7 / 49
僕の世界には (草花谷 由良茶)
07. 悪夢
しおりを挟む翌日、僕が自分の部屋に戻れたのは、お昼をだいぶ過ぎてからだ。
朝、目が覚めるとお母さんが僕にご褒美をくれていた。だから、お礼もする。
一緒にお昼ご飯を食べて、連絡先を交換させられて別れる。お小遣いもくれた。
帰りの道は人がたくさんいて凄く怖い。
何度も上所くんに連絡しそうになったけど我慢する。
なるべく人の少ない場所を選びながら帰って来たから随分と遠回りをすることになってしまい、部屋に着いた時にはヘトヘトだった。
ヘトヘトなのは遠回りをしたせいだけじゃないけど。
制服から部屋着に着替えてベッドに倒れ込むと、あっと言う間に眠りに落ちた。
夢の中、お母さんの声がする。
ゆらくん、ゆらくん。
ゆらくんはお母さんのものよ。
お父さんの怒鳴り声がする。
お前達っ! 何をしているっ……!?
ゆらくんが無理矢理っ……!
お母さんが僕のせいにする。
お父さんに殴られる。蹴られる。叩かれる。
ごめんね、ごめんね、ゆらくん。
痛かったよね。
我慢したご褒美あげるね。
お母さんが謝ってくれる。
ご褒美を貰った。
ゆら、ゆら、ごめんなっ……お前は何も悪くなかったのにっ!
お父さんが泣いて謝る。
お父さんにも……ご褒美、くれるか?
お父さんにもご褒美をあげる。
ゆら、ゆら、可愛いな。良い子だ。
ゆらにもお礼をしなくちゃな。
お父さんにお礼を貰う。
ハハハッ! ゆら、すっかりオンナの顔だな?
ゆらは欲張りだな。
ゆら。悪いんだけど、この人にご褒美をあげてくれないか?
ご褒美をあげてくれると、お父さんが凄く助かるんだ。
――――うん…………
お父さんが連れてきた人は、とても怖いオジサンだった。
オジサンは直ぐに僕を殴る。
凄く痛い。
ほら、ごほーびくれよ。
ハッ、どんだけ仕込まれてんだよっ……すげえ、上手いじゃないかっ!
ほらっ、これも好きだろっ!
ハハハッ、男のくせにオンナの顔でヨガりやがってっ!
ド淫乱だなッ……!
ほらっ、ケツが緩んできたぞ!
もっと締めろっ!
オジサンは、そう言って僕を殴る。
殴ると締まりがよくなるんだって。
首を絞められた。
苦しい、苦しい、苦しいっ!
オジサンが言っていることがわからない。
オジサンに、ご褒美をあげるのはイヤだ。
僕は、お父さんに泣いてイヤだと言った。
お父さんは、僕にご褒美をくれながら優しく言う。
ごめんな、ゆら。痛かったな。
でも、お父さんの為にもうちょっと我慢してくれ。
我慢してくれたら、お父さんがいっぱい優しくご褒美をあげるから……な?
ゆらの気持ちいいところ、いっぱい可愛がってやるからな。
嬉しいだろ? ゆら?
ゆらくん、嬉しいでしょう?
喜べよ。こうされるのが好きなんだろ?
――――うん…………ありがとう…………
僕は…………
僕は……
僕は。
ご褒美なんて、
大っっっ嫌いだっっっ!
「ご褒美なんて、大っっっ嫌いだっっっ……!」
魘されて、ガバリと身体を起こして叫んだ。
「お、おう……」
ベッドの横に驚いた顔をした上所くんがいた。
もしかして、彼もご褒美が欲しいと言うんだろうか。
「も、もうっ……ご褒美はあげないっっ……!」
彼に向かって、初めて本心を口にした。
「……おう。ご褒美は要らない」
思ってもいなかった答えが返ってきた。
「ご褒美は……要らない……?」
「要らない」
信じられなくてもう一度訊いてしまう。
上所くんは、はっきりと要らないと言う。
「――ご褒美は、あげなくてもいいの……?」
「あげたくないなら、あげなくていいだろ」
「ご褒美を貰わなくても、怒らない?」
「ご褒美を貰えなくて怒るのは子供ぐらいだぞ」
上所くんは迷いなく、はっきりと言い切る。
僕は彼をまじまじと見詰めた。
上所くんになら、わからないことを訊いてもはっきりと教えてくれる気がして尋ねる。
「――ご褒美は、喜ばなくちゃいけないの?」
彼は、少し考え込んだ。
「う~ん、貰って嬉しくないものもあるからな。場合によるな。取り敢えず、ありがとうの一言で済ませるかな。喜ぶ、喜ばないは貰った奴の勝手だろ」
「ご褒美は、絶対貰わなくちゃダメなの?」
「ん? 強要されるってことか? 貰っておいて誰かに渡すとかはダメなのか」
「……物じゃないから」
「物じゃないのか。具体的には何を貰いたくないんだ?」
「……セックス」
「…………」
上所くんは、黙り込んでしまった。そして。
「それは、はっきりと断れ」
彼は断言した。
断ってもいいの?
喜ばなくていいの?
お礼をしなくてもいいの?
僕は、今までわからなかったことを彼に尋ねる。
断れ。
喜ばなくていい。
礼なんかするな。
彼から返ってきた言葉は簡潔で分かり易かった。
「それが、普通のこと……?」
「……普通だろ」
漸く、はっきりとした答えを貰えた気分だった。
じっと上所くんを見る僕に、彼はティッシュボックスを渡してくる。
僕はずっと泣いていた。
「飯、作ったから。落ち着いたら食いに来いよ」
上所くんは、それだけ言うと部屋を出て行く。
昨日の夕方から、ずっと連絡を入れていなかったから心配して様子を見に来てくれたのかな。
合い鍵を渡しておいて良かった。
僕は、はなをかんで顔を洗ってから彼の部屋へ行く。
上所くんは僕が来るまで待っていてくれたみたい。
いつも通りに食事を始める。
上所くんは、特に何も言ってくることはなかった。
僕には、それが心地良い。
テレビの音だけが鳴るなか、二人で黙々とご飯を食べた。
下校の時間が来た。
また、あの女子が一緒に帰ろうと言ってくるのかと思ったら来なかった。
不思議に思いながらも上所くんと一緒に帰る。
それでも追って来るのかと思って辺りをキョロキョロしていると、上所くんに声を掛けられた。
「どうかした?」
「あ、今日は、女子が来ないんだなと思って……」
「ああ、もう来ないよ」
上所くんを見て首を傾げる。
「告られたけど断ったから、もう来ない」
彼の言葉に首を更に傾げる。
「コクるって?」
上所くんは小さく溜め息を吐きながら歩き出す。その後を付いていくと、ポツリポツリと説明してくれた。
好きな子に『好きだ』と伝えることが告白するってこと。
告白を短くして話すときに『告る』と言うこと。
告った相手が頷いたら恋人になること。
恋人になることを『付き合う』って言うこと。
上所くんの説明は簡潔でとても分かり易い。
彼が女子から告白されて断ったから、もう来ないと云うことみたい。
女子の絡みに困っていた僕は、もう来ないと言われてほっとした。
45
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる