってしまったら、仕方がないわ。作戦会議よ!!」
ミーメナは、キディリガン家の皆を集めて力強く宣言した。
元オクシトロン辺境伯のソルマルトも交えて、作戦会議だ。
とは謂っても、場所はいつもの食堂で朝食を取りながらだけど。
「でも、母上。──作戦会議と謂っても…まだ、具体的な金額や何をどうするのか…陛下からは聞かされてないのでしょう?」
シュザークが首を傾げる。
「ええ、そうよ。─でも、陛下と話しを詰めるときに、なるべく我が家の負担を減らすよう、策を練って置きたいのよ」
ミーメナの言葉に全員が頷く。
「─隣国の……トネリコルト国の土地を買うなら、国境が広がりますよね? そうなると…外壁も新たに建造すると謂う事ですか?」
俺が尋ねると、ミーメナが頷いた。
「ええ、そうなるわね」
「国境なんですから、其れは、国が建造するんですよね?」
「勿論よ。其れだけでも、莫大な費用が掛かるわ」
俺は頷いた。
この世界が、こうも俺に…キディリガン家に理不尽な不利益を齎すと謂うのなら……俺だって、チートを使って対処してもいいよな?
「では、外壁の建造を国から請け負って下さい」
皆がざわついた。
「……オクシトロン領を買うだけでも、凄い金額に成るのに……外壁を建造するお金なんて……もっと、ないわよ……?」
「外壁は、俺が魔法で創ります。だから、実質はタダです」
「─成る程ね。外壁の建造資金をオクシトロン領を買うお金と相殺するつもりなんだね?」
シュザークが逸早く、俺の意図を理解した。流石です、兄上。
「そうです。只、魔法であっという間に建造してしまうので、交渉には気を使わないと、買い叩かれるかも知れません……」
「ふむ、人夫賃やら資材費の分を減らされそうだね」
「はい。魔法で建造するとは言わないで、請け負った時点で相殺の金額と手続きを魔法契約で結んでおく必要があります」
《…………》
俺とシュザークが難しい顔でウンウン思案していると、他の皆が黙ってしまっていた。
「最高ですよっ…!! お二人共っ…!!」
そんな中、感極まったように叫んだのは、商人王候補のホワトム。
透明感のある碧い眼をきらきらさせて、頬を紅潮させて俺達を見る。
「その、タダでは起きない不屈の精神っ…!! 最高に痺れますっ…!!」
「そうだな。商人向きだな」
元ヌーケハマー侯爵のアスロークが、微笑みながら頷いた。
「え? 商人は、二人に任せるよ?」
俺は、冒険者としてせっせっと稼ぐから、伯爵家を廻すのは、シュザークの側近として二人に任せたい。
「そうだね、二人に任せて置けば安心だね」
シュザークも一緒になって頷く。
アスロークとホワトムは、最早、キディリガン家には無くてはならない存在になっている。この二人は経営能力がズバ抜けている。
因みに、二人は恋人同士です。挿しつ挿されつしているそうです…。らぶらぶです。幸せそうで何より。
「─いいわ。次に陛下に呼ばれた時は、貴方達にも来てもらうわ。─出来れば、アスローク様にも来て頂きたいのだけれど……良いかしら?」
「「「分かりました」」」
俺達が応えると、ミーメナは、ほっとしたように微笑んだ。
「─何だか、どうにか成りそうな気がして来たわ」
全員で頷き、予想される問題を出し合いながら作戦会議は終わった。
「処で…ハーシャの膝の上で、じっとして居るその黒い猫は……何だい?」
そう、俺の膝の上には、翠色のキューティクルを纏った艶々の黒猫が蹲っている。
ずっと、頭やら背中やらを撫でていたのだ。
「─まさか、ノルフェント殿下じゃないよね?」
シュザークの笑顔の圧が凄い……。
「そうですよ? 猫になる薬を欲しがったので、上げたんですよ? な? ノルフェ」
「ナァ~」
ノルフェントがコクリと頷いた。
因みに、大分前から、ノルフェントのことはノルフェと愛称で呼んでいる。
