穢れても壊れても君がいい

夢線香

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永遠を共にするのは (専心)

44. 予期せぬ来訪者

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 由良茶と二人寄り添って、俺達は静かに眠っていた。

 どれほどの月日が流れたのか、何度季節を巡ったのか分からなかったし、どうでも良かった。

 ただ、由良茶が俺の傍にいればいい。

 それだけで満足だ。

 由良茶と会話を交わすことなどもうない。

 話すことは尽きてしまった。

 話などしなくても一緒にいる。

 静かで穏やかな時間。

 

 そんな平穏な時間をぶち壊す者が現れた。


「もしもし。もしも~し、起きてくださ~い」


 小さな石の扉を叩く音。

 もしもし、もしもし、と煩く騒ぐ者。

 声は少し高めで男性のようだ。


「な、なに……?」


 久し振りに由良茶が声を発する。

 実際は喋っているのかどうかは怪しい。

 何しろ俺達は丸い球体のボディだから、言葉を喋っているのかどうかは疑問だ。

 それでも話しはできている。

 由良茶は丸い身体をふにゅ~っと俺に押し付けながら怯える。


「大丈夫だ、由良茶。無視しよう」


 俺も由良茶に身を寄せて宥める。


「もしも~し。大事なお話しがあるんですよ~。起きてくださ~い」


 外の奴は扉をコツコツと叩きながら呼び掛けるのをやめない。

 暫く放置してみても呼び掛け続ける。


「専心くん……」

「しつこいな」


 由良茶が益々脅えて俺に擦り寄る。

 今まで偶に住職が読経を上げに来る以外、誰一人として訪れることがなかったのに、突然声を掛けられても怪しいだけだ。


「ちょっと、起きてるんでしょう!? いい加減に出て来てくださいよ!」


 外の奴もだんだん痺れを切らして扉を叩くテンポが速くなる。

 どうしたものかと悩んでいるうちに相手が更に叫ぶ。


「大事な話しがあるって言ってるでしょうがっ。早く出て来てくださいよっ!」


 諦める気のない相手に溜め息を吐きながら俺は扉の側に寄った。

 由良茶が俺の後ろにくっ付いて来る。


「――――どなた様? 大事な話しって?」

「ハァ、やっと返事してくれましたか。おお、そう云えば名乗るのを忘れておりましたね。私、死神です」

「お帰りください」


 死神だと聞いておかしい奴だと判断する。即、追い返そうとした。

 すると、外の奴が慌て出す。


「ちょっと、ちょっとっ。ちゃんと話を聞いてくださいよっ。死神ってだけで警戒しないでください!」

「もう死んでるんだから死神はいりません」

「ちょっ……死神を誤解してませんか!?」


 外の奴は更に慌てて、滾々こんこんと死神について説明を始めた。

 外の奴が云うには、魂を刈り取るのが死神じゃないと言う。

 死んで抜け出た魂をしかるべき場所に案内するのが役目らしい。

 然るべき場所と云うのは、云ってしまえば天国とか地獄のこと。


「え、別に行きたくないから放っておいてください。お疲れ様でした」


 丁寧にお断りすると外の奴が喰い下がる。


「いやいや、そんな我が儘は困りますよ~。いつまでも現世にいられても困るんです。悪霊になっちゃいますよ?」

「悪霊になればどうなるの?」


 尋ね返すと説明を始める。

 いつまでも現世にいると自我もなくなり、一つの感情だけになってしまうそうだ。

 そして生きてる人間に悪い影響を及ぼすのだと言う。


「あなた達、どう云う理由か百年近くも放置状態だったのでそろそろ危ないんですよ!」


 百年近く……もうそんなに時間が経っていたのか。

 俺は由良茶を振り返ってじっくりと見る。

 別に悪霊みたいな禍々しさはないし、平気そうに見える。


「別になんの変化もないけど」

「え、そんな理由ないでしょう。確認の為にも扉を開けてくださいよ」

「調子いいこと言って、出たら捕まえる気だろ」

「そんなことしませんよっ!」


 俺は悩んだ。

 由良茶が悪霊になるのはイヤだ。俺も当然イヤだ。

 だからと言ってもし由良茶と行き先が違ったりしたらイヤだし、二人だけでいられなくなるかも知れない。


「兎に角、一度姿を見せてくださいよ。引き離したりしませんからっ、ね?」

「本当に……? 嘘だったらどうすんの?」

「疑り深いですね……いいでしょう。嘘だった時は、私の存在を差し上げます」

「は? いりません」


 咄嗟に突き返していた。

 知らない奴を貰っても困る。面倒見ろってことだろ。

 外の奴が地団駄を踏んで暴れている気配がする。

 どうやら、外の奴にとって自分の存在と云うのは命を差し出す事と同義らしい。


「命を賭けるって、益々怪しいんだけど。嘘くさい」

「もう~~……お願いしますよ……こっちも仕事なんですよ。悪霊にならなそうなら、もうちょっと様子を見ますからあ~……姿を見せてくださいよ……お願いします~……」

「専心くん……なんだか可哀そう……」


 弱々しく訴え掛ける外の奴に由良茶が同情している。


「本当に俺達を引き離したりしないのか?」

「はい、致しません。私の存在に賭けて」


 俺は仕方がなくそっと扉を細く開いた。

 扉が細く開いてから、手もないのに自分がどうやって扉を開けたのかと云う疑問が頭をちらっと過ぎる。

 細く開いた扉の向こうから黒い鴉が赤い目でこちらを覗き込んで来た。

 俺達が小さいから巨大な鴉に見える。


「おや……おや、おや? 随分とお綺麗ですね」


 鴉が意外そうにボソリと呟く。


「なに基準?」


 鴉の基準で言われても分からん。

 大丈夫そうだと判断して扉を全身が見える程度に開く。


「――なんと、社の中が浄土になっておりますね。……これは驚いた」


 鴉は、くりっくりっと首を右に左に傾げて俺達を眺める。


「ふ~む。これは、御上に相談する必要があるようです。今日のところは帰ります」


 鴉はそう言ってあっさり飛んで行った。


 扉を閉めて由良茶と二人、なんだったんだろうなと無い首を傾げながら元の位置に戻る。


 二人で、ふよよんと身を寄せ合い、


 また静かな眠りへと沈んでいった。




 ほう、これは、これは。

 面白いことになっているね。

 よし、良いだろう。

 連れて行くことにしよう。

 我が眷属の末端に加えてやろう。



 寄り添い合う俺達の上に、突然そんな声が降り掛かる。


 俺達の周辺からまばゆいばかりの七色に輝く白い光が沸き立つように溢れ出し、その輝きの中に俺と由良茶はあっと言う間に呑み込まれてしまった。


 














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