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マティーロ × ラムエル
2. 金の為に
しおりを挟むボロアパートに戻り、買って来たミルクをコップに注いでチョコバーを齧る。
狭い部屋の殆どをシングルサイズのベッドが占領している。ベッドに腰掛けながらスマホを取り出してテレビの放送を眺めた。
ニュースをぼんやりと眺めていると、さっき店主が話していたアルファの話題が出ていた。
続々と集まって来るオメガ達の話題で、インタビューを受けているオメガ達は一様に笑顔で受け答えをしていた。
店主の言う通り、タダで旅行出来て報酬までちゃんと貰えたと喜んでいる。
「は?……マジなのか……?」
やばい話だと思って、本気にしていなかった。
「報酬って、いくらだよ……」
店主に貰った記事の切り抜きを思い出し、ポケットから引っ張り出した。
報酬と書かれていた数字は二千ドル。俺の約三ヶ月分の給料だった。
タダで旅行して、三ヶ月分の給料が手に入るなら行かない方がバカだ。
俺は直ぐに切り抜きに載っている電話番号に電話を掛けた。
慣れた女性の声が出て、淡々と事務的に質問されてそれに答えているうちに話が終わり、知らずに緊張していた身体の力を抜く。
チケットなんかは、全部スマホに送られて来るみたいだ。
スマホをベッドにポイッと投げて寝転がる。
俺は今年で二十八になる。孤児院育ちの俺は、まともに学校に通えていない。
こんな薄汚れた街の工場で働いて、なんとか生計を立てていた。
「別に、アルファなんていらねーけど……」
オメガが一人で生きて行くのは辛い。ヒートさえなければ別にオメガだっていいんだけどな。
治安の悪いこの街では、犯罪なんて当たり前。
俺も何度かレイプされたことがある。
俺の見た目はオメガらしく線が細くて綺麗だと言われることが多い。髪を伸ばしていると女に間違われるから、麦色の髪は短くした。ハッキリとした青い目が魅力的だとほざいていた奴もいたな。背は低過ぎることもなく、でか過ぎることもない。
そんな見た目だから目を付けられ易かった。上手く逃げ切れる時もあれば、捕まることもある。レイプ犯はガラの悪いベータばかりだった。
こんな街にアルファなんている理由がないから当たり前だ。アルファならレイプするまでもなく、オメガの方から群がって行くんだろう。
初めて路地裏の暗がりに引き摺り込まれてレイプされた時は、本当に怖くて悔しくて泣いて、泣いて、精神的にもかなりキツかった。
だけどこの街で生きて行くには、落ち込んでいる暇なんてない。誰も助けちゃくれない。この街から出て行くことも出来ない俺は、生きる為には強くなるしかない。
身体を鍛えて、襲って来た奴は殺すつもりで殴ることに決めた。それでも負けてボコボコにされてレイプされることはあったけど、俺がこいつらを性欲処理に使ってやっているんだと自分に言い聞かせて今までやって来た。
「――――運命の番、か」
そんな、いるかどうかも分からない相手を大金バラ撒いて探すなんて、おめでたいアルファだな……
こんな汚れた俺が希少種アルファの運命な理由はねぇ。しかも、十以上も年下のアルファだ。
金の為に行くだけだ……
心の何処かで僅かに期待している自分を捻じ伏せて、目を閉じる。
いつも寝る時に念じる言葉を心の中で呟く。
――――夢を見ませんように。
クソみたいな悪夢に魘されるのは、ウンザリなんだよ。
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