ノルフェントに、そう呼んで欲しいと言われたからだ。
「そう……無理矢理じゃなければ、良いんだよ」
シュザークは小さく溜め息を吐いた。
無理矢理だなんて、失礼な。
今朝、ノルフェントを腕に抱いたまま目覚めたら、ノルフェントが顔を合わせないまま、なんで猫になっていたのか聴いてきた。猫の薬を出して見せたら奪われて、ノルフェントが飲んでしまったのだ。
美麗な黒猫になってしまったので、其のまま……もふり倒した。
其の後は、くったりとなったノルフェントを抱えて歩いていたのだ。
ニャン、ニャン鳴いて、目茶苦茶可愛かった。
「此れから、オオシャールのダンジョンに行くけど…どうするんだい?」
「勿論、行きます。ノルフェを抱っこして」
「ノルフェント殿下、一日経つか、好きな人にキスをすると戻れますからね」
シュザークがニコリと笑って、黒猫のノルフェントに告げた。
黒猫は、ぴしりと固まった。
「どうした? ノルフェ?」
頭を撫でながら顔を覗き込むと、前足の肉球で額をタシタシと叩かれた。
尻尾は、俺の腕にずっと絡んでいるから、怒ってはいないと思う。
オオシャールのダンジョンでは黒猫を片腕で抱っこしながら魔法を撃ち込みまくり、時々、魔法剣で魔物を切り倒しながら討伐して行く。
昼食の時間は膝の上に乗せて、小さく切った肉や魚、果物を食べさせた。
小用を足しに離れることもあった。黒猫が離れると、温々していた温もりが消えて寂しい。
猫になっても魔法は使えるので、浄化魔法を自分で掛けて戻って来る。
戻って来たら、直ぐ様、取っ捕まえて抱き上げる。
黒猫は嫌がるでもなく大人しくしていて、俺の腕や胸にぴっとりとくっ付いて来る。そんな仕草が可愛くて悶えながら、撫で回す。
シュザークを始め、他の皆は呆れたように俺を見てくるが気にしない。─俺だって、癒やしが欲しいのだ。
ダンジョンから戻って来ても、夕食を摂った後も、ずっと、黒猫を抱いて過ごした。
俺から離れる気も無いようなので、其のまま、俺の部屋に連れて戻った。
部屋と自分と黒猫に、浄化魔法を掛ける。
「ナァ~……」
ノルフェントが何か言ってる。
取り敢えず、夜着に着替えてから黒猫を抱き上げて、ベッドへ入る。
「どうした?」
黒猫の首周りを撫でながら覗き込む。
喉をゴロゴロ鳴らすだけで、何かを訴えたい訳じゃなさそうなので、其の儘、全身を撫で回す。柔らかい腹に顔を埋めて頬擦りする。
「ニャッ…ニャア~……」
ノルフェントの匂いがする。
「──いい匂い……」
「ニィ~……」
困りきったような鳴き声に苦笑する。
全身をマッサージするように撫で回し、黒猫はニャア、ニャア鳴きながら弛緩していった。
「ふふっ……気持ちいいか……?」
「ナァ~……」
力が入らなくて、くったりとしていても…尻尾だけは俺の腕に絡み付いてくる。
もしかしたら、ずっと…寂しかったのだろうか…?
自国から捨てられた…第五王子…。
だけど…スキルを封じた今ならば──国に帰れるんじゃないのか……?
──でも、其れを……口に出して言う気にはなれなかった…。
「──おやすみ、……ノルフェ……」
黒猫の、小さな額にキスをして目を閉じた。
「ミャ……」
黒猫は、前足で額を押さえて顔を隠してしまった。
翌朝、目覚めると……仰向けに眠る俺の上にノルフェントが乗って眠っていた。黒猫ではなく、人の姿で。
まだ…もう少し、黒猫の姿だと思っていたけれど……薬の効果が切れたんだろう。
俺の胸に、片頬を付けて身体に抱き付いて眠るノルフェント。
ぴったりと密着しているお陰で、……ノルフェントが朝勃ちしているのが……分かってしまった。
──だが、そんな事は指摘しないのが男同士のマナーと謂うものだ。ブーメランだからな。
そう謂えば……前にも、俺の上に乗っていたことがあったな。
俺が、抱き上げた訳じゃないよな?
