私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵

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第58話

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 リゼが池でバレットアリゲーターを目撃した。
 この情報は、ギルドにとって喜ぶべきことでは無かった。
 アンチド草を採取した池は、ツキズテ池と呼ばれている。
 小さい池だが、池に月が捨てられたように映ったからだそうで、昔からそう呼ばれていた。

「そもそも、バレットアリゲーターが他の場所から移動してきたとは、考えにくいよな」
「はい。地上での行動は、とても遅いです。他の魔物に襲られる確率が高いですね」
「それに、バレットアリゲーターは群れで行動するしな……」
「そうですね。今回のゴブリンの影響は考えにくいですし――」
「確かに、幾ら地上での行動が不利なバレットアリゲーターでも、ゴブリン数匹に倒されることは無いからな」
「どちらにしろ、調査が必要になりますね」

 アイリは言い終わると、リゼを見る。

「リゼちゃん。ケアリル草のクエストは、このままだと思うけど、ツキズテ池には近付かないでね」
「はい、分かりました」

 リゼは、アイリが自分のことを心配してくれていることが分かっていた。

「とりあえずは――」

 アイリは受付から出ると、ランクBのクエストボードまで行くと、アンチド草のクエストの紙を剥がした。
 バレットアリゲーターの存在を知った今、安易にクエスト受注した冒険者が被害にあわない為だ。
 口頭でバレットアリゲーターのことを受付嬢に伝えたとしても、うっかり伝え忘れることも考えられる為、重要事項についてはクエスト用紙に記載することになっている。
 アンチド草採取のような採取クエストは、冒険者の中でも人気が無い。
 だから早急な対応が必要な訳では無いが、不安の種は早めに対処しておいた方が良いと、アイリは判断したようだ。

「リゼちゃんは、ケアリル草の報酬を用意するわね」
「はい、分かりました」
「時間が掛かるから、少しだけ待っていてね」
「はい」

 リゼが返事をすると、アイリは奥の部屋へと歩いて行った。

「悪かったな」

 シトルがリゼに向かって再度、謝罪の言葉を口にした。

「いえ、そんあことありません。シトルさんのおかげで――私もゴブリン討伐の力になれたと思うと、少しだけ嬉しいです」
「そうか――早く、ランクBに上がって来いよ」
「はい、頑張ります」

 シトルは、爽やかな感じでギルド会館を出て行った。
 リゼはシトルの姿を見ながら「シトルさんって、何をしにギルド会館に来たんだろう?」と、首を傾げた。
 用事があって来たのに、何もせずに去っていったシトルが不思議で仕方なかったのだ。
 そう思っていると、恥ずかしそうにギルド会館の入口からシトルが姿を現した。
 ギルド会館から出て、シトル自身も自分が何をしにギルド会館に来たのかを思い出したようだ。
 リゼも気まずいのか、視線を合わさないようにギルド会館の端の方へと移動した。
 シトルは受付に戻り、レベッカと話を始めた。
 内容までは聞けていないが、今回のゴブリン討伐のクエストについて詳しく聞いていたようだった。

 十数分後、受付に姿を現したアイリにリゼは呼ばれた。

「お待たせ。これが今回のクエストの報酬ね」

 リゼの前に、銀貨と銅貨が置かれた。

「あの――報酬多くないですか?」

 リゼは自分が想像していたよりも多い報酬に戸惑う。

「内訳は――」

 アイリはリゼが採取してきたケアリル草と、アンチド草の内訳をリゼに説明した。

「……あの、アンチド草は、クエストとは関係ないですよね」
「確かにそうね。本当であれば採取内容と違う物を採取してきたら、冒険者にその対象外の草を返却するの。これは同じ間違いをしないように忠告をしていると思ってもらってもいいわね」
「そうなんですか」
「ただし、今回のリゼちゃんはアンチド草と分かって採取して来ているわよね」
「……はい」
「今回のゴブリン討伐クエストで、ケアリル草やアンチド草が不足していると思って採取してきたのよね」
「……はい」
「これだけ大量のアンチド草をリゼちゃんに返却しても、リゼちゃんはアンチド草を廃棄するしか無いわよね」
「そうですね……」

 街の道具屋へ、個人的にアンチド草を売却することは、基本的に出来ない。
 稀に道具屋によっては、売却することも出来るが、二束三文で買い叩かれるだけだ。
 薬剤師と呼ばれる人たちは、定期的に供給して貰えるギルドと提携しているから、個人的に材料を購入することは無い。
 ギルド経由であれば、品質も基準を満たしている物を入手出来るので、薬剤師としても安心出来るからだ。

「ギルドとしては、これだけ大量のアンチド草を廃棄させるのは勿体ないと思っているのよ。だからと言って、クエスト対象であるケアリル草以外に採取したアンチド草を本来であれば、買い取ることはしないの」
「はい……」
「でもね。今回はゴブリン討伐クエストが控えているからこそ、この街の冒険者として、同じ仲間の冒険者を助けようとしたことに免じて、少しだけだけど報酬を支払うことにしたのよ」
「……あの、私が勝手にした事なので、アンチド草の報酬は頂けません」
「リゼちゃん‼」
「はいっ‼」

 語気を強めたアイリに、リゼは大きな声で返事をする。

「労働の対価は貰うべきよ」
「で、でも!」

 リゼは勝手にした事で報酬を貰うことは、ギルドの規則に反することだと知っていたので、納得が出来ていなかったのだ。
 特別扱いされることを嫌う。
 これはリゼの性格だろう。

「ギルドの規則を曲げてまで、報酬を頂くことは出来ません‼」
「リゼちゃん――」

 今迄のように、リゼが納得すると思っていたアイリだったが、リゼの迫力に押されていた。

「アイリ」

 少し向こうで、シトルと話をしていたレベッカが、シトルの所を離れて、リゼとアイリの横に移動してきた。
 リゼとアイリの話し声は、本人たちが思っていたよりも大きく、ギルド会館内に居た冒険者たちから注目されていた。
 レベッカからアイリとリゼは、その事で注意を受けた。
 アイリは軽く笑っていたが、リゼは恥ずかしくて仕方が無かった。
 普段、感情を抑えて行動しているつもりだったから――。
 
「すいません……」

 リゼは俯きながら、レベッカに謝罪した。

「それで、どうしたの?」

 アイリはレベッカに、事情を説明した。
 アンチド草の報酬については、受付長のクリスティーナにも承諾を貰っていること。
 レベッカは腕を組みながら、頷いていた。

「確かにリゼちゃんの言うことにも一理あるわね」
「でも、受付長の承諾も貰っているのよ」
「それはギルド側の意見よね。リゼちゃんは、今回の討伐クエストに参加出来なかったから、力になりたいと思っただけなんでしょう? そうよね、リゼちゃん?」
「はい。報酬を貰うつもりはありませんでした」

 自分の言いたかったことを理解してくれている。
 
「リゼちゃんの行為に甘えても、いいんじゃないの?」
「だけど……」

 アイリにもリゼの気持ちは理解出来たが、どうしてもただ働きに対して納得が出来なかった。
 働いたのであれば、それ相応の対価を貰うのが当たりまえだと思っていただからだ。
 レベッカはアイリの耳元で、何かを囁く。

「それなら……」

 アイリは渋々、納得していた。

「じゃぁ……」

 アイリはリゼの報酬として受付の机に置いてあった銀貨と銅貨を何枚か抜き取る。

「ありがとうございます」

 リゼはアイリに礼を言う。
 一方、礼を言われたアイリは複雑な表情をしていた。

 レベッカは二人の様子を見て、問題無いと判断したのかシトルの元へと戻って行った。
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