胸を圧迫されて、結構苦しいんだぞ? これ。
乗っている方も、首が固まって痛めてしまう。
魔法でノルフェントの体重を感じなくすると、楽になる。
きっと、このまま目覚めると、ノルフェントが恥ずかしがってしまうから、そっと部屋に戻して置いてやるか。
其のまま、ノルフェントの部屋のベッドに転移する。
誰も寝ていなかったベッドはひんやりとしていて、その感覚に僅かに身震いした。
布団を被って、魔法で暖める。
「ぁ……っ……」
何やら、色っぽい声を漏らすノルフェント。
起こさないように、そっと…俺に絡みつく腕を外ずして、仰向けにベッドに寝かせる。
ノルフェントの長いまつ毛が、僅かに震えた。
「──まだ…寝てろ……」
囁くと、……眠りに落ちていった。
其れを見届けてから、自分の部屋へと転移した。
それから暫く経って、陛下から呼び出しが懸かった。
当初の予定通り、ミーメナ、シュザーク、アスローク、俺の四人で王宮に向かった。
連れて来られたのは、国王陛下の執務室。
部屋には、国王陛下と顔付きの厳しい宰相閣下、陛下の側近であるダリダラント公爵…イグディス叔父上だ。そして、ランドラーク王太子殿下もいらっしゃる。
俺もシュザークも、本来の姿でここに来た。
ランドラーク殿下を老けさせて、もっと厳しい顔付きにしたような国王陛下は、俺達を見て驚いていた。そして、深く溜め息を吐いた。……何故?
「よく来た、キディリガン辺境伯。─お前の息子達はわかるが……何故、ヌーケハマー元侯爵が?」
「はい。アスローク様には、私の側近として…お力をお貸し頂いております」
ミーメナが応えると、陛下は目を眇めてアスロークを見た。
「──そうなのか? アスローク」
「はっ、ミーメナ様には、平民となった息子共々…大変お世話になっております」
「─そうか…。離縁したのなら、王宮に欲しかったのだが……先を越されたな」
陛下は苦笑した。
「勿体ないお言葉、痛み入ります」
交渉は、予め打ち合わせてあるので、ミーメナとアスロークに任せてある。
俺とシュザークが前に出てしまうと、後々面倒な気がしたからだ。
実際、荒れ地の開発なんかも、アスロークとホワトムに全権を渡している。彼等が領内を仕切ってくれているお陰で、俺達はダンジョンに行って稼ぐことが出来ている。
こちらの思惑通り、オクシトロン領の買掛金と外壁の建造を請け負って、相殺することに成功した。
流石、アスローク。
外壁の建造費の見積もりも、ちゃんと出来ていたらしいので、其の見積もり金額の、一割引きで請け負ったのだ。
オクシトロン領は、宰相がトネリコルト国から、かなり、買い叩いたらしい。外壁建造費と相殺することで、我が家の負う借金をチャラにすることが出来た。
オクシトロン領に残っている領民は、トネリコルト国が責任を持って退去させるらしい。
オクシトロン領を収める為に、元オクシトロン辺境伯のソルマルトをキディリガン辺境伯の臣従として、男爵を与えるそうだ。
ソルマルトは、領主では無くなったにも関わらず、元領民の為に頑張っている人だ。良い人過ぎるのが玉に瑕だな。アスロークやホワトム位の強かさがないと、頼ってくるものや、悪意の有るものに、食い潰されてしまうだろう。恐らく、追い出された元自領民を受け入れそうだよな。領民も必要だから、其れはそれで、良いんだけどな。
取り敢えず、阿保みたいな金額の借金を背負わずに済みそうで良かった。
最悪の場合は、秘蔵の天空鳥が有るけれど、まだ売るには早い気がする。
考えてみれば、最初の狩りで天空鳥を二体も狩れたのは、かなり、幸運だったな。
只……空をずっと飛び続けているだけの天空鳥を狩るのは、今更だけど、かなり、罪悪感を感じるんだよな……。
だから、天空鳥は二度と狩らない。ダンジョンの魔物で、十分だ。
そんな事を考えている内に、交渉は終わった。
一先ずは、安心して良さそうだ。
最後に一つだけ、陛下がおかしな事を仰った。
「キディリガン辺境伯。其方の息子達は、どちらも頗る優秀らしいな? 此れならば、どちらが跡を継いでも安心だな」
何故? 嫡男は、シュザークと決まっている。其処に、俺という選択肢は無い筈だ。
ただの社交辞令の様なものだよな……? 別に、深い意味は無いよな……?
陛下のその言葉に、何となく引っ掛かりを覚えながら、キディリガン家に転移して帰った。